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MLBの反逆児ピート・ローズも噛みついた現在の本塁打偏重主義

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今もMLBから永久追放処分が解かれないピート・ローズ氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 通算4256安打のMLB記録を保持しながら、現在もMLBから永久追放処分が解かれていないピート・ローズ氏が『USAトゥデー』紙の取材に応じ、現在の本塁打偏重主義に疑問を呈するなど、相変わらず反逆児ぶりを発揮している。

 ローズ氏のインタビュー記事は7月28日付けで同紙の公式サイトに掲載された。インタビュー場所は、同じ時期に2018年の野球殿堂入り記念式典が実施されていたニューヨーク州のクーパーズタウン。もちろん永久追放処分を受けているローズ氏が式典に参加できるはずもないのだが、同地のベースボールカード店で行われたサイン会に参加していたためだ。

 ローズ氏は「死ぬまで野球について議論することを止めるつもりはない」とした上で、まず昨年から疑惑が持ち上がっている“飛ぶ”公式球について言及している。

 「現在のボールは間違いなく飛ぶようになっている。彼らはそれを認めないだろうし、そうしないといけないのだろうが、誰が何をいおうが関係ない。先日アナハイムの試合(エンゼルス戦)で起こったことだが、ベンチ裏で跳ねたボールがそのまま弾んで2階席まで飛んでいったのを見たし、ニューヨークの試合でブライス・ハーパーがバットを真ん中から折りながら飛距離420フィートの本塁打を放っていた。そんなこと以前なら起こらなかった。今は誰もがホームラン・バッターになれる可能性があるように思う」

 本欄でも何度の指摘しているように、ここ数年の本塁打量産傾向はデータ上からもまったく否定できない。それでもロブ・マンフレッド=コミッショナーは疑惑が浮上する度に公式球の変更を完全否定し、「打者の技術向上」と説明してきた。だがすでに現役選手たちからも様々な証言が出ているように、MLB史上最強打者の1人、ローズ氏からも、現在の公式球は明らかに変化しているように見えている。むしろMLBの影響を受けない立場にいる彼の言葉だからこそ、その信憑性が増しているように思える。

 さらにローズ氏は現在の本塁打偏重主義の陰で、MLB全体のレベル低下を危惧している。

 「現在の野球を観戦していて基礎的な部分で彼らのプレーが楽しいとは思えない。1970年代、80年代はしっかり基礎を練習していた。現在MLBで選手がやっていることは、当時ならマイナーでやっていたことだ。球団数が30に増えたことで、選手たちを急いでメジャーに送りすぎているからではないか。

 現在も多くの素晴らしい選手がいる。でも正直いって、素晴らしいチームは決して多くない。むしろ素晴らしいチームより悪いチームの方が多いように思う。野球界にとっていいことではない。マンフレッド氏もそれを望んでいるとは思えない。もう少し(チーム間の)平等性が必要ではないだろうか」

 確かにローズ氏が指摘するように、チーム数、地区が増えたことで、ポストシーズンに進出できるチームも増え、より優勝争いが盛り上がるようになった。だがその一方で実績あるスター選手たちは資金力のあるチームに集中してしまいチーム格差は拡大する一途で、シーズン後半戦を待たずして地区首位チームから大差をつけられ、早々に優勝争いから脱落していくチームも少なくない。派手な本塁打ばかりに目を奪われて、本当の意味でリーグ全体のレベルが上がっているのかは疑問が残るところだろう。

 ローズ氏は現在も“反逆児”的扱いを受け、MLBから煙たがられる存在だ。彼の言葉が素直にMLBに受け入れられるとは思わない。しかし彼がMLBで残した功績は消し去れないし、いまだに多くのファンから支持されているのも疑いようのない事実だ。これからも彼の言葉に耳を傾ける価値はあるのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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