ドラクエ小説版キャラクター名訴訟、控訴審でも作家側敗訴
ドラゴンクエストの小説版の作家が、映画において主人公名を無断で使用された件で、スクウェア・エニックスや東宝等を著作権侵害等で東京地裁に訴え、敗訴した件について、昨年の12月に記事を書いています(【ドラクエ】キャラクター名は著作物ではないとの判決文公開(想定内))。その控訴審の判決文がちょっと前に公開されていました(しばらく気が付きませんでした)。
一般に、裁判所で判決が出てから裁判所のサイトに掲載されるまでには、数カ月単位で時間がかかることがあります(当事者の個人情報や機密情報の黒塗りの確認等に時間がかかるようです)。そして、裁判所のサイトの掲載は(掲載日順ではなく)判決日順なので、裁判所サイトで「最近の裁判例」で検索すると、最近に公開されたが判決日はちょっと前である判決文を見逃すことになってしまうので注意が必要です。
さて、控訴審も原告敗訴です。この裁判の主な争点は、苦労して創作した主人公の名前が著作物にあたるかということです。
著作権法を習うと最初に教わることの一つとして「著作権は表現を保護するものであってアイデアを保護するものではない」という点(アイディア・表現二分論)があります。広くアイデアや設定(たとえば、敵対する組織に属する男女が恋仲になって葛藤する)が著作権により保護されて特定の人だけが独占できるようになってしまえば、表現の自由が大きく損なわれてしまうので、これは当然です。
とは言え、現実には、どこからどこまでがアイデアでどこからどこまでが表現かははっきりしないことも多く、それが裁判の争点になることもあります(さらに言えば、判決が出ても今ひとつ納得できないようなケースもあります)。たとえば、公衆電話ボックスを金魚水槽にするというコンセプチュアル・アートの著作権が争われたケースの控訴審(関連過去記事)では、「公衆電話ボックスを金魚水槽にする」こと自体はアイデアとして保護されないが、「受話器がハンガ一部から外れ、水中に浮いた状態で、受話部から気泡が発生していることから、電話を掛け、電話先との間で、通話をしている状態がイメージされる、鑑賞者に強い印象を与える表現」の部分が著作物として保護されるという判決になりました。つじつまは合っているようですが、「受話器がハンガ一部から外れ、水中に浮いた状態で、受話部から気泡が発生している」のはアイデアに過ぎないという判決になっても、全然おかしくなかったと思います(個人の感想)。
さて、今回のケースですが、小説の設定が映画に流用されたということはなく、小説版の主人公の名前(「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」、通称「リュカ」)が映画で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」として流用されたことが著作権侵害に相当すると主張されています。そして、地裁判決と同様に、主人公名は「符号」であり著作物に当たらないとして請求棄却となっています(それ以外にも当事者間の契約上の協議義務違反も争点になっていますが省略)。
主人公名が著作物に当たるといったような判決を出してしまえば影響が大きすぎる(未来少年コナンと名探偵コナンはどうなるのといった話になってしまいます)ので、このような判決になってしまうことは当然と言えるでしょう(小説の設定と映画との類似点があれば、アイデアと表現の境界領域で争う余地もあったのかもしれませんが)。とは言え、訴訟に至った経緯を読むと、製作会社はもう少しクリエイターに敬意を払ってもいいんじゃないのという感想は持ってしまいます。