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野球のシーンは「巨人の星」を参考に。日本文化好きアメリカ人監督が語るウルトラマンと漫画への愛

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ティンドル(右)とアオシマ(Getty Images for Netflix)

 日本のスーパーヒーローが、アメリカ人フィルムメーカーの手によって、新たなアニメーション映画になった。

 今月14日にNetflixで全世界デビューする「ULTRAMAN: RISING」は、ケンタッキー州出身のシャノン・ティンドルが20年以上も実現を願ってきた情熱の作品。3歳か4歳の頃、日曜日の昼間にテレビで放映されていたウルトラマンの番組を見て以来、彼はずっとウルトラマンを愛してきた。

 最初、ティンドルが考えていたのは、ウルトラマンそのものではなく、ウルトラマンにインスピレーションを得た話だった。だが、円谷プロダクションの協力を得られることになり、ウルトラマンについての映画を作ることが可能になると、ティンドルは、カリフォルニア芸術大学時代からの友人ジョン・アオシマに共同監督を頼んだ。アオシマは、日本生まれの日系アメリカ人。「ウルトラマン」は、日本にいた子供の頃大好きだった番組で、ティンドルと出会うと、日本のポップカルチャーについての話題で盛り上がったという。

 そんな彼らが作り上げたのは、親子の関係に焦点を当てた、独自のビジュアルセンスを持つユニークな映画。ストーリーは、2001年、ティンドルに娘が生まれ、子育てを初体験したことから生まれたパーソナルなものだ。

 ウルトラマンことサトウ・ケンは、怪獣の卵を発見し、生まれてきた怪獣の赤ちゃんを育てることになる。それまで自分のことしか考えていなかった彼の日常は、突然にして大きく変化。わからないことだらけのまま、彼は必死になってトラブルに対応する。それは、ウルトラマンを知っていた、知らなかったにかかわらず、共感できる物語だ。

「僕らはウルトラマンの熱烈なファン。だが、ウルトラマンを知らない人を締め出すような映画にはしたくなかった。僕が愛してやまないこのキャラクターをより多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいかと、僕は考えたんだ」と、ティンドルはオンライン記者会見で語っている。

思いもしなかったことに、ウルトラマンは突然、怪獣の赤ちゃんの親になる(Netflix)
思いもしなかったことに、ウルトラマンは突然、怪獣の赤ちゃんの親になる(Netflix)

 サトウ・ケンとその父がなぜウルトラマンになるのかについての説明がないのも、意図的だ。昔からのファンを喜ばせるという目的で、「ウルトラマン」の番組から引っ張ってきた何かを入れることもしていない。

「僕自身が初めてウルトラマンの番組を見た時、それは第1話ではなく、シリーズの途中だった。その経験を再現したかったというのもある。何を入れるかについては、ストーリーを助けるものであれば入れる、ウルトラマンを知らない観客を混乱させるものであれば入れないという基準で判断した」と、ティンドル。映画が完成した今、そのやり方は正しかったと感じている。

「先週ニューヨークで行った試写に、ハードコアなウルトラマンファンが来てくれたんだ。彼はこの映画を嫌うつもり満々で来たらしいが、『すごく良かった』と言ってくれたよ。『ウルトラマン』の番組に出てくるものはちゃんと出てくるけれども、ストーリーから気を散らせることはしないと。そのバランスは常に意識していたこと。ウルトラマンに関するものをとにかく入れよう、というのではなく、ウルトラマンが出てくる優れたストーリーを語ろうというのが、僕らのアプローチだったんだ」(ティンドル)

 とは言っても、イースターエッグもちゃんとある。

「サトウ・ケンが運転する車は、『帰ってきたウルトラマン』に出てくる車だよ」(アオシマ)

日本の漫画とアニメはスポーツを劇的に描くのが上手

 サトウ・ケンはメジャーで活躍した日本人野球選手。帰国して読売ジャイアンツでプレイするようになるという設定で、映画には野球の試合のシーンがたっぷり登場する。

 球場、観客席、テレビ中継などのディテールが非常にしっかりしているのことには、感心させられるばかり。迫力ある試合の描写には明らかに日本のスポーツ漫画、スポーツアニメの影響が見て取れるので、質問してみたところ、「巨人の星」を大いに参考にしているということだった。

主人公サトウ・ケンはメジャーでも活躍した優秀な野球選手(Netflix)
主人公サトウ・ケンはメジャーでも活躍した優秀な野球選手(Netflix)

「僕は『巨人の星』を全巻持っているよ。あの漫画で、試合はアクションシーンのように描かれている。あのスタイルは、断然参考にした。どちらも読売ジャイアンツを扱うものだし」(ティンドル)

「日本に住んでいた時、僕は(アニメの)『巨人の星』を見て育った。日本の漫画とアニメはスポーツを劇的に描くのが実に上手いよね。球の速さがすごく感じられるクローズアップとか。彼らは料理だって劇的に描いてみせるけれど。とにかく、僕たちはそれらから受けた影響をこの映画に使ったんだ」(アオシマ)

 野球以外の日本の描写にも不自然さはない。

「人々がやりとりする様子にしろ、家や看板などにしろ、日本の人たちが見て自然だと感じるようにするのは、僕たちのゴールだった。それで僕たちは、文化コンサルタントのヨシダ・マユミや、社内の日本人、日系アメリカ人と毎週ミーティングをして、僕らが作っているものを見てもらうようにしたよ。『これならまあ大丈夫か』のレベルではなく、しっかり考えていると感じてもらえるものにしたかったから」(ティンドル)

文化コンサルタントのアドバイスを受けたおかげで、日本の街の描写はとても自然(Netflix)
文化コンサルタントのアドバイスを受けたおかげで、日本の街の描写はとても自然(Netflix)

親となったケンの葛藤に観客は共感してくれる

 そんなふうに、この映画にすべてを注ぎ込んだ彼らが願うのは、世界中にいる、できるだけ多くの人に楽しんでもらうこと。

「僕と同じくらいウルトラマンを好きになってもらえたら素敵。だけど、僕が何より願うのは、この映画がきっかけとなり、親子の間で会話が生まれること。この映画を観た人は、ケンの葛藤にすごく共感してくれる。有名なスーパーヒーロー映画でそんなことが語られるなんてと、みんな驚くようだ。アクションやコメディも楽しかったけれど家族というものに正直にアプローチをするところが良かったと、多くの人が言ってくれるよ。僕にとって、それほど嬉しい感想はないね」(ティンドル)

人の親になったことで、自身と父との関係にも変化が(Netflix)
人の親になったことで、自身と父との関係にも変化が(Netflix)

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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