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マドン監督解任で露呈した寂しすぎる球団体質!今もエンジェルスは大谷翔平にとって魅力的なのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷選手はゴタゴタ続きのチームをどう見ているのだろうか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【チームの連敗を阻止した大谷選手の価値】

 5月25日のレンジャーズ戦での敗戦から、怒濤の連敗街道に突入してしまったエンジェルスだが、大谷翔平選手の二刀流の活躍で6月3日のレッドソックス戦でなんとか連敗に終止符を打つことができた。

 連敗中は先発投手陣がほぼ総崩れだった中で、大谷選手は自身のシーズン最長に並ぶ7回を投げ、しかも好調レッドソックス打線を4安打1失点に抑える好投を演じた。

 さらに今シーズンのエンジェルスは先制点を許すと6勝22敗と劣勢続きだった中で、先制点を許した直後に自ら逆転2ラン本塁打を放ち、チームに漂うネガティブな雰囲気を払拭してしまったのだ。改めてチームにもたらす二刀流としての大谷選手の価値を再認識させられた試合だった。

 だが連敗は結局チーム史上ワーストの14に達し、その途中でジョー・マドン監督が解任させられるという事態になり、チームが支払った代償は余りに大きかったように思う。

【マドン監督解任の効果はあったのか?】

 シーズン途中での監督解任は、どのチームにとっても相当な荒技だ。それがうまく機能した時は、チームに好影響を与えるカンフル剤になることがある。

 例えば6月7日に解任されたマドン監督より4日前、成績不振を理由にジョー・ジラルディ監督を解任したフィリーズは、監督解任直後から8連勝を飾り、勝率を5割に戻すことに成功している。まさにチームの狙い通りに作用したわけだ。

 だがエンジェルスの場合は連敗を阻止できたものの、解任後もチーム成績は2勝4敗に止まり、今も5カード連続で負け越している状態だ。もちろん主力選手に負傷者が続出している不運な面があるとはいえ、本当にマドン監督を解任する必要性があったのだろうか。

【同じ確執の構図を繰り返す寂しい球団体質】

 そもそも今回の解任劇を受け、長年のエンジェルスを見てきた人間なら「またか…」と落胆したのではないだろうか、以前から続く寂しい球団体質はまったく変わっていないからだ。

 というのも、MLBきっての敏腕記者として知られる、ケン・ローゼンタール記者が解任直後のマドン監督を直撃し、彼の発言をまとめたインタビュー記事(有料サイトでチェック可能)の内容が、ある意味衝撃的だったからだ。

 マドン監督は、今回の解任を決断したペリー・ミナシアンGMとの関係が良好だったとしながらも、フロントからもたらされる情報量が多すぎるとして、情報を軽減するよう求めていたことを明らかにしている。

 つまり豊富なデータを基に戦術を決めていきたいミナシアンGMと、データ以上に試合の流れを見ながら戦術を考えていきたいマドン監督の間で、戦術上の野球観に開きがあったことを意味している。

 この両者の構図は、2015年当時のジェリー・ディポトGM(現マリナーズGM)とマイク・ソーシア監督(2018年シーズン終了後に退任)の間で繰り広げられた確執とまったく一緒なのだ。

 当時はアルテ・モレノ・オーナーがソーシア監督の支援に回ったため、ディポトGMはシーズン途中で退任することになったが、今回はオーナーがミナシアンGMの決断を後押ししたことで、マドン監督が解任されたというわけだ。

【マドン監督招聘はモレノ・オーナーの強い要請だった】

 ディポトGMが去った後はビリー・エプラーGM(現メッツGM)が迎えられ、2018年シーズン終了後にソーシア監督が退任したのを受け、エプラーGMがGM特別補佐としてチームに招聘していたブラッド・オースマス氏を監督に指名し、3年契約を結んだ。

 しかし2019年シーズン終了後に、マドン監督を招聘したいというモレノ・オーナーの強い要請があったことから、オースマス監督を1年で見限り、マドン監督を迎え入れることになったのだ。

 それでもなかなかチーム状況が改善しないと、今度は2020年で契約が満了したエプラーGMとの契約延長を見送り、ミナシアンGMを迎え入れのだが、結果的にマドン監督と歩調を合わせることができなかった。

 如何だろう。ここ数年のエンジェルスは、監督とGMを次々に入れ替え続けているのだ。これでは長期的なビジョンでチームを強化するのは難しいだろう。

【チームのゴタゴタ劇を見守り続けた大谷選手の心境は?】

 大谷選手が2018年にエンジェルスに入団してから監督は4人入れ替わり、GMも2人目だ。MLBで二刀流としてプレーする機会を与えてくれたエプラーGMも、二刀流としての可能性をさらに引き出してくれたマドン監督もいなくなってしまった。

 そんなゴタゴタ劇を内側から見守り続けてきた大谷選手の心境は、一体どんなものなのだろうか。そして昨シーズン終盤に、ポストシーズンを争うヒリヒリするようなシーズンを過ごしたいと思わず本音を漏らした大谷選手こ目に、現在のチームはどのように映っているのだろうか。

 ちなみに長年毎年のようにポストシーズン争いを続けているドジャース、ヤンキース、レイズなどの強豪チームを見ると、大谷選手がMLB入りした2018年から編成責任者と監督のタッグチームはずっと変わっていない。

 来シーズン終了後にFAとなる大谷選手にとって現時点で契約延長していない時点で、エンジェルスに残るのも、チームを去るのも、すべては彼の気持ち次第だ。

 その上でも残りシーズンのエンジェルスの戦い方が、大谷選手が決断する大きなファクターになっていきそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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