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<ガンバ大阪・定期便55>「人生で一番眠れなかった」日々の中で東口順昭がたどり着いた境地。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
前節のミスを受け「先発を外されるのは覚悟していた」と話した。写真提供/ガンバ大阪

■止められなかったシュートを悔やんだ札幌戦。

 J1リーグ5節・北海道コンサドーレ札幌戦。攻勢に試合を進めた後半、2ー2で迎えたアディショナルタイム。東口順昭は、右ゴールライン際からの折り返しに反応した札幌・FW中島大嘉のシュートを左足一本で弾き出した。

「あれもそうですけど、なんなら2失点目のシーンも、僕が止めていたらなんてことないシーン。1対1の状況でも(相手のシュート)コースは抑えられていただけに、あれを取れるようにならないといけないし自分ができる仕事はそういう仕事だと思っているだけに、もっともっと最後のシーンのような仕事を増やしていけばチームのためになるのかなって思っています」

 止めたシュートの話にはほとんど触れず、止められなかったシュートに言及する。ここ数試合、立ち上がりの失点をチームの課題として受け止めていながら、またしても6分と早い時間帯にゴールを割られたことにも悔しさを滲ませた。

「最初のゴールキックでは繋ぐ、ではなく蹴るを選択するなど、入り方の工夫も意図的にやっていましたが、前後半ともいとも簡単に、立ち上がりの時間帯にコーナーキックを与えてしまっているのは良くない。誰もが意識して試合に入っていたし、そういう声も出ていただけにどこを直せばいいのか…とは思いますが、失点には必ず原因があるので。もっとアグレッシブにいくべきか、逆にいき過ぎているのかわからないですけど、(立ち上がりの失点が)自分たちの足を引っ張る、すごく痛い失点になってしまっているのは間違いないので、とにかくみんなで突き詰めて、変えていかなきゃいけないと思っています」

 とはいえ2点のビハインドを背負った後半、「このままでは終われない」と全員でリマインドして流れを取り返し、同点に追いついたことについてはポジティブな要素だと受け止めた。

「試合前から、札幌がマンマークではめてくることや、GKにはプレッシャーをかけてこない分、僕がフリーマンになるのもわかっていました。なので本来なら、もう少し中盤に効果的なボールを出したかったんですけど、前半は全体的に少し動きも少なくアンカーのところもうまく使えなかったので、逆に少し長いボールを多めにして、相手をひっくり返す作業を続けていました。自分のキックの精度はもっともっと上げていかないといけないですが、そこからセカンドボールを拾ってチャンスになっていたシーンもあったし、相手の戦い方を考えても前半のうちにあんなふうにロングボールもあるんだぞとジャブを打っておかないと後半に繋がらないというか、相手の出足を止められないんじゃないかという考えもありました。そういう意味では2失点してしまったことはすごく余計でしたけど、前半の戦い方が全て悪かったわけではなく、むしろ後半に繋がった部分もあったと思っています。その上で後半は途中から出てきたヒデ(石毛秀樹)やダワンらが前半の流れを踏まえて、中盤でポジションをうまく入れ替わりながらプレーしてくれたことで、スペースが空いてきて流れを掴めた。また、ずっと取り組んできた形で2点を取れたのは自信になる。今後も目指していくべき、今シーズンのガンバの戦いを象徴する得点だったと思っています」

■サッカー人生で一番「眠れなかった」。

 個人的にはこの1週間、眠れない毎日を過ごしてきた。

「サッカー人生で一番、眠れなかったです。ああいうミスをしないのがベテランというか、チームを締めなければいけない立場の自分があの時間帯に、あのミスをしてしまって情けない。これまでも大きなミスがなかったわけじゃないけど、他の試合とは比べものにないくらい、だいぶ堪えました」

 『あのミス』とは、前節・サンフレッチェ広島戦のアディショナルタイムに喫した失点シーンを指す。自陣ゴール前で味方に出したパスがやや短くなったところを相手に突かれ、それに対応したネタ・ラヴィのプレーがファウルを取られてPKを与えたシーンだ。70分に宇佐美貴史のゴールで同点に追いつき、追い上げムードだった展開の中で自らチームの勢いに水を差すプレーをして敗戦に繋がってしまったことを悔やんだ。

「自分自身のポジションもまだ確立していないシーズンの序盤、アピールしていかなきゃいけないと思っていた試合で、一番やったらあかん時間帯に、あのミスが出たのはもう情けないの一言に尽きる。ゲーム勘がどうこうとか、最初の試合とか、そんなことは言い訳に過ぎず、自分としては試合中に情報収集を怠った結果だと思っています。前半はあのプレーでボンボン、相手のプレッシャーを外せていて…相手との距離が近かったのも気づいていたんですけど、今回も外せるだろうと思って出してしまった。もっとアラートにピッチの状況を感じておくべきだったし、時間帯的にも少しでも厳しいと感じていたならチャレンジするべきじゃなかった。とにかく情けないとしか言いようがない」

 試合が終わって、いつも通りに試合の映像を見返すことはしたものの、あのシーンだけは怖くて目を塞ぎたかったとも話す。それがトラウマとなり、翌日の練習で「ボールをもらうのが怖くなったのも初めての経験だった」と明かした。

 それほどまでに打撃を受けたのは、今シーズン序盤から繰り広げてきたチーム内でのポジション争いもあってのことだろう。谷晃生にポジションを明け渡すことになった開幕直後、自分に課していた言葉がそれを物語っていた。

「晃生(谷)もめちゃめちゃいい選手やし、慧(石川)も目に見えて成長している。この競争で自分が生き残るには、それこそ、ミスひとつ許されない、ほんの僅かな隙すら見せずに自分のプレーを見せ続けるしかない。もちろんサッカーはミスが起きるスポーツと言われるけど、それでもそれを一切出さないくらいの圧倒的なプレーを見せるしか自分がポジションを任される理由がない…ってくらいのプレッシャーを自分に課しまくって、力に変えていこうと思っています」

 改めて言うまでもなく、東口がガンバに加入した14年以降、絶対的守護神として試合に出続けてきた過程においても、彼がその事実に慢心している姿を見たことはない。毎年、自分自身にいろんなミッションを課して取り組み、成長を求めてきたのもその証だろう。だが一方で、若い選手が次々と台頭してくるこの世界では、時に『年齢』が自分の立場を苦しくすることもあるということへの自覚はある。

「ベテランと若手、どちらを使っても遜色がないのなら、将来性のある若い選手を使うのはこの世界ではある意味、当たり前のこと。自分が若い時もきっとそれが理由でチャンスをもらえたこともあったはず」

 であればこそ、チーム最年長、36歳になった自分がピッチに立ち続けるには、それ相応の『理由』がいると考えていたのだろう。そして、だからこそ、チームから勝ち点を奪うような致命的なミスをしてしまったことが、途轍もなく悔しかった。

■重圧を跳ねのけ『自分のプレー』を求めた経験値。

 ただ、そんなふうに「頭の重い1週間」を過ごしながらも、それを自分なりに消化し、過度に緊張しすぎることなく札幌戦のピッチに立ち、試合の入りから、締めくくりまでアラートに進められたのはある意味、経験の為せる技だろう。この試合の2日前には谷の日本代表選出が発表されていたことを考えても、彼にかかる重圧はより大きく膨れ上がっていたはずだ。だが常に自分にいろんな言葉をリマインドしながら90分を戦い抜いた。

「とにかくこの1週間はすごく頭の重い時間でしたけど、とにかく試合でのミスは試合で取り返すしかないと思っていました。正直、先発を外されるのは覚悟していたので、先発を任されて驚いたくらいでしたけど、ダニ(ポヤトス監督)がくれたチャンスに結果で応えるしかないと思っていました。試合の中で心がけたのは『とにかくシンプルにやる』こと。あとは中途半端な選択をするのは自分らしくないというか…この1週間で改めて『自分のプレーをハッキリやり切る』ことしか自分がチームに貢献できる方法はないと思っていたので、試合中はずっとこの2つを自分にリマインドしていました。結果的に、勝てなかったのは残念やし、2つ失点してしまったのも悔しいですが、ここ最近の試合は、後半は常にいい流れで進められているし、それを前半からできれば、もっと自分たちの戦いができるという手応えは掴めています。この序盤は、トライ&エラーを繰り返す時期でもあると考えれば、今日は勝ち点1を積み上げられたことをポジティブに考えたい。ましてやさっきも言ったように、自分たちの形で得点を奪えたという意味でも今日に限ってはいい引き分けだったと思います」

 誤解を恐れずに言うならば、サッカーはミスが起きるスポーツだ。ゴールキーパーは失点に直結するポジションということもあり、そのミスがよりネガティブに映りがちだが、フィールドに立つ全選手が、90分間ノーミスで戦い抜けることはまずない。もちろん若手でも、ベテランでも。

 であればこそ、大事なのはそのミスから何を学び、次のプレーにどう繋げていくのか。それをいかに自分の成長の肥やしにできるか。この日の東口の姿に改めてそれを教えられた気がした。

ガンバのゴールマウスを守り続けて10シーズン目。『競争』を更なる成長の糧に。写真提供/ガンバ大阪
ガンバのゴールマウスを守り続けて10シーズン目。『競争』を更なる成長の糧に。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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