食料品や電気代など物価上昇の懸念…2023年3月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
内閣府は2023年4月10日付で2023年3月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直している。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。
2023年3月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス1.3ポイントの53.3。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは55.2。
→詳細項目は「小売関連」以外の項目が上昇。唯一プラス以外の「小売関連」はプラスマイナスゼロ。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
・先行き判断DIは前回月比でプラス3.3ポイントの54.1。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは54.1。
→詳細項目は全項目が上昇。「サービス関連」のプラス5.3ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外の全項目。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年3月では人の動きの回復ぶりを反映する形で、前月比で上昇することとなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年3月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、行動規制の緩和などで今後現状以上に人の動きが回復しそうな雰囲気に景況感が後押しされている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の3月は前回月から続く形で、年始までの下落から持ち直しの動きを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスの変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、人の流れの活性化への期待があることから、上昇している。
右も左も物価高、そしてスタグフレーション懸念
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・新型コロナウイルス感染症も大分落ち着いて、やや消費が上向いている。花見シーズンで天候もよく、冷たい物、アイスコーヒー、ビールなどが売れている(コンビニ)。
・マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになるなど、新型コロナウイルス感染症に関する行動規制が緩やかになったこと、また、合格、卒業、就職、転勤などの祝いの会食や少人数での飲み会が増加してきたことなどから、客単価や売上が3か月前の12月に匹敵する勢いとなっている(一般レストラン)。
・マスク着用ルールの緩和というプラス要因はあるものの、それ以上に物価高の影響で来客数の伸びが鈍化している。特に中間層以下の客で影響が大きくなっている(百貨店)。
・新生活や引っ越しでの新生活セットの販売量が想定より少なく、売れ筋も一番安い価格帯に偏っている。加えて、来客数も少なく、前年と比べて落ち込みが顕著になっている(家電量販店)。
■先行き
・新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が5類へ移行することにより状況は更に好転するとみている。ゴールデンウィークに予定されている祭りも今年は久しぶりに規制のない開催になるため、国内外から多くの観光客が訪れることを期待している(一般小売店[酒])。
・マスク着用ルールの変更や新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行により、行動制限から解放され旅行に行きやすくなり、全国旅行支援が続く間の宿泊需要は続くと考える(都市型ホテル)。
・いろいろな食品や電気代などの価格が上がっていることから、衣料品に回すお金が減ってきているようである(衣料品専門店)。
・価格上昇は止まっておらず光熱費も高騰したままであるが、賃金は余り上がっていないため、必要な物以外の買い控えは続く(スーパー)。
消費動向や新型コロナウイルスの流行沈静化に関するポジティブな声もあるが、電気代や商品価格の値上げなどの物価高を受け、消費者の買い渋りの動きも見受けられる。その一方で賃金が上がらないことから、いわゆるスタグフレーション状態となりつつあるとの指摘も。
企業動向でも物価上昇・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
■現状
・3月に価格改定に踏み切ったが販売量は落ちていない。通販は価格改定の影響を受けて受注が減少したものの、飲食および物販は特に週末のイベント開催で人流が活発化したことにより好調に推移している(食料品製造業)。
・材料の価格高騰がようやく収まり、販売価格の改定が完了したが、住宅市場の落ち込みは回復せず、受注が前年比よりも落ち込み傾向にある。加えて電力料金のアップが利益を圧迫している(木材木製品製造業)。
■先行き
・自動車の生産ばん回計画も動き始め、増産対応が本格化の見込みである。また、ロボット関連の新規増産が立ち上がる予定である(一般機械器具製造業)。
・前年と比較すると、景気回復の兆しはみられる。しかし、材料費や燃料費などの原価高騰は引き続き予想されるため、利益確保は変わらず厳しい状況が続くと考えられる(家具製造業)。
人の流れの活性化や新規事業の立ち上げなど頼もしい話もあるが、電気代や材料費などの高騰で経営的に厳しい状態は続くとの意見も見受けられる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・物価の上昇により、就業中の派遣社員の時給改定を要請している。応じてくれる企業が全体の10%程度あるなど、意外に多い印象である(人材派遣会社)。
■先行き
・求人数の充足からみて、観光関連業種の回復に伴い、人の取り合いになるため、賃金など条件を改善できるかなどで、明暗が分かれてくるのではないかと予測する(職業安定所)。
雇用情勢は改善の気配が見られるものの、求職者数が依然少なく、また企業側の(現状の人手不足を解消するのに必要となる環境整備の観点での)認識の甘さから、需給バランスの正常化は遠そうだ。物価上昇をかんがみて時給改訂を要請したところ、応じた企業が10%程度ある現状に対し、「意外に多い印象」との評価が出てくる点に、驚きを覚える人も少なくないことだろう。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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