有料老人ホーム・未来設計が経営破綻。入居者はどうなる? 入居一時金は返金される?
倒産で運営会社が変わると月額費用アップも
2019年1月22日、「未来倶楽部」「未来邸」などのブランドで有料老人ホームを運営する(株)未来設計が、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請しました。
調査会社の商工リサーチによれば、2018年の有料老人ホームの倒産件数は14件と、前年の6件の2.3倍となっています。競合が増えて入居者が獲得できないケースだけでなく、ノウハウを持たずに有料老人ホームの運営に参入し、そもそもの料金設定を誤って満室でも赤字で経営を維持できず、倒産する会社もあるようです。
有料老人ホームの運営会社の変更は、過去、大きなところでは以下のものがあります。
2007年 グッドウィルグループの「コムスンガーデン」などが、コムスンの経営破綻により、ニチイ学館に
2015年 「ワタミの介護」の「レストヴィラ」が、親会社である飲食業のワタミの経営悪化により、SOMPOケアネクスト(現・SOMPOケア)に
2015年 「メッセージ」の「アミーユ」が、職員による刑事事件をきっかけに、SOMPOケアメッセージ(現・SOMPOケア)に
これ以外にも、中小の有料老人ホームの運営会社は変わることがしばしばあります。有料老人ホームの運営会社は民間企業が多いため、これは避けられないことだとも言えます。運営会社が変わるのは、そのままでは経営を維持できない、あるいは、収益を望めないということ。つまり、運営方針を変えざるを得ない状態にある場合がほとんどです。そのため、運営方針に賛同して入居しても、残念ながら、運営会社が変わることで運営方針もガラリと変わってしまう場合もあるのです。
よくある運営方針の変更
・月額費用が引き上げられる
・食事の内容がレベルダウンする
・掃除の回数が減る
・外出の機会が減る
・希望すれば毎日入浴できていたのが、入浴の曜日が決められる
・レクリエーションの内容や回数がレベルダウンする
運営方針を変更する際には、入居者と家族を対象とした説明会が開かれるケースが多いようです。変更に反対しても、残念ながら運営方針の変更が見直されることはほとんどありません。むしろ、賛成できないなら退居してください、と言われるケースがほとんどです。しかも、契約時には入居期間に応じて返却されるはずだった入居一時金(後述)が、運営会社変更のために返却されないケースもしばしばあります。
こうしたことから、運営方針の変更に納得できなくても、別のホームに移る費用負担が難しく、泣く泣くそのまま入居を続けざるを得ないケースが多いのです。
有料老人ホームの入居には、こうしたリスクがあることを承知した上で入居先を決めることが大切です。
入居一時金は、退居したらどの程度返金されるのか
未来設計の経営破綻については、入居一時金の不正流用が指摘されています。
入居一時金というのは、入居後、最期までホームで過ごす期間を想定し(想定入居期間)、その間の家賃分を前払いするものです。ですから、本来、退居の際には、入居していた期間によっては一部が返還されるべきものです。しかし、未来設計では退居しても全額は返還できない状況だと報道されています。
入居一時金については、2006年に、入居から90日以内に退居した場合は、その間にかかった費用(室料や食事代等)を入居一時金から差し引いた額が返還されるルールが定められました。通販のクーリングオフのような制度です。これにより、入居したものの思っていた生活、ケアとは違うと感じた場合、90日以内に退居することで、別の有料老人ホームに移りやすくなりました。
しかし、91日以降に退居した場合は、返還される金額が減額されます。これは、「初期償却」といって、入居契約から91日目に20~30%程度の入居一時金が償却され、返金されなくなる仕組みです。償却する割合については、「入居契約書」に書かれており、ホームによって償却の割合は異なります。初期償却については、入居契約の際に必ず説明があります。聞き逃さず、何%が初期償却されるのかを理解した上で契約を結ぶことが大切です。
その後も、ホームごとに定めた償却期間によって、3ヶ月ごと、6ヶ月ごとなど、一定の期間で入居一時金が償却され、退居時の返還額が減っていきます。退居日が1日違うだけで返還額が大きく異なる場合もありますので、償却期間についても十分に理解しておく必要があります。
最近は入居一時金をゼロとして入居時の負担を減らし、その分、月額費用が高く設定されている(入居一時金で納める家賃分を月々支払う)有料老人ホームも増えています。あるいは、入居一時金を支払って月額費用を低くするか、入居一時金をゼロとして月額費用を高くするかを選択できるホームもあります。
しかし、比較的グレードが高いと言われる有料老人ホームでは、2000万円を超える入居一時金が必要なところが多数あります。
元気な頃から入居できる住宅型有料老人ホームなどの場合、入居時の年齢によって、入居一時金の額は異なります。一方、要介護者向けの介護付き有料老人ホームは、想定入居期間を5~7年程度に設定し、入居一時金を定めているところが多いようです。
有料老人ホームへの入居を検討しているなら、こうした仕組みも知っておくことが大切です。
入居一時金が返還されないケースは多いのか?
未来設計のように、退居しても入居一時金が返還されないというのは、考えたくない事態です。こうしたことが起こらないよう、国も対策を講じています。2018年、老人福祉法改正により、2018年4月1日から3年を経過した日以降の新規入居者については、すべての有料老人ホームに入居一時金の保全措置をとることが義務づけられました。
保全措置とは、万一の倒産等に備え、入居一時金の償却期間に応じて、最大500万円までを返金するための備えです。有料老人ホームの運営会社は、銀行や保険会社、信託銀行と契約し、必要に応じて入居者に返金できるよう資金を確保しておくことが義務づけられたのです。
未来設計では、本来、ホームの運営費用に流用することが許されていない未償却の入居一時金を、創業者への過大な報酬の支払いに充てていました。これが大きな要因となって、倒産に至っています。退居者に全額を返還できないということは、保全措置も十分に執られていなかったということでしょう。
あってはならないことですが、実のところ、未来設計に限らず、法に従って入居一時金の保全措置を講じている有料老人ホームばかりではないというのが実情です。今回の法改正によって、保全措置が徹底されることを期待したいところ。あとは入居契約前に、どのような保全措置を執っているか、書面を示してもらってきちんと確認するしかありません。
どうしても不安な場合は、月額利用料が高くなっても、入居金ゼロの有料老人ホームを選択する方がいいかもしれません。
それにしても、安心して入居できる有料老人ホームは、どのような視点で選べばよいのでしょうか。
これについては次回の記事でお伝えしたいと思います。
(取材協力・シニアライフコンサルタント 武谷美奈子さん)