円安の原因には、日銀の金融政策の転換を認めぬ岸田政権の意向もあり
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日本経済新聞電子版に、植田日銀、2%へ揺るがぬ信念 確信なら「一気に動く」、というタイトルの記事があり、この記事のなかに気になる箇所があった。
「植田氏は4月の就任直後にある洗礼を受けたとされる。関係者によると、首相官邸を訪れた植田氏に岸田文雄首相はこんな趣旨のけん制を繰り出した。当面は金融政策の転換と受け止められる動きは避けるように――」
個人的に岸田首相が日銀の金融政策をどのようにみているのか。それが日銀の出口政策に向けた大きな課題になっているとみていた。
日銀のトップが変われば、日銀の金融政策の方向性が変わる可能性がある。緩和に強く拘る黒田氏から植田氏に変わって何がどう変わるのか。私自身はあまり植田氏に過度の期待(むろん出口に向けて)は禁物かとみていたが、そのひとつの背景として、いろいろな意味での政治があった。
ただし、岸田政権の日銀に対する意向を示すような記事とかはあまりみかけなかったことから、今回の記事でやっと確認できたような気がする。やはり正常化に向けて大きな壁は物価ではなく政治にあった。
それではどうして昨年12月と今年7月の長期金利コントロールの上限を引き上げたのか。
日銀はこれについては金融政策そのものの修正ではないとしている。その象徴としてあげられるのは公表文の最後にある「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」という、いわゆるガイドラインが修正されていないことにある。
これを修正しないことによって政権に対し、金融政策の転換と受け止められる動きは避けているように示すことができる。ただし、岸田政権にとって物価高とそれを助長しかねない円安がここにきて大きな課題となってきた。
9月19日に西村経済産業相は閣議後会見で、日銀の金融緩和は「時間を買う政策」だとの見解を改めて示した上で、世界的に物価が上昇する中で緩和は「どこかで終了し平常化していく」と述べていた。
どうして政権は緩和修正を認めたくないのか。日経の記事では、実際に政策が大きく変われば、黒田氏の後ろ盾だった故安倍元首相に近い議員と官邸とで溝が生じかねないとあった。西村経済産業相は安倍派である。安倍派から日銀の正常化を容認するような発言も出ていたのである。
ただし、岸田首相は今回の経済対策と合わせて唐突に「減税」を強調していた。これは別の安倍派議員の意向も含まれているのではとの印象を持った。これによってこのタイミングで日銀がさらに動けなくなった可能性がある。これにより、9月22日の金融政策決定会合では、金融政策の現状維持を「全員一致」であっさりと決定したように思われた。
ただし、2日に公表された金融政策決定会合の主な意見では、金融政策の修正に向けて、複数の意見が存在していた。結果として全員一致とはなっていたが、中身は素直に全員がこのままの政策で良いとは考えていないことがむしろ示されていた。
日本の長期金利も0.780%に上昇し、1%まであまり余裕はなくなりつつある。
1日で1%近い変動もあった昔を知っている身として、1%で止まることはむしろ考えづらいし、それが思いのほか早めにやってくる可能性がある。この金利上昇は、あくまでファンダメンタルズとともに、海外の金利動向に影響されての動きであり、投機的な動きではない。
長期金利が1%を付けたらどうするのか。2022年に起きたことをまた繰り返すのか。それともその前に素直にイールドカーブコントロールと円安の大きな要因となっているマイナス金利政策を解除するのか。物価の動向を気にするのであれば、岸田政権もさすがに金融政策の転換、いや、まともな金融政策への転換と受け止められる動きを容認すべきであろう。