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金正恩氏の「護衛候補」が殺人容疑で逮捕…米メディア報道

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
護衛要員に囲まれた金正恩氏(写真:代表撮影/Inter-Korean Summit Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

北朝鮮の金正恩党委員長の護衛要員に選抜された少年が殺人容疑で逮捕され、関係各部署が大騒ぎになっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

両江道(リャンガンド)の金正淑(キムジョンスク)郡の住民がRFAに伝えたところでは「今月5日、郡内の高校に通う16歳の男子学生が、自宅で父親を絞殺する事件が起きた。殺人容疑で逮捕されたこの学生は、中央党(党中央委員会)の組織指導部5課により最終選抜されていた」。少年は間もなく平壌に招集され、近い将来、護衛司令部に配属されて金正恩氏のボディガードになる見込みだったという。

組織指導部の5課は、かの有名な「喜び組」も統括している組織だ。5課は中央から道・郡・市などの末端にいたるまで組織網を張り巡らせ、14~16歳の学力優秀な少年や美少女を選抜し、権力者たちに仕えるタイピストや看護師、警護員に育てる。

その実態について、韓国紙・朝鮮日報も2014年1月26日付で、ある脱北者の証言として次のように説明している。

〈最近脱北した平壌出身の女性は「5課に選ばれて行ったら、10年以上も家族と会えないまま年老いた中央党幹部のめかけとして暮らし、社会に出たら後ろ指をさされるので、平壌の女性たちは手段を選ばず(選抜を)避けている」と語った。

(中略)若いうちは金氏一族のめかけとして過ごし、年を取ったら党から指定された男性と強制的に結婚させられるからだ。さらに喜び組の女性は、党から(結婚相手として)あてがわれた護衛隊員が気に入らないと言って拒否した場合、処罰されるという。〉

こうした実態が知られていなかった時代、北朝鮮の庶民にとって、自分の子どもが5課に選抜されることはたいへんな名誉だったとされる。選らばれた少年少女の家族は配給で優遇されるため、実利もあった。

しかし、大事な娘が権力者の玩具にされる実態が漏れ伝わってからは、親たちも本人も、娘が5課の目にとまらないよう祈りながら暮らしているという。

(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

また、護衛要員として選抜される少年たちの場合も、事情は似ているようだ。身分的に問題がなく、学力優秀であれば、社会に出て自分の力で経済的成功をつかむことができる。護衛司令部で使い倒しにされては人生がもったいないというわけだ。

それだけに、各地方の党組織が選抜した人材は、徹底的に管理され、平壌に送り届けられる。地元で待機している間に病気でもすれば、担当者が処分されるという。

ただでさえそんな状況だというのに、今回は金正恩氏の身近で仕える予定だった少年が、実の父親を殺してしまったのだ。RFAの情報筋は「郡党委員会が推薦した中央党5課の選抜者が残忍な犯罪を犯したとなれば、責任問題がどこまで大きくなるか予想もできない」と語っている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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