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「バイデンは降りるべき」の声、ハリウッドの大物セレブからも

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
バイデン支持者のロブ・ライナーも、撤退をうながすメッセージを投稿(写真:ロイター/アフロ)

 先月下旬のトランプ前大統領とのテレビ討論会以来、民主党支持者の間でも、バイデン現大統領では次の選挙を勝てないのではないかとの不安が高まっている。西海岸時間7日(日)には、長年バイデンを支持し続けてきた映画監督ロブ・ライナーも、ついに撤退をうながすメッセージを投稿した。

 テレビ討論会の後にも民主党の寄付金集めパーティを主催しているライナーは、X(旧・ツイッター)を通じ、「だらだらするのはやめるべき時がきた。犯罪人が勝ってしまったら、私たちの民主主義は失われる。ジョー・バイデンは、敬意、品格、威厳を持って、アメリカのために奉仕してきた。ジョー・バイデンは、今、撤退するべきだ」と主張。その翌朝(現地時間8日)、バイデンが朝番組「Morning Joe」に登場し、しっかりした姿を見せると、「今日の『Morning Joe』で見せたようなジョー・バイデンをこれから毎日、11月5日まで見られるなら、私を含め、降りるべきだと思っている人たちを、黙らせることができるだろう」と、フォローの投稿をした。それでも、別の候補を立てるべきだというライナーの意見が変わったわけではない。

 同じ頃には、映画化された著作を多数持つ人気小説家スティーブン・キングが、「ジョー・バイデンは優れた大統領だ。しかし、彼が愛してやまないアメリカのために、彼は次の選挙に出馬しないと発表するべき時が来た」と、Xに投稿した。ライナーとキングのメッセージには、「いいね」がたくさんついた一方で、反論コメントも非常に多い。民主党支持者の間でも意見が分かれているのは明確だ。

 テレビドラマ「LOST」のクリエイターで、「カウボーイ&エイリアン」、「ワールド・ウォーZ」、「ザ・ハント」などの脚本も手がけたデイモン・リンデロフは、先週、業界サイトDeadline.comに意見記事を寄稿。「投手をまだマウンドに置いておくべきか?それともリリーフ投手に交代させるべきか?」と、民主党の現場を野球の試合に例えた。「討論会での大統領の様子は、がっかりした、不安を掻き立てられた、恐怖を感じたなど、いろんなふうに表現できる。だが、私にとっては単純に試合の流れが変わった瞬間だった。なので、はい、リリーフ投手に交代させよう」。

 前回の選挙でバイデンが勝った時には喜びの涙を流したというリンデロフは、バイデンの大統領としての業績を、高く評価している。その気持ちには何の変わりもない。「私はジョー・バイデンを信じている。だからこそ私たち(夫婦)は、つい2週間にも、多額の寄付の小切手に署名したのだ」というリンデロフは、“リリーフ投手”に代わるまで寄付をやめることを、民主党支持者たちに提案。

「投手のひとりが頑固だからとチーム全体に罰を与えるのは間違っているのだろうか?そうかもしれない。だが、彼が居座ったら、チームみんなが負ける。それは常識だ」、「もう遅いという声もある。9回で、4点差で負けているチームが勝ったことはないと。そういう人たちに、私は、『スポーツ映画を観たことがないのか?』と言いたい」とも、彼は主張する。

 また、前回の大統領選でバイデンのために150万ドル(今日の換算レートで約2億4,000万円)を寄付したNetflixの創設者リード・ヘイスティングスは、「New York Times」へのメールで、「元気のある民主党のリーダーがトランプを打ちまかし、私たちの安全と繁栄を確保してくれるためにも、バイデンは降りるべきだ」と述べている。

キャンペーンの中心にいるカッツェンバーグは沈黙したまま

 一方、バイデンの再選キャンペーンのトップのひとりを務めるジェフリー・カッツェンバーグは、討論会以来、沈黙を続けている。バイデンに多額の寄付をしたハリウッド関係者たちは、そんな彼に厳しい。「ジェフリーはバイデン(の健康状態)について、私たちに嘘をついたのだ。バイデンに最も近しい人たちはみんな嘘をついた」、「裏切られた気持ち」など、多くの関係者は、業界サイトTheWrap.comに対し、匿名で不満をぶちまけている。

 討論会に先立つ先月なかばのロサンゼルスでの派手な資金集めイベントに出席したジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、司会を務めたジミー・キンメルも、口を閉ざしたまま。3,000万ドル(およそ48億円)の寄付金が集まったこのイベントは、大成功と考えられていた。やはりバイデンの熱烈な支持者であるレディ・ガガ、民主党支持者で積極的に政治的発言を行うマーク・ラファロ、マーク・ハミルなども、この件については今のところ何もコメントしていない。

 こんなふうに議論がますます盛んになる中でもバイデンの姿勢に変化はなく、今も変わらず1日に数回、新たな寄付を募るメールやテキストメッセージが送られてくる。西海岸時間8日午前にバイデンの名前で送られてきたメールには、冒頭に「はっきりさせておきます。私は出馬します」と書かれていた。

 大統領候補を正式に指名する民主党全国大会まで、あと6週間。圧倒的に民主党を支持するハリウッドは、その影響力をどう行使していくのだろうか。また、民主党はどこまでそれらの声に耳を傾けるのか。期限はどんどん迫っている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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