イチロー氏『電撃復帰』の瞬間にマリナーズのキャンプ地では何が起きていたのか
【3月7日、米アリゾナ州ピオリア発】
2019年3月に現役を引退して、現在はシアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏が、3月7日(日本時間8日)にキャンプ地のアリゾナ州ピオリアにて行われたシミュレーション試合(紅白戦)に参加して、3年連続での開幕投手に指名されているエース左腕のマルコ・ゴンザレスと対戦した。
イチローの『電撃復帰』は、当日の朝にスコット・サービス監督の発案で急遽決まった。
この日、マリナーズは午後1時からロサンゼルス・エンゼルスとのオープン戦が敵地で組まれており、試合に出場する選手は軽めに身体を動かした後、約30分離れたテンピに移動。紅白戦に出場する選手の数が少なかったために、サービス監督はイチローと、2011年に現役を引退したマイク・キャメロン――アラフィフのレジェンド2人――に外野を守ることをお願いした。
ゴールドグラブ賞を3回受賞した48歳のキャメロンがセンター、10回受賞の47歳のイチローがライトの守備に就く。メジャー歴代最多タイ記録のシーズン116勝を上げ、マリナーズが最後にプレイオフ出場を果たした2001年にともにゴールドグラブ賞に選ばれた鉄壁コンビが復活した。
当初、2人は守備だけの予定だったが、2イニング目にいきなり若手選手がライトを守るイチローの下に走りより、守備の交代を訴えた。
ライトからベンチに戻ったイチローがバットを持ってフィールドに登場すると、紅白戦を見守っていた選手がざわついた。
そして、ついにマリナーズの51番のユニフォームを着たイチローが2年ぶりに打席に立つ瞬間が訪れた。
イチローがマリナーズでメジャー・デビューを飾った2001年には9歳だったマルコ・ゴンザレスはマウンド上から笑顔で打席に入ったイチローを迎える。
「紅白戦であっても、本当の試合と同じ気持ちで臨んだ。イチローが打席に入った瞬間に、試合の雰囲気が一変したね。笑顔で投げたのは初めてのこと。大好きなイチローと対戦でき、とても楽しかった」
イチローの引退試合で先発を務めた菊池雄星も、イチローが引退した年にも開幕投手を務めたゴンザレスとイチローの対決を羨ましそうに見つめていた。
打席に入ると、相手投手に向けてバットを立てるお馴染みのポーズを披露。そこには現役時代と変わらずルーティンを守るイチローの姿があった。
初球はボールを見逃し、2球目はファール。3球目の高めのボールを見送った際には「グッドアイ」と自ら大きな声を発して、周囲を笑わせた。
この「グッドアイ」という言葉はストライクゾーンをギリギリで外れたボールを見送った打者に対して、ベンチのチームメイトが「よく見送った」、「良い選球眼だ」と褒める際に使う言葉であり、打者自らが言うことは少ない。
最後はレフトへフライを打ち上げたイチローは、「サック・フライ、メイビー(多分、犠牲フライだ)」と叫んで、負けず嫌いな一面を覗かせた。
2年ぶりの打席を「想定外でした」と振り返ったイチローは、「負けたくはないという気持ちにはなります。本能です」と悔しがった。
引退しても、選手たちと一緒に身体を動かし、日々の練習を欠かさないイチローは、「やっていれば、こういうときにも対応できる」と語った。
マリナーズの公式サイトは、『Ichiro back on the field? Yes!(イチローがフィールドに帰ってきた)』とのタイトルの記事を掲載。
球団公式ツイッターも『イチロー復帰』を2分の映像にまとめて発信した。