「天空の城」に続く、新たな観光名所にしたい!87歳写真家が作った花畑が初公開
兵庫県朝来市にある「天空の城」、竹田城跡。ブームのきっかけを作ったのが同市のアマチュア写真家、吉田利栄さん(87)です。ブームが落ち着き、城跡を訪れる人が減少してきたいま、吉田さんが長年、観光名所にしようと温めてきた、同市と京都府との間にある夜久野(やくの)高原の花畑が2019年9月、初めて公開されました。
花畑は市有地で、広さは約6.4ヘクタール。国道9号から2キロほど入った、車で5分ぐらいの場所にあります。
真ん中に作られた約500メートルの一本道を一番奥まで歩いて振り返ると、うねった大地が広がっていました。道の左側には、真っ白なソバの花畑。右側には、色とりどりのヒャクニチソウやコスモスなどが花を咲かせています。鉄塔、電線、民家といった視界をさえぎるものはほとんどなく、頭上には青い空が広がります。
「ここが一番の撮影ポイントなんですよ」。吉田さんが案内してくれた場所から見ると、一面に広がるソバの花畑と、秋の青空。かれんな白い花に癒やされます。吉田さんは「見渡す限りなだらかな丘陵が広がる景色は、北海道美瑛町にも負けていません」と話します。
高校時代から写真を撮り始めたという吉田さん。兵庫県庁を退職してからは、趣味として写真を撮影していました。そして約12年前、雲海の中にぽっかりと浮かぶ竹田城跡をとらえた写真が新聞に掲載され、テレビや雑誌など多くのメディアで城跡が取り上げられるようになりました。城跡は一躍有名になり、2014年度には約58万人が訪れました。
多くの人が城跡を訪れる中、吉田さんは「この人気はいつまで続くか分からない。竹田城跡以外にも、人が訪れる観光スポットを作った方がよいのではないか」と考えていました。
そこで思いついたのが、30年以上前から四季折々の風景を撮影してきた夜久野高原です。周辺に民家や街灯がなく、遠くまでなだらかな丘陵が続く高原は、何度も撮影に訪れた北海道美瑛町の景色を思わせました。早朝は、地面から高さ1、2メートルの厚みのある霧が立ち込め、幻想的な写真を撮影できます。山すそに広がる真っ黒な火山灰土と、ヒマワリやコスモス、ネギといった花や作物の色とのコントラストは美しく、冬は一面真っ白な雪に覆われます。
「この風景を放っておくのはもったいない。道路を整備して花や木を植えれば、多くの人に来てもらえるのではないか」。そう考えた吉田さんは、2015年ごろから、行政関係者や市民らに夜久野高原で撮影した写真を見せ、土地の活用を呼びかけてきました。
それと同時に、ボランティアで、今回公開された市有地の整備に取り組み始めました。トラクターなどの農機具を自前で用意し、毎日のように畑に通いました。時には地元の人たちの手を借りながら、ヒマワリやコスモス、ソバ、ネギなどの花や作物を育ててきました。
1人での作業や、猛暑の中の草取りなど大変なことも多かったですが、「今やめたら、構想が立ち消えになってしまう。(公開のための)ある程度の見通しを立てたい」と気持ちを奮い立たせてきました。そのかいあって今年、ようやく公開できることとなったのです。
花畑は9月26日から10月14日まで、午前10時から午後3時の間、無料で公開されています。吉田さんによると、多い時は、1日で約150人が訪れるそうです。朝来市の担当者は「将来的には花畑として、観光客を呼べたら」と話します。
周辺も含めた約30ヘクタールの土地は、2019年度から、5年かけて農地や道路などのほ場整備をする行政の事業が進められています。吉田さんによると、市有地には道路の両側に桜の苗木50本を植え、約450メートルの桜のトンネルを作るそうです。
朝来市や吉田さんは、2020年春も、花畑を公開しようと考えています。吉田さんは「この場所は、春は、一面に広がる菜の花と桜とが一緒に撮影できるんですよ。周辺の土地も整備されて広大な農地ができれば、ますます北海道の景色に近づきます」とうれしそうです。また春に夜久野高原を訪れるのが、楽しみになりました。
撮影=筆者(一部提供)