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名門・東芝の152キロ右腕・宮川 哲が今年のドラフト戦線をリードする

横尾弘一野球ジャーナリスト
東芝の四国大会優勝に貢献した宮川 哲は、着実な実力アップで1位候補と評される。

 社会人野球の名門・東芝で、イキのいい投手が台頭してきた。上武大から入社して2年目の右腕・宮川 哲である。新人だった昨年は、都市対抗での登板はなかったものの、日本選手権準々決勝で先発に抜擢されると、新日鐵住金広畑(現・日本製鉄広畑)を相手に7回まで無失点の好投。8回に3点を奪われてマウンドを譲ったが、自己最速の152キロをマークしたストレートの力強さは強く印象に残った。

 ドラフト指名解禁となる今季は、3月の東京スポニチ大会からマウンドに。リーグ戦第2戦に先発し、1回表に先頭打者本塁打を許すも、その1失点で完投勝利(7回コールド)。日本新薬との決勝でも、6回二死まで完璧な投球を見せた。そこから内野安打をきっかけに制球を乱し、二死満塁から暴投の間に2者に生還されると、さらに適時打で3点目を献上する。この回だけで3暴投と、制球力が課題だと感じたが、プロ球団のスカウトはこう評する。

「低目を狙い、ワンバウンドでもいいと投げ込んだボールが、想定よりもやや手前でバウンドした。それを捕手が捕り切れないのは、独特の回転をしているからでしょう。捕手が止められないボールは、打者も簡単には打てませんよ。今年の上位指名は間違いない」

 まだ春先にもかかわらず、「上位指名は間違いない」とは高い評価だと感じて尋ねると、次のような経緯があると知らされた。

「社会人に来るはずじゃなかった」実力を伸ばして1位候補に

 宮川の将来性は東海大山形高の頃から注目されており、甲子園の土は踏めなかったものの、上武大に進学した直後からマークしていたプロ球団もあったという。1年春からリーグ戦に登板すると、初勝利を挙げた2年秋には、ある社会人チームも声をかけている。だが、3年春にリーグ優勝に貢献し、大学選手権のマウンドにも登ると、宮川がプロ志望だと聞いて手を引いている。そうして、4年時には春秋合わせて9勝を挙げ、最多勝利投手賞とベストナインに輝いた宮川はプロ志望届を提出し、プロ8球団が調査書を送る。

 その際、前出のスカウトの球団は、上武大の谷口英規監督に3位で指名する予定だと伝えた。

「これは伝えませんでしたが、清宮幸太郎(現・北海道日本ハム)ら高校生野手を1位指名して抽選に外れた場合は、宮川君を外れ1位で指名するプランもありました。恐らく、他球団の評価もそれくらいだったと思います」

 では、なぜ宮川の指名はなかったのか。

「言葉で説明するのは難しいのですが、ドラフト独特の“あや”でしょう。2017年のドラフトは、高校生野手を1位指名するかどうか、指名した球団は抽選の結果次第で全体の指名プランが大きく変わった。うちもそのひとつで、どうしても3位までに宮川君を指名できなくなり、のちに上武大には事情の説明に伺いました」

 それだけの実力を認められた投手なら、下位でも指名すればよかったのではないか。

「いい選手を安く獲るのが上手いドラフトという時代は終わった。3位以上の評価をした宮川君を下位で指名するには、契約金や年俸は上位並みにして納得してもらうというやり方もある。だが、総予算を決めた中でドラフト戦略を立てている現在は、そうした指名に踏み切る球団は少ないでしょう。だから、私たちの間で宮川君は“指名されなかった投手”という見方はしていないんです」

 東芝での1年目は制球面でのまとまりを欠き、夏までは本来の力を発揮できなかった。それでも、日本選手権での投球内容、さらに今季の成長ぶりはスカウト陣が想定したものだという。

 最速152キロのストレートと、パワーカーブや縦のスライダーと表現される変化球のコンビネーションは抜群。何より宮川の凄さがわかるのは、対戦した打者が「あんなボールは見たことがない」と口を揃える点だ。優勝に貢献した四国大会では、9回でもストレートの球速、キレともに落ちることなく、スタミナ面でもスカウトを唸らせた。5月19日には都市対抗西関東二次予選が始まる。シビれる雰囲気の中で、宮川がどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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