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銀座で中国人が化粧品、家電以外に「爆買い」している、“意外なもの”とは?

中島恵ジャーナリスト
「隠れ爆買い」している商品は、実はこれだった!

久しぶりに銀座を歩いてびっくりした。銀座4丁目の角から中央通りを新橋方向に曲がった瞬間、中国人の波、波、波――なのだ。

平日の午後3時、「ここはどこ?上海か?」と思ったのは私だけではあるまい。頻繁に銀座を歩く人ならば、だいぶ以前から気づいていただろうが、たまに銀座に行く人にとっては、めまいがするような「信じられない光景」が目の前に広がっている、といっても過言ではないだろう。

中国からの観光ツアーバスから降りて、銀座でフリータイムを過ごす中国人が、道路を占拠するほど多いのだ。

カラフルなTシャツに身を包み、2~3人で、あるいは7~8人で、顔立ちが異なる人々が小さな集団になって歩いているのですぐにわかる。彼らが吸い込まれるように入っていくのは「三越」や「松屋」などの百貨店のほか、「資生堂」「マツモトキヨシ」など。私とすれ違った50代くらいの中年女性3人組は「サンユエ!サンユエ!(三越)」と中国で叫びながら、「三越」めがけてまっしぐらに歩いていった。みんな、目当ての店に駆けこんで「爆買い」するのだ。

もちろん、「ラオックス」やその隣の「ZARA」も黒山の人だかりだ。銀座8丁目の高速道路下で大型バスを、あるいは、ラオックス前で小型バスを降りては、これらの店に次々と入っていく。ガイドによると、「銀座でのフリータイムは2時間から2時間半」だという。その間に必死で買い物をするというわけだ。帰りの集合場所のひとつとなっている「ラオックス」の前では、買い物を終えた中国人たちが輪になって立ち、他の通行人が通れないほど混雑している。

手に持っているのは「ラオックス」や「ZARA」「ユニクロ」などの紙袋だが、他にほとんどの人が持っている、“あるもの”があることに気がついた。それは真新しいスーツケースだ。

買ったばかりのスーツケースを点検する女性
買ったばかりのスーツケースを点検する女性

「なぜみんな真新しいスーツケースを持っているのだろう?」。気になって人々のあとをついていくと、あるカバン店に行きついた。

銀座6丁目にある「ユニクロ」から数軒、新橋方向に行った場所にある、間口の小さなカバン店だ。

銀座によくある個人の小さな店のようなのだが、店の前は「ラオックス」も顔負けのすごい人の数。

店頭には「バックどれでも5400円均一」という中国語の表示があり、数個のスーツケースが置いてある。それを物色する中国人観光客たち。外には仲間を待つ人が大勢おり、全員スーツケースを持っている。思い切って店内に入ってみると、もう押すな押すなの人で、とても店の奥まで入れないほどの状態だった。

断っておくが、取材した日は中国の祝日でも、日本の祝日や日曜日でもない、日本の平日の午後3時過ぎである。

入り口付近には夏用の女性向けハンドバックやビジネスバック、ボストンバックなどが展示してあるが、中国人観光客が目指すのは奥にあるスーツケースだという。いずれも日本円で5400円と格安なので、飛ぶように売れていく。やっとのことで辿り着いたレジの前には、1人1つずつスーツケースを持つ人の長蛇の列ができていた。

店の外に出てきた吉林省出身の若い夫婦に、思い切って声をかけてみた。

「中国から1つだけスーツケースを持ってきたんだ。これ?さっき、あそこのカバン店で買ったものさ。えっ?なぜスーツケースを買うかって? そりゃ、これから買うものを入れて中国に持ち帰るためだよ、決まってるでしょ。日本のスーツケースは安くて頑丈、デザインもいい。壊れないから、みんなここで買っていくんだよ」

真新しいスーツケースの番をする男性
真新しいスーツケースの番をする男性

なるほど。そういうことだったのか・・・・・。確かに、大型バスを降りるとき、すでに買ったものやスーツケースはバスの中に置いてきているはずで、バスを降りたばかりの人を見ると、小さなバックしか持っていない。それなのに、しばらく経つと、なぜか、手に真新しいスーツケースを持っている。このカバン店で買っていたのか、と合点がいった。

よく見ると値札やタグがついていたり、ビニールカバーを掛けたままのものもある。道路でスーツケースのチャックを開けて、買ったばかりの商品を中にしまいこんでいる人もいる。日曜日にも出かけてみたが、歩行者天国の通りに置かれたパラソルの下に陣取り、やはり同じように、新しいスーツケースに商品を出したり入れたりしている人々が大勢いた。

筆者が4月に出版した新著『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』では、「爆買い」に走る中国人の背景を説明している。これほどまでに彼らを「爆買い」に向かわせる中国社会とは、一体どのようなものなのか? について解説したものだが、微博(中国版ツイッター)によると、中国人が今年の春節に「爆買い」した商品は1.医薬品、2.化粧品、3.温水洗浄便座、の順だった。

これ以外にも、「ドンキホーテ」などで菓子や雑貨、日用品などを大量に購入している姿が目撃されているが、まさか、スーツケースまで「爆買い」しているとは筆者でさえ、思いつかなかった。これぞ「隠れ爆買い」といえるだろう。

だが、せっかくはるばる日本までやって来て買った貴重なおみやげの数々だ。すぐに壊れる段ボールに入れて持ち帰るより、スーツケースのほうが運びやすいし、後々まで役に立つ。そう考えれば、ここで買うのは一石二鳥だ。

さすがに中国人は頭がいい。おもしろい現象に、思わず銀座の大通りで、にんまりと笑いがこみ上げてきてしまった。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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