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2019年に85歳で亡くなられたアウシュビッツ生存者とホログラムで現在でもリアルタイムに会話

佐藤仁学術研究員・著述家
生前のエヴァ氏(CANDLESホロコースト博物館提供)

アウシュビッツから奇跡的に生き延びられた双子の姉妹

ホロコースト生存者で双子だったエヴァ・コー氏は1934年にルーマニアで生まれた。そして1944年にアウシュビッツに移送された。双子だった彼女は、アウシュビッツから奇跡的に生き残ることができた。そして39年以上にわたって、アメリカだけでなく全世界の生徒や教育関係者らにホロコーストの体験を語っており、1995年にはインディアナ州テレホートにCANDLESホロコースト博物館を設立。同博物館のCANDLESは「Children of Auschwitz Nazi Deadly Lab Experiments Survivors(アウシュビッツでのナチスによる死の人体実験から生き残った子供)」の略。そして2019年7月に85歳で亡くなられた。

ナチス時代に600万人以上のユダヤ人やロマらが殺害されたホロコースト。その中でもアウシュビッツ絶滅収容所では110万人以上が殺された。さらにアウシュビッツではユダヤ人らを利用した人体実験も行われていた。アウシュビッツで「死の天使」と言われたヨーゼフ・メンゲレ博士の人体実験の標的にされたのが双子だった。優秀なアーリア人種の増殖を目指す研究に勤しんでいたため双子での人体実験を行っていたメンゲレは、例えば双生児出生に関する実験のため、双生児の兄弟姉妹を探し出し、質問を浴びせ、監察結果を詳細な医学調査のカードに記録した。そして殺害し、2つの内臓を比較するための解剖手術を行うなど様々な人体実験を行っていた。

そしてエヴァ氏が設立したCANDLESホロコースト博物館では、ホログラムでエヴァ氏とリアルタイムに会話をすることができる。生前にエヴァ氏が録画していたホログラムで、現在でもリアルタイムにエヴァ氏にホロコースト時代のことを質問すると回答してくれる。地元インディアナ州のメディアでも報じていた。

生存者が死後でもホログラムで伝えるホロコースト

第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。

現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。

あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。

映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みだ。あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えられる。「ホロコースト時代をどう過ごしていたの?」などといった学生や見学者からの質問にホログラム化された生存者がリアルタイムに回答してくれる。アメリカや欧州のホロコースト博物館で導入されている。2012年2月に1人目のホログラムを撮影し、すでに50人以上のホロコースト生存者がホログラムとして当時の様子を伝えている。

エヴァ氏は生前からホロコースト博物館や学校、講演会、メディアなどでホロコースト時代の経験を語り継いできていたが、このように亡くなってからもホログラムで未来永劫ホロコーストの経験を伝えることができる。

▼生前のエヴァ氏

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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