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霞む「クレイジー」 2連敗で最下位転落/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
頭を下げる選手とスタッフ=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは8月22日、山口市の維新みらいふスタジアムでFC町田ゼルビアと対戦し、0-2で敗れた。今シーズン初の5連戦は1勝4敗と大きく負け越し、最下位に転落した。

明治安田生命J2リーグ第14節◇レノファ山口FC 0-2 FC町田ゼルビア【得点者】町田=小田逸稀(前半14分)、平戸太貴(後半6分)【入場者数】1551人【会場】維新みらいふスタジアム

 5連戦の最終戦は、レノファが負のスパイラルに陥っている理由の見本市のような試合になった。セットプレーから先制され、後半の立ち上がりにも追加点を許して2失点。攻撃では決定機をことごとく逃し、ゴールを引き寄せられなかった。声を出しての応援ができないもどかしさを抱えながらも、勝利を信じてスタジアムに足を運ぶサポーターに、何一つ報いることができない惨敗だった。

縦パスからの展開を狙う

レノファの先発布陣。高と池上がカギを握った
レノファの先発布陣。高と池上がカギを握った

 レノファのスタメンのうち7人は前節のザスパクサツ群馬戦と同じ顔ぶれ。大宮アルディージャに勝利した2節前の試合と比べると、右サイドバックで川井歩が先発した以外は全く同じ選手がスタメンに名を連ねた。 

 連戦とはいえ選手変更は最小限。霜田正浩監督は「一戦必勝で、目の前の試合で勝ち点を取ることに全力を尽くしたほうがいいだろうということで、今日はこのメンバーにした」と話し、中2日の連戦でも戦術の遂行力が高い選手を優先的に起用した。

 とりわけキーマンとなったのが、センターラインを構成する池上丈二と高宇洋、それにセンターFWの小松蓮だ。4-4-2の町田に対して単純な攻撃でサイドにボールを飛ばすのではなく、高から池上や小松にくさびの縦パスを入れ、そこから次の展開を作っていくという狙いが明確にあった。

 ボールの受け手はセンターバックとボランチの間にポジションを取り、パスを受けたあとは相手に挟まれる前に次のプレーに移る――。意図した動きの半分は前半のうちにかなり見ることができた。

小松(左)と高(右から2人目)。縦パスは何度も通った
小松(左)と高(右から2人目)。縦パスは何度も通った

 前半8分には敵陣の中央から高が小松に縦パスを入れると、そこから池上を経由して再び高が回収。右足でグラウンダーのシュートを放った。GKの好セーブに遭い先制とはならなかったが、相手の4-4-2の空隙を突く場面を序盤に作ってみせる。カウンターからもチャンスがあり、レノファが試合の主導権を握りそうな印象がある前半の入り方だった。

 ところが、モメンタムを渡してしまったのが同14分に与えたCKだった。セットプレーでの失点が多いレノファにとって、キッカーの精度が高い町田にはあまり与えたくはないCK。嫌な予感は的中する。

小田(右)のヘディングシュートで町田が先制
小田(右)のヘディングシュートで町田が先制

 町田は最初、左利きの吉尾海夏がボールをセットする。しかし、中の状況を見て寄ってきた平戸太貴にキッカーを交代。平戸が右足でニアサイドにボールを放り、飛び込んだ小田逸稀がマークを振り払ってヘディングシュートをたたき込んだ。これで町田が先制。レノファはまたしてもセットプレーから失点する。

 それでもレノファは高から前線へと展開する攻撃を継続。同21分には高から小松に縦パスを差し込み、小松がはたいたボールから高井和馬が右足でシュートを放つ。だが、これも相手GKの正面に飛んでゴールとはならなかった。その後はシュートチャンスも減っていき、前半を0-1で折り返す。

似たような失点、またも

 ハーフタイムで町田はFWを二人とも交代する。投入したのは岡田優希とセレッソ大阪から育成型期限付き移籍で加入している安藤瑞季だった。

 安藤は1週間前のギラヴァンツ北九州戦で惜敗を喫した際、「監督からピッチ内ではボクサーであれと言われている。アグレッシブにチームを助ける動きはやっていて、チームが救えているかどうかは分からないが、守備に行くことも、前線でキープすることもFWとしての役目。やろうとしていることが少しずつ形になってきている」と強調。質問した町田の記者が「ボクシングのボクサーのことか?」と驚いて聞き返していたが、ランコ・ポポヴィッチ監督からそれほどのアグレッシブさを期待されているファイターが後半のピッチに立った。

後半も高(中央)を軸にボールを動かした
後半も高(中央)を軸にボールを動かした

 対するレノファは選手交代はせず、狙いどころを整理する。前半で無得点だった理由は明白で、高からの縦パスは入っていたものの、その次のプレーがもたついたり、精度を欠いた。

 「前半はけっこう(縦パスを)入れることができたが、一つ付けてから(ゴール前に)侵入していこうというところで失っている場合があった。そこで簡単に失わないで、しっかりとつなぐとか、収める技術は前線の選手に求めたい」

 そう話す高は、後半も前線への供給を意識してゲームに臨む。早い段階で動いたアウェーチームと、継続を優先したホームチーム。内容で上を行くのはホーム側だったが、軍配はアウェー側に上がる。

 後半6分。町田は後半出場組の一人、岡田が左サイドからクロスを入れると、手を挙げてボールを呼び込んだ安藤がDFとのマッチアップを制してパスをつなぎ、最後は平戸が左足を振り抜いた。

 ポポヴィッチ監督の采配がはまった町田がリードを拡大。一方のレノファ守備陣は人数こそ足りていたが、「ディフェンスラインが低かった。そこは自分自身、反省している」(眞鍋旭輝)とずるずるとラインが下がってしまったほか、安藤のポストプレーに対する反応も遅れ、後半の立ち上がりで追加失点を喫した。

「獅子奮迅」の試合を作れ

ヘニキのヘディングシュートもゴールとはならず
ヘニキのヘディングシュートもゴールとはならず

 後半12分にレノファはイウリと森晃太を投入。同25分にはドリブラーの田中パウロ淳一を入れて、攻撃陣を活性化。複数の決定的なチャンスを作るが、ゴールネットを揺らすシーンは訪れなかった。イウリのスルーパスから森が狙ったシュートはブロックに遭い、最終盤にセットプレーの流れからクロスに合わせたヘニキのヘディングシュートはGKの正面。途中出場の河野孝汰も果敢にゴールを狙ったが、やはりGK秋元陽太が立ちはだかった。

 レノファは2連敗。他会場の結果を受け、最下位に転落した。

 チームの課題は明らかだ。集中すべき時間帯に失点し、集中すべきセットプレーで失点した。ただ、失点した場面を抽出すれば、これまでの試合よりも取られ方の質は異なっている。

チャンスはあるが…。全員参加の「迫力」は出せているか
チャンスはあるが…。全員参加の「迫力」は出せているか

 流れの中からの2失点目は交代で入った選手に得点を許したが、逆に言えば先発した選手を抑えることはできた。セットプレーも同じような言い方ができる。相手に与えたCKは失点した1本のみで、FKもしのいだ。失点場面そのものも、キッカーを変更するという通常とは異なるやり方にやられただけだと割り切ってもいいのかもしれない。もちろん失点している以上、スカウティングを含めて突き詰める必要があるのは言うまでもない。修正は地道に続けていくべきだ。

 守備に比べ、やはり重症なのが0得点の攻撃面だ。相手の最終ラインと中盤の間で小松や池上が受け、そこから次の展開を作るという策は、くさびを通すまでは成功した。だが、次の展開を作れなかった。サイドアタッカーとの連係やパスの質などは検証しなければならないが、とはいえ、もっと根本的な問題もあるのではないか。

 今のレノファは、自陣ではボールが止まることなくゆるゆると動き続けている。敵陣に入れば、球離れはスピーディーだが、パススピードに緩急はない。攻撃の活性度というメーターがあるなら、30と70の間を行ったり来たりし、いつの間にかチャンスになり、いつの間にかピンチになっているという感じさえする。メリハリがないのだ。相手にインパクトを与えられる攻撃をするなら、0と100を行き来するくらいの熱量差がいる。

今シーズンのスローガンが書かれた横断幕
今シーズンのスローガンが書かれた横断幕

 100の攻撃に出るためのスイッチをいつ、どのように入れるのか、チームで共有しておきたい。

 「獅子は兎を撃つに全力を用(もち)う」ということわざがある。残念ながら最下位のチームにとってウサギのような相手はいないが、目の前に好機が訪れようとするとき、全力を尽くさねば点は取れない。今年のJ2も手強い。守備にも100、攻撃にも100のエネルギーを注げるチームの基盤作りを進め、次の連戦に備えたい。

 レノファは次戦もホーム戦。8月29日午後7時から、維新みらいふスタジアムでツエーゲン金沢と対戦する。「クレイジー」に戦うことこそが、レノファのアイデンティティーだ。「GO CRAZY」とした今年のスローガンを、自分たちの手で消すわけにはいかない。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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