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芸歴16年目以上の新たな漫才賞『THE SECOND』の必要性と残酷さ、「賞レース飽和」への危惧も

田辺ユウキ芸能ライター
『THE SECOND』にエントリーしたジャルジャル(写真:つのだよしお/アフロ)

芸歴16年目以上を対象とした新たな漫才賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(フジテレビ系)をめぐり、さまざまな意見が飛び交っている。

2月から予選が始まり、5月に決勝トーナメントが開催される同大会。1月19日には出場表明をした芸人たちの名前が発表され、ジャルジャル、ランジャタイ、スーパーマラドーナ、トータルテンボス、かもめんたるなど賞レースで実績を持つコンビや、1990年代に一世を風靡したバラエティ番組『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)で活躍したX-GUN、ミュージシャンとしてヒット曲も飛ばした2丁拳銃といったキャリアを積み重ねたベテラン勢も多数エントリーしている。

爆笑問題・太田光「俺は出ても良いけど。出るからには優勝」

『THE SECOND』出場に興味を示した爆笑問題
『THE SECOND』出場に興味を示した爆笑問題写真:アフロ

1月24日放送のバラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)でも『THE SECOND』のことが話題に。

番組MCをつとめるハライチの岩井勇気は「出ない。審査員がいると誰かの基準に合わせるおもしろさになる。つまんないんだよな、(ネタを)作ってて」と出場意思はまったくないと言い、澤部佑も「やっと『M-1』から卒業できたのに」と賞レースを軸に活動することの大変さを口にした。

この日のゲストの爆笑問題は、太田光が「俺は出ても良いけど、その場を荒らしちゃう。せっかくの大会をぶち壊しちゃうから考え中」「予選で落ちるのも格好悪い。出るからには優勝。出ても良いけど本当に必要な人には(自分たちは)邪魔なのかな」とひとまず静観の構えを見せた。

ハライチや爆笑問題ほどのクラスでも『THE SECOND』に対してコメントが出るということは、結成16年目以上の芸人たちの多くにとって同大会は、私たちお笑いファンが考えている以上にかなり意識されているものだと思われる。

『THE SECOND』はベテラン芸人に「第二」の人生を決断させる?

『M-1グランプリ2021』で最年長優勝を果たし、人生を変えた錦鯉
『M-1グランプリ2021』で最年長優勝を果たし、人生を変えた錦鯉写真:つのだよしお/アフロ

お笑い芸人にとって漫才賞レースの最高峰とされているのが『M-1』だ。

ただ、ある漫才コンビに話を聞いたとき「本当であれば『M-1』のことばかり考えたくない。普段のライブにもっと力を入れたい。でも事務所は『M-1』で結果を出さないと自分たちを商品として棚に並べてくれない。なにより出場資格があるのに『M-1』に出なかったら、まわりから『逃げた』という目で見られたりする。芸人を続けていくにはやっぱり『M-1』で結果を出さなければいけないんです」と苦い現実を明かしてくれた。

『M-1』『キングオブコント』『R-1』『THE W』の大きな賞レースは、現在のお笑い界のランクを形づくるために圧倒的な意味を持つようになった。たとえばバラエティ番組の出演者も、それらの賞のファイナリストが特段多い。「チャンピオン」「ファイナリスト」の称号は一定期間、各所で生かされつづける。

お笑いの仕事はテレビだけではなく、ライブなどもあるので「食っていく」という部分ではやっていけるだろう。ただ先述したコンビは、賞レースでなかなか結果が出せずにキャリアを重ねると「肩身の狭さ」を感じることが増えると話していた。そしてそのまま15年目くらいに達すると、チラつくのは「解散」の二文字。それが現在の漫才コンビのリアルだという。つまり「賞レースで結果が残せない」ということは、「お笑いで生活できるかどうか」以上に、気持ちの面に大きな影響を及ぼすのだ。昨今、中堅からベテランのコンビらの解散が目立つように映るのは、それが理由のひとつなのかもしれない。

その点『THE SECOND』という新たな存在は、本来であればギブアップしていてもおかしくない芸人が浮上できるチャンスでもある。突破しきれない現状を抱えている芸人たちにとっては、またとない機会になるだろう。そこにこの大会の意味や価値がある。

一方で爆発的に売れなくても長年なんとかやりくりしてきた芸人が、この『THE SECOND』に出て結果が振るわず、現実を突きつけられたら……。もしかすると、芸人をあきらめるための最終勧告的な大会になる可能性もある。

『M-1』は若手芸人たちの人生を変えると謳われているが、『THE SECOND』はベテランたちに「第二」の人生を決断させるのではないか。

笑い飯・哲夫「『M-1』を観ていると、仮病を使って休んでいる感覚」

筆者は2021年、『M-1グランプリ2010』王者の笑い飯にインタビューした際、「『M-1』みたいな刺激的な場所を現在も欲しているのか」と質問した。そのとき西田幸治がこのように答えてくれた。

それは劇場だろうが、テレビだろうがどこでもありますね。今『M-1』に出たら敵わないかもしれないけど、後輩に負けたくない気持ちも当然あります。いつまでも「あの人はおもろい」と言われたいですから(Lmaga.jp:2021年11月20日掲載「時代に媚びずに21年、『おもろい』を追求し続ける笑い飯」より

また哲夫は、『M-1』で優勝をしたあと、どこかもやもやする思いがあったという。『M-1』が2010年で一旦幕を閉じ、2011年から『THE MANZAI』がはじまったときのことについて振り返ってくれた。

千鳥、学天即、テンダラーさんとか身近な人たちが(『THE MANZAI』で)頑張っているところを観て、仮病を使って体育の授業を休んでいる気分になりました。そのとき思ったんが「2012年は『THE MANZAI』に出たい」。今でも『M-1』を観ていると、仮病を使って休んでいる感覚があります(Lmaga.jp:同記事

お笑いの賞レースには、芸人にしか得られない特別な刺激があるのだろう。それが売れっ子の芸人が『THE SECOND』に出る理由なのではないか。

たとえばジャルジャルは『キングオブコント2020』で優勝し、『M-1』でも3位が2度、YouTubeでのネタ動画も大好評でカリスマ的な支持をあつめる売れっ子コンビだ。逆に『THE SECOND』で結果が出なかったら、失うものの方が多い。

それでもエントリーするということは、賞レースはある種の中毒性を持っているのではないか。なによりジャルジャルに関しては、『M-1』で獲れなかった「一番おもしろい」という称号をなんとしてでも手にしようとする芸人としてのプライドを感じさせる(それが彼らの格好良い部分でもある)。

『THE SECOND』誕生による、『M-1』などへの影響

SNSなどでは、『THE SECOND』が始まることを危惧するお笑いファンの声も聞こえてくる。なかでも多いのが『M-1』への影響についてだ。

『M-1』は芸歴15年目以下がしのぎをけずり、そこで緊張感が生まれていく。ラストイヤーが近づいて「もう後がない」という焦り、怖さがドラマ性をふくらませる。「『M-1』が終わっても『THE SECOND』があると考えると、あの緊張感がなくなるのではないか」といったお笑いファンの意見も見られた。

また『M-1』は、「いま一番おもしろい漫才師を決める」という考え方がもとにある。もちろんそこには「芸歴15年目以下の」という前提が隠されていたが、触れるのは野暮だった。ただ『THE SECOND』が表立つことで「最強」がふたつにはっきり分かれてしまう。ボクシングの団体別王者のような感覚で、なかなかややこしい状況である。

なにより賞レースがまた増えると、テレビなどのファイナリストの受け皿も飽和がすすむだろう。より一層「ファイナル進出だけでは仕事はそれほど増えない」という状況に陥るかもしれない。ただでさえ現在「ファイナリスト」という称号のテレビ出演者が多いなか、『THE SECOND』の肩書きを持つ芸人が新たに出てくることで、お笑いに対する「食傷ムード」が発生しそうだ。

『THE SECOND』はお笑い界になにをもたらすのか。これからスタートする予選や決勝の行方を追っていきたい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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