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マドリーのCL3連覇は?モラタ移籍で見える「最強の真実」

小宮良之スポーツライター・小説家
マドリーで存在感を放ちつつある新鋭、アセンシオ(写真:ロイター/アフロ)

 チャンピオンズリーグがチャンピオンズカップと呼ばれていた時代、レアル・マドリーは伝説的な強さを見せている。1955―56シーズンから1959―60シーズンまで、なんと5連覇を達成。破格の存在だった。

 当時のエースで、今もマドリーでは唯一の神のように崇められる"ドン"アルフレッド・ディ・ステファノに貴重な話を聞いたことがある。ディ・ステファノは、リーガ5連覇のブトラゲーニョも、英雄ラウールも、天才ジダンも、小僧扱い。マドリーにおいて、宇宙の中心のような人物である。

―欧州5連覇を中心として成し遂げた伝説として、真に偉大なチームとは?

 その問いかけに、ディ・ステファノはアルゼンチンの強いアクセントで、こう答えている。

「いい選手がいるだけではチームは勝てない。偉大な選手というのは、チームのポテンシャルを上げられるが、それが即、チーム力アップに直結するわけではないのだ。いくらいい選手がいても、チームとしてばらばらなら、そんなもの、がらくたも同然だ」

 一方で、こうも語った。

「結果が出ない、というのは時の運のようなものでもある。その時代にチームを勝利に導ける選手がいるか。いなければ当然勝てない。それだけのことだ」

 当たり前のことでも、ディ・ステファノの口から出た言葉には重みがある。団結力がなければ勝てない。しかしチームを牽引する選手もいなければ頂点に立てないのだ。

モラタの移籍が照らし出す「チームの哲学」

 今シーズンのCLは、マドリーが絶対的王者として前人未踏の3連覇に挑む。

 求心力のあるジネディーヌ・ジダン監督によって、チームは一つになっている。「スター選手のエゴを抑えられる」というマネジメント力が、最大のアドバンテージだろう。ジダンの偉大なキャリアと物静かで重厚なキャラクターが、”重し”になっている。チームとして浮ついたところが出ない。

 そして時代を導くストライカーとして、クリスティアーノ・ロナウドがいる。ロナウドの得点力は神懸かっている。単純な技術だけでなく、胆力にも優れ、ビッグゲームになるほど存在感が増す、希有なプレーヤーだ。

「ロナウドは体力的に衰えが見られる。若く将来性も高いアルバロ・モラタを重用すべきだ」という声もあったが、結局モラタはチェルシーに移籍している。

 ここに、マドリーのマドリー足る所以がある。

 かつてフェルナンド・モリエンテスをモナコに放出したとき、その得点力やポストワークなどを考慮したら、移籍させるすべきではなかった。ピッチの上で犠牲心も見せていた。大外れのない選手でもあった。

 その意見をマドリーのOBたちにぶつけたが、返ってきた答えは冷徹とも思えた。

「モリエンテスはシーズン平均15得点近くはいける。しかし、20得点はいかない。ビッグクラブを相手に、勝利に導くFWでもないだろう」

 その視点は、正解か不正解か、ではなく、マドリーでプレーする選手に課せられる条件だ、と思い知らされた。グッドプレーヤーは必要ない。絶対的なトッププレーヤーだけが求められる。それはときとして、極端にも映る。いかなる弱さとも折り合いをつけないからだ。

 その歪みとして、マドリーはそのモリエンテスを擁したモナコにCLで手ひどい敗北を食らわされたわけだが、頑固なまでの理念で強くなってきたとも言える。

「PEGADA」

 マドリーの強さは端的にそう説明されるが、これはKOパンチから転じ、ゴール決定力を意味する。必殺のブローを説明するのに、若いから、献身的だから、というご託は必要ない。そのシーズン、どれだけ得点を叩き込み、勝利をもたらせるか、それだけが問われる。

 余談になるが、そういうプレッシャーで下部組織も戦うだけに、マドリー出身FWはどこのチームでも得点力を見せつけられるのだ。

マドリーは勝つか、苦しむか

 いずれにせよ、マドリーは勝利がすべてのチームだ。

「マドリーには中間がない」

 マドリーで欧州王者になったミチェル・サルガドが洩らしていたことがある。

「勝つか、負けるか、はない。勝つ、それしかマドリーにはない。あえて言えば、「勝つか、苦しむか」そのどちらかだろう。マドリーの選手として負けることがどれほど辛いことか。それは選手として受け入れがたい屈辱だ。『勝て、勝て、勝て』。それがこのクラブのフィロソフィー、伝統だから。選手たちはプレッシャーを引き受けるだけでなく、それを喜びに感じるような"変態"でなければならないのさ」

 絶対に負けられない試合など、彼らには存在しない。すべてが勝つ試合だからだ。

「勝利に飽きる?なんのことだよ。息を抜くのは、死ぬときさ」

 サンティアゴ・ベルナベウで最も愛された男、ラウール・ゴンサレスはさらりと言ってのけた。その哲学を守っているとしたら――。今のチームにも死角はない。

アセンシオは王位を継承できるか

 ぺぺ、モラタの放出は損失で、エムバペの獲得に失敗したことは痛手だろう。しかし、マドリーの伝統は「去る者は追わず」。イスコの台頭は目覚ましく、新たに補強したテオ・エルナンデス、ダニ・セバージョスは若手は勢いを感じさせる。ヘスス・バジェホ、マルコス・ジョレンテなどレンタル先で試合経験を積んだ下部組織出身選手も楽しみな存在だ。

 戦力的に欧州に比肩するチームはない。セルヒオ・ラモス、ダニエル・カルバハル、マルセロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロース、そしてベンゼマ。彼らはそれぞれのポジションにおいて、世界1,2を争うと言っても過言ではない。そこにレギュラーとは言えないが、複数のポジションをこなし、チームを支えるナチョ、ルーカス・バスケスのような万能選手も擁している。

 そしてマドリーが今、一際輝いて見える理由としては、21才のマルコ・アセンシオの存在にあるだろう。突出した速さ強さがあるにもかかわらず、それに依存しない。確実に相手の裏を取れるセンスを持ち、プレーにダイナミズムを与えられる。その左足のキックは規格外。エムバペと共に、今後のフットボール界を担っていくアタッカーだろう。

 マドリーが最強伝説を作った時代、ディ・ステファノは次代を担うヘントを可愛がり、最後はバトンを渡した。同じようにヘントは次に出た名手、アマンシオにバトンを渡している。アマンシオはファニートに、ファニートはブトラゲーニョに、ブトラゲーニョはラウールに、ラウールはロナウドに。彼らは単純なライバルや師弟関係ではなく、王位継承のような縁で結ばれていたのかもしれない。

 ロナウドという王が君臨する時代に、アセンシオという王子が鮮烈に登場した。はたして、新たなる王位継承となるのか――。CL開幕戦、王者マドリーはキプロスのアポエルを迎え撃つ。

 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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