欧米の長期金利が上昇、要因は物価高と政局を受けての財政悪化への懸念。日本の長期金利も再上昇
ここにきて欧米の長期金利が再び上昇してきている。そのひとつの要因として物価の高止まりというか、前年比の上昇幅の縮小にブレーキが掛かっていることがあげられる。これによってFRBの利下げ観測の後退により、米長期金利に上昇圧力が加わった。
WTI先物のチャートをみると6月4日に72ドル台を付けてから、こちらも上昇基調となっているなど物価面からも説明は可能となっている。
しかし今回はそれだけでないというか、違う要因による影響も大きく受けている。
米国や英国、ドイツの長期金利は6月10日あたりの水準に戻してきているが、フランスの10年債利回りは昨年10月の水準にまで上昇してきている。
欧州議会選挙の結果を受けて、フランスのマクロン大統領は欧州議会選での極右政党のRNの躍進と与党の劣勢を受けて、国民議会(下院)を解散すると発表した。
投資家はこのマクロン大統領の突然の解散・総選挙決定に不安を抱いた。もし極右政党の国民連合(RN)が勝利すれば、財政政策が放漫になりかねず、赤字を拡大させるリスクがあるとしたのである。フランス版のトラス・ショックを警戒したのである。
6月30日に行われたフランス国民議会総選挙の第1回投票は、マリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合(RN)」が得票率でトップとなった。一部の予想ほどは他の勢力を引き離せなかった。7日に決選投票が実施され、議席が最終確定する。
一時ほどの懸念は後退したものの、政局による財政悪化への懸念がフランスで強まり、それが他の欧州の国債にも伝播した。
さらに米国での大統領候補と予想されるバイデン現大統領とトランプ元大統領のテレビ討論会をうけて、トランプ氏有利かとの見方が、米国の財政拡大への懸念を強めることとなった。
米長期金利は再び上昇トレンド入りとなれば、5月に付けた4.6%の節目も上回る可能性がある。物価がFRBの目標とする2%から上離れた状態が続くとともに、財政悪化への懸念も加われば、長期金利を引き上げる要因が増加する。
これにより対ドルや対ユーロで円安が進むことが予想される。日本でも物価の高止まりが意識されれば、長期金利に上昇圧力が加わる。
日銀は膨れ上がった国債保有残高を縮小しようとしており、さらに物価に応じた利上げも当然予想される。そこに欧米の長期金利の上昇も加わると予想外の日本の長期金利の上昇を招くことも可能性としてはありうる。10年債利回り(長期金利)は5月30日以来の1.100%に上昇してきている。
次回の日銀の金融政策決定会合まで時間はあることで、欧米の状況が変化し長期金利上昇が落ち着く可能性もある。
ただ、長期金利の上昇を嫌って、正常化にブレーキを掛けるとさらなる円安と、それによる物価高も招きかねない。原油価格が上昇していることも気にとめる必要もあろう。
日銀は淡々と正常化を進める必要があり、多少の長期金利の乱高下もそれほど気にする必要はない。
市場は行き過ぎる場合はあるが、それを指値オペで強制的に抑える必要はない。いずれそれは修復される。日銀が無理に指値オペを行うと国債買入減額と相反することとなり、量的緩和強化にも映りかねない。指値オペは手段としても封印することも考える必要があろう。