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ドクター・ルースのホロコースト時代を伝えるドキュメンタリーアニメ映画公開

佐藤仁学術研究員・著述家
ドクター・ルース(写真:REX/アフロ)

2019年に日本でも公開された映画「おしえて!ドクター・ルース」で有名になった「ドクター・ルース」の愛称でアメリカや欧州ではお馴染みのセックスセラピストで作家、大学教授やトークショーのホストもやっているルース・ウエストハイマー氏。

90歳を過ぎても精力的に活動しており明るく元気なことで有名なルース氏だが、ルース氏は1928年にドイツで生まれたユダヤ人で第二次世界大戦の時にはホロコーストを生き延びることができた。ルース氏は自身のホロコーストの経験を今までも多く伝えてきた。そのルース氏のホロコースト時代の体験を元にしたショートドキュメンタリーアニメ映画「Ruth: A Little Girl’s Big Journey」が制作され全編が公開された。

このショートドキュメンタリーアニメ映画は映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団がホロコースト教育用に制作。ショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。

▼映画「Ruth: A Little Girl’s Big Journey」

ホロコーストの記憶のデジタル化と増えるアニメでの伝達

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。

様々な形式でホロコーストの記憶や経験の証言が伝えられている。1つはホロコースト生存者自らが証言を語るというパターンで一番よく見かける。他には子供など家族がホロコーストを経験した両親の話を伝えるパターンで、既に他界してしまった生存者の家族が生前に聞いた話を伝えている。またホロコースト生存者自身がホロコーストの経験を思い出したくもなく、動画撮影などで語りたがらないので代わって家族が伝えていることもよくある。他には全くの第三者のナレーターが文書などで書かれたホロコースト生存者の経験や記憶を伝えているパターンもよく見られる。

南カリフォルニア大学では「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼ばれるホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的だ。これはホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みで、あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えてくれる。

南カリフォルニア大学ショア財団では、ホロコースト生存者らのホログラムによる証言のデジタル化だけでなく、このようなドキュメンタリーアニメや映像制作でもホロコーストの記憶や経験を伝えようとしている。ホロコースト生存者らの高齢化が年々進んでいき、体力と記憶力も低下してきている。近い将来にホロコースト生存者もゼロになる。そうなるとホロコースト生存者らの動画やホログラムでの録画はできなくなる。このドキュメンタリーアニメ映画にはドクター・ルース本人も映像で登場しており、ホロコースト時代の記憶と経験からアニメが作られている。今後はこのようなアニメや動画制作によってホロコーストの記憶を伝えていくことがメインになっていくことだろう。

世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

▼映画「おしえて!ドクター・ルース」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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