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子どもの歩き方が変わる?!交通安全に関する京都府警察の新しい取り組み。

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:アフロ)

 2021年度の春の交通安全週間が終了しましたが、事故は誰にでも起こるものですので、安全につながる行動を継続的に遂行することが交通参加者に求められます。

 子どもの交通事故の特徴を見ると、新1年生の事故は5月以降に多くなります。この理由にはいくつかありますが、歩行者として新1年生はまだ未熟なことや、保護者、地域、および学校による見守りの機会が5月以降に少なくなることなどが考えられます。

(参考:新1年生の交通事故)

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20200513-00177472/

 京都府警察本部および関係諸団体は、通学路の横断歩道付近における路面標示などの道路対策を検討しています。また、小学校入学前の子どもが適切な道路の横断方法を習得することを主な目的として、広くドライバーの協力を得て、未熟な子どもの安全を確保するための取り組みを、本年度(2021年度)より推進する予定となっています。

 京都府警の取り組みの推進については、昨年度、有識者などによる検討会(座長:蓮花一己 帝塚山大学教授)が開催され、この検討会での審議を経て、本年度、一部の保育所や幼稚園をモデル園として実施されることになっています。また、検討会では、モデル園での実施について、効果検証を行うことの重要性などの意見もあがりました。

 この記事では、子どもの横断方法に関する京都府警の取り組みについて紹介します。

◆「手をあげる」から「合図とアイコンタクト」へ

 皆さんは、子どもの頃、道路の横断方法についてどのように教わったでしょうか。多くの方が、「道路横断する前に止まり、周囲を確認して、横断歩道を手をあげてわたる」と教わったのではないでしょうか。

 京都府警の取り組みの中で、子どもに教える内容も基本的に上記と同じですが、一点大きく異なる点があります。それは、「手をあげる」という箇所です。

 道路を横断する際に「手をあげる」ことについては、1978年の改正以前の「交通の方法に関する教則」に載っていましたが、2020年までの42年間、この文言はなくなり、道路横断時に手をあげることを教えるか否かは任意となっていました。「手をあげる」ことの意味は、背の低い小さな子どもの存在や横断の意思を周囲のドライバーに知らせることにあります。ただし、「手をあげれば大丈夫」と子どもが誤解するといった懸念もありました。

 京都府警の取り組みでは、有識者の意見を参考にして、この「手をあげる」を変更して、ドライバーへの「合図とアイコンタクト」の手段として手を使うことを子どもに教えることになりました(図)。

出典)京都府警察本部交通部交通企画課第3回安全横断検討会議資料より。

図.京都府警の取り組みの中の子どもの横断方法

 具体的には、京都府警の取り組みの最大の特徴として、道路を横断する前に手を真上にあげるのではなく、以下の行動の習得を子どもは目指すことになります。

手のひらを周囲のドライバーの方向に向けること

止まってくれたドライバーとのアイコンタクトを通して、道路の譲り合い(優先権)の確認をすること

◆温かい目で見守る大人の役割

 京都府警の取り組みについての、子どもへの教育として最大の課題は、未熟な園児が、合図やアイコンタクトの方法を習得するのに時間を要することにあります。保育園や幼稚園で上記の横断方法を教える段階では、子どもはまだ一人前の交通参加者ではありませんので、道路を横断する際には必ず保護者が付き添うことが、安全確保の点で重要となります。

 また、保護者だけではなく、周囲のドライバーが温かい目で見守ることが、子どもの安全確保と成長にとって大切になります。京都府警では、有識者の意見をもとに、子どもの合図やアイコンタクトの受け手として、温かい目で子どもを見守ることを、ドライバーに対して、リーフレットなどを用いてお願いすることを計画中です。

◆期待される効果

 子どもの道路横断方法に関する京都府警の取り組みに期待される効果として、以下の点があげられます。

○園児や低学年の交通安全確保

 京都府警の取り組みの中で、ドライバーへの合図とアイコンタクトの方法を園児が習得することで、主目的である子どもの交通安全確保が期待できます。

 特に、今までは手を真上にあげることを教育していましたが、これでは、周囲を確認することと手をあげることが別々の行動となり、幼少期の子どもがその意味や方法を理解して習得することが困難と考えられます。京都府警の取り組みでは、手のひらをドライバーの方向に向けることを推奨しており、手を向けた方向に自然と視線が移動し、アイコンタクトもできるといった利点があるのではないかと考えています。この“自然な行動”の流れは、幼少期の子どもにとっても習得しやすいと思われます。

 また、子どもが上記の横断方法を実践する際に、周囲の大人が見守ることで、園児などの安全が確保できると期待されます。

○高学年以降の交通安全確保と社会的スキルの育成

 高学年以降の児童にとっては、道路を横断する際に「手を真上にあげる」ことは、誰もやっていない“恥ずかしいこと、カッコ悪いこと”と映りがちです。上記の横断方法は、手のひらをドライバーに向けてアイコンタクトすることが特徴であり、この行動は大人のスマートで自然なしぐさとして子どもに映り、高学年以降の子どもにとっても受け入れやすく実践しやすいと考えられ、年長の子どもの安全確保にも寄与すると推察されます。

 また、ドライバーとのアイコンタクトを通して、他者の気持ちを理解するといった社会的スキルの訓練にもなるといった効果も考えられます。

○大人の交通安全確保

 他の社会と同様に、交通社会も多くの人々が介在する場であり、他者への配慮が安全で快適な交通社会の実現にとって重要になります。京都府警の取り組みを通して、横断する子どもを周囲の大人が温かい目で対応することから始まり、子どもだけではなく他の交通参加者への配慮の輪が広がれば、社会全体の事故低減にもつながると思われます。

 また、手のひらをドライバーに向けて合図とアイコンタクトをするといった自然な行動を大人も実践すれば、歩行時の安全も確保できるでしょう。

◆おわりに:新たな文化の創造へ

 今回の京都府警の取り組みの主目的は、周囲の大人の協力のもと、幼少の子どもが道路の横断方法を学び安全を確保することにあります。これに加えて、合図やアイコンタクトといったコミュニケーションにより、より安全で快適な交通社会が実現するといった可能性を京都府警の取り組みは秘めています。

 2021年度より京都府警の取り組みがスタートしますが、合図やアイコンタクトを用いた道路の横断方法や、お互いに配慮するといった雰囲気が5年後10年後に文化となって醸成されることが望まれます。

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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