【魔女のレキシ】彼女らはどこから誕生し、どのような歴史をたどり今の世に人気者となったのか?
とんがり帽子に黒衣のローブ、ホウキで空を飛ぶイメージの魔女。
また、現在はそこまでありふれた姿ではないかも知れませんが、少し以前では“かぎ鼻”をした異形の顔で「ヒーッヒッヒ!」と、あやしい釜をかき混ぜる姿も、一般的でした。
ヘンゼルとグレーテルの童話などでは、子どもを食べるおそるべき存在としても描かれています。一方で現在は、アニメやゲームで大人気の存在。
はたして魔女とは、善なのか悪なのか?そもそも世界史にも、その名が実在する存在なのですが、いったいどこから誕生し、どのような過去をたどって現在に至るのでしょうか。
この記事ではそうした変遷を、わかりやすくお伝えしたいと思います。
人々を癒していた魔女の祖先
まだ“魔女”という呼称も存在したか定かではない、はるか昔。彼女らの祖先は薬草の種類や人体の仕組みに豊富な知識を持ち、人々を治療したり癒しを与えたりしていた存在だったと言われています。
あるいは助産師や、産婆さんのような役割りを果たすこともあったと言います。スピリチャル的な側面でも、生まれてくる子どもや、悩みを抱える人々に“おまじない”をして、幸運や健康を祈祷することもあったそうです。
古くは日本でも僧侶や巫女などが、似たような役割りを果たしていた歴史があり、それとイコールではありませんが、どこか近い部分もあると言えるかも知れません。
いずれにしても、何か困ったことがあれば頼られる、その当時の人々からすれば、不思議な力や知恵をもった女性という位置づけでした。
悪魔と同一視の悲劇
現代の視点からすれば“不思議なチカラ”は、神秘的であこがれるイメージもあります。しかし過去ではそうした認識が逆に、悲劇につながる歴史も生んでしまいました。
今より医療や科学も発達していない時代、細菌やウイルスの存在も知られていませんので、おおきな疫病などが流行ると、悪霊や呪いの仕業と考える人が、当時の有識者にさえフツウに存在していました。
そうした超常的なセカイに精通し、操れるとしたら・・という疑いの対象となってしまったのです。あるいは政治家など支配者層が、民衆の不満や恐怖を、だれかのせいにすると都合が良いので、煽ったこともあったでしょう。
またキリスト教の一部など、超常的なチカラをもつのは、ゆいいつ神のみと定義したい宗教もありました。神秘の力をもち人々の尊敬を集める存在は、教義を広める邪魔とみなす神官もいたのです。
そうした様々な利害も後押しすることで“魔の女”という、概念が作り上げられてしまいました。なお魔女の帽子といえば、てっぺんが尖っていますが、それは悪魔の頭に生えた“角”と同等の意味合いがあると、当時はみなされていました。
その先端からアンテナのように悪魔と交信し、災いをもたらす指示を受けているだとか、悪魔の配下となった証に授けられたなどと考えられ、犯罪者がその目印として、とんがり帽を被せられることもありました。
魔女狩りと魔女裁判の恐怖
およそ15~17世紀ごろ、おもにヨーロッパでは前述のように、魔女は迫害の対象となってしまいましたが、そこに迷信や集団ヒステリーが合わさる事で、さらにとんでもない事態につながってしまいます。
“魔女狩り”という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、未知の現象などへの様々な怖れも合わさり、恐慌状態となった民衆は、様々な人を勝手に“魔女認定”し、集団で追い込んで捕まえたり、処刑するといった悲劇が起こりました。
こうなると、もともと不思議なチカラがあると思われていた、いわゆる元々の“魔女”以外にも、勝手にぬれ衣を着せられる事態が横行。
裁判では痣やホクロが「悪魔と契約の印だ!」と言われたり、疑わしい人物を水に放り込み、浮かんでくると「悪魔が脱出の手助けをした」と判断されるなど、無茶苦茶な認定も行われたと伝わります。
こうした行為については、さすがに「おかしいのでは」と考える人も存在したと思われますが、うかつに擁護すれば、自身がどのような目に合わされるか分かりません。おそらく歯止めをかけたくても、そっと口を塞ぐしかなかったのかも知れません。
物語の存在となった魔女
それから時はながれ19世紀以降になると科学も発達し、魔女の実在を本気で信じる人は少数となり、やがて物語上で語られる存在となって行きました。とくに児童向けの絵本やディズニー作品などでは、定番の登場キャラクターに。
毒リンゴをつくる白雪姫の"まま母"のように悪役ポジションも多い一方、オズの魔法使いでは主人公のドロシーを助ける魔女も登場するなど、善の存在として描かれるケースも、珍しくなくなりました。
日本では1960年代に“ひみつのアッコちゃん”や“魔法使いサリー”といったアニメが発表されると、たちまち爆発的な人気に。キラキラ光る魔法ステッキなどが、おもちゃ屋に並び、皆のあこがれとなりました。
いま現在も大人気の“プリキュアシリーズ”や”セーラームーン”なども、広い視点で見ればこの流れを汲んでおり、もはや過去の絶対悪どころか、みんなが憧れるヒロインまで、180度の転換。
またハロウィン等で魔女のコスプレをすれば、恐ろしさよりも可愛いファッションとして見る人が、大半でしょう。
名誉挽回という表現が正しいかは分かりませんが、これまでの歴史を振り返ると、何とも不思議です。
もちろん現在の作品でも“悪の魔女”は登場しますが、かつてのように現実の脅威とみなす人は、今やほとんど存在していないでしょう。
現代に息づく古代魔女の息吹
さて、ここまでお伝えした魔女の歴史は、おもに現実から空想の話へと移行しました。
しかし古代に人々を癒していた、魔女の本当の祖先たち、彼女らの経脈はどうなったのでしょうか。
さすがに時が経ちすぎており、実際の系図や、技や知識の伝達については不明な点ばかりですが、今この現代にも“魔女”を名乗る人々が存在するほか、その歴史に関連するフェスティバルがヨーロッパ等に存在しています。
ドイツのハルツ地方で開催される“ヴァルプルギスの夜”というお祭りであったり、ルーマニアでは2011年に魔女を職業として認可。
いかにもそれらしい雰囲気の人から、最古の祖先たちがそうであったように、見た目や服装は一般的ながら、薬草などの草花を育て、人々の助けとなっている方もいます。
なお、いま魔女が人気者となっている背景には、アニメ作品などで日本文化が貢献した部分も、大きいと思われます。
日本の作品は、たとえばモンスターなども、もともとは恐怖のシンボルを指す言葉ですが"ポケットモンスター"のように、親しいキャラクターにするなど、善悪に白黒をつけない部分があります。
古来からの妖怪にしても「いい存在も、悪い存在もいる」と白黒を断定しない視点は、偏った認識や悲劇を生まないためにも、とても大切な価値観と言えるでしょう。
魔女や魔法使いも、この先々にも様々なキャラクターが描かれて行くと思いますが、どのような作品が誕生して行くのか、これからも楽しみです。