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新「イ・イ戦争」となれば、北朝鮮はイランへの軍事支援に乗り出す!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ロウハーニー大統領(当時)と握手を交わす金永南氏(労働新聞から)

 イランの革命防衛隊がレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラに対する軍事行動への報復としてイスラエルに向け約180発のミサイルを発射した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は即刻、「イランは過ちを犯した。その代償を払うことになる」と、報復を示唆し、これに対してイランは攻撃されれば「強力に反撃する」、とイスラエルを牽制していた。

 仮に報復の応酬となれば、局地戦、あるいは全面戦争に発展しかねないが、その場合、両国は国土を接していないことから地上戦ではなく、空中戦の様相を呈することになる。

 この場合、イスラエルは米国から供給された最新戦闘機による空爆という攻撃手段があるが、空軍力が劣勢のイランはハマスやヒズボラ、イエメンのフーシ派同様にミサイルを乱射するしか対抗手段はないようだ。

 「イ・イ」の報復合戦が短期で終われば、イランはミサイル不足を懸念することもないが、仮にウクライナ戦のように長期戦となれば、ロシア同様にイランも第3国からミサイルを調達する必要が生じる。その場合、北朝鮮は間違いなく名乗りを上げるであろう。

 対露武器供給同様に経済的利益を手にできる側面からだけでなく、イランは北朝鮮にとって数少ない友好国、「反米同志国」であるからだ。

 両国は昨年、国交樹立30周年を迎えたが、北朝鮮は1980年9月に勃発したイラン・イラク戦争ではイランを支持し、武器を供給した前歴がある。北朝鮮が「イ・イ戦争」でイランの強力な助っ人となったことは当のイラン自身が認めている。

 イラン最高指導者のハメネイ師は1989年に初めて訪朝し、故・金日成(キム・イルソン)主席と会談したが、5年後の1994年1月に趙明禄(チョ・ミョンノク)空軍司令官(故人)が率いる軍事代表団(総勢29人)がイランを訪問し、テヘランでイラン革命防衛隊との間で密かに「新軍事・核協力強化協定」を交わしていた。

 さらに、金正恩(キム・ジョンウン)前政権下の2012年9月には当時No.2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長(故人)がイラン訪問し、科学技術分野の提携で合意していたが、ハメネイ師は金委員長との会談で「我々には共通の敵国がいる」と発言していた。

 金最高人民会議常任委員長は2017年にも再度イランを訪問したが、この時は軍事顧問団を引き連れていた。約10日間滞在し、ハメネイ師の他にハッサン・ロウハニ大統領(当時)や保守強硬派のアリ・ラリジャニ国会議長(当時)らと相次いで会談したが、金委員長はラリジャニ議長との会談で「ミサイル開発には誰の許可もいらない」と、イランのミサイル開発への支援をあからさまに表明していた。

 北朝鮮はハマスやヒズボラなどイスラエルに抵抗する武装勢力に対しては支持、連帯を表明するもののミサイルなど武器の直接的な支援は控えている。しかし、数少ない伝統的友好国であるシリアやイランに対しては「反イスラエル、反米共同戦線」に立ち、武器の供給だけでなく軍事顧問団の派遣も惜しまない。特にイランとの連帯は国策となっている。

 北朝鮮はイランのイスラム革命防衛隊のコッズ(クドゥス)部隊のカセム・ソレイマニ司令官が2020年1月3日にイラク・バグダッド国際空港近郊で米軍の無人攻撃機で殺害され、イランがその報復として1月8日にイラクにある米軍の拠点に弾道ミサイルによる攻撃を行った時は、イランに戦闘的な連帯を表明していた。

 また、今年4月14日にイランがイスラエルを攻撃した際には翌15日には労働新聞が「イラン、イスラエルに対して報復攻撃を断行」との見出しを掲げ、いち早く人民に情報を伝えていた。北朝鮮がこの種の国際ニュースを迅速に報道するのは異例のことであった。

 記事では「国際世論は理性を失い、戦争政策を狂ったように行うイスラエルユダ復興主義者らとそれを積極的に庇護する米国と西側が中東全体を戦争の火の海に落とそうとしていると憂慮している」と、いつものように対米批判を欠かさなかった。

 「労働新聞」のこの記事が気になったのか、この日、米国務省のマシュー・ミラースポークスマンは記者会見で「我々はイランと北朝鮮の核・ミサイル協力を信じ難いほど憂慮している」と発言していた。

 

 また、同じ日、米国防総省のパット・ライダー報道官は「イランがイスラエル攻撃に北朝鮮の兵器を使用した可能性はあるのか」との質問に「推測できない」と直接的な言及は避けていたが、「北朝鮮とイランがもたらしている危機を我々は深刻に受け止めている」と答えていた。

 イランが4月のイスラエル攻撃で発射した数百発の内、約3分の1は弾道ミサイル(110発)だった。今回使用されたミサイルも地対地弾道ミサイルと伝えられている。前回、ドロンや巡航ミサイルは全て迎撃されるなど効果がなかったことから弾道ミサイルに切り替えたようだ。

 イランからイスラエルまでの距離は最短で約1000kmなので中距離ミサイルでなければ届かない。

 北朝鮮には西側で「ノドン」と呼ばれている中距離弾道ミサイル「火星7号」(1段式、射程距離1300~1500km、液体燃料使用)がある。北朝鮮は「火星7号」を2004年の時点で約200基保有していた。

 「ノドン」の他にも「スカッドER」と呼ばれている中距離弾道ミサイル「火星9号」(1段式、射程距離 1,000km、液体燃料使用)もある。平安北道・東倉里から2017年3月6日にほぼ同時に発射された4発の内、3発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したのはまだ記憶に新しい。

 イラン国営の「プレスTV」によると、4月のイスラエル攻撃時にイランは初めて極超音速ミサイル「ファタ」を使用したが、イスラエルが誇る防空システム「アイアンドーム」で迎撃されなかったと伝えられている。

 極超音速ミサイルについて言うならば、北朝鮮は2013年から開発に着手し、イランよりも2年早い2021年9月に試射を成功させ、「火星8号」と命名している極超音速ミサイルがある。

 アンプル化された液体燃料を使用する「火星8号」はその後、2022年1月5日と11日に2度実験が行われ、速度をマッハ10まで、飛行距離も1000kmまで延ばしていた。

 北朝鮮は2度目の試射では「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は距離600km辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240km旋回軌道を遂行し、1000kmの水域の設定標的に命中した」と伝えていた。目標地点までの数百kmは側面機動しながら低空で飛ぶためレーダーによる捕捉が困難なようだ。

 昨日のイランのイスラエル攻撃に関する北朝鮮の論評はまだ出ていないが、その前日のイスラエルのレバノン攻撃については外務省代弁人が国営通信の記者の質問に「イスラエルとその後見者である米国の組織的な特大型のテロ行為を強く糾弾し、自主権と生存権、領土保全を守るためのアラブ人民の闘争に変わらない支持と連帯を表わす」と答えていた。

 ロシアに砲弾や短距離戦術誘導ミサイル「KN―23」や「KN―24」を売り、イランには中距離弾道ミサイルを売るようになれば、北朝鮮にとっては大きな戦争特需となることは言うまでもない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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