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史上最高額で合意しても大谷翔平の年俸調停期間3年を最小限の出費に抑えることに成功したエンジェルス

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
年俸調停史上最高額で合意した大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【年俸調停制度下で史上最高額を得た大谷選手】

 すでに日本でも大きく報じられているように、エンジェルスが現地時間の10月1日、大谷翔平選手と年俸3000万ドルで1年契約に合意したと発表した。

 来シーズン終了後にFAとなる大谷選手は、このオフに最後の年俸調停の権利を有していたが、それを行使することなくエンジェルスのオファーを受け入れるかたちとなった。

 ちなみに年俸3000万ドルは、年俸調停最終年を迎えた選手として2020年1月にムーキー・ベッツ選手がレッドソックスと合意した2700万ドルを抜き、史上最高額となった。

 米国唯一の全国紙であるUSAトゥデイ紙のデータベースによれば、今シーズン年俸3000万ドルを上回っている選手は13人しかおらず、大谷選手は一気にMLB屈指の高額選手の仲間入りを果たすことになった。

【年俸上昇率445.5%アップは史上最高?】

 今回の大谷選手のように、MLBではシーズン終了を待たずに契約合意するのは決して珍しいことではない。実際ブレーブスは大谷選手と同じ日に、ベテラン右腕のチャーリー・モートン投手との契約合意を発表したりもしている。

 だが大谷選手の場合、エンジェルスのオファーにそのまま従う必要はなかった。両サイドの希望額に開きがあれば、堂々と年俸調停を申請し、仲裁者に大谷選手に見合った年俸額を選択してもらえたからだ。つまり年俸調停を利用できるオフまで契約合意を待った方がむしろ得策だったのだ。

 また大谷選手は以前から、シーズンの契約交渉に関しては代理人に一任するという姿勢を明らかにしており、シーズン中に本格的な契約交渉をするとも思われていなかった。それだけに今回の契約合意は、まさに寝耳に水といったところだろう。

 とりあえず大谷選手を含めた年俸調停最終年の年俸トップ5選手を表にまとめてみた。他の4選手と比較して、前年比増加率が驚異の445.5%増ととんでもないことになっている。

(筆者作成)
(筆者作成)

 残念ながら資料を発見することができなかったが、年俸調停の資格を得ている選手の中で史上最高の増加率だと予想される。

【年俸調停期間3年を最低限の出費に抑えたエンジェルス】

 個人的には、もし大谷選手が大型の契約延長に合意しないのなら、是非年俸調停を申請して欲しいと願っていた。突如MLBに現れた二刀流という規格外の選手に対し、仲裁者がどのような価値を見出した上で年俸額を決定するのか、かなり興味を抱いていたからだ。

 もちろんエンジェルスが史上最高額を提示したのも、二刀流選手としての大谷選手を一定の評価をしていたからだろう。だが米メディアの間では、年俸調整になっていれば3000万ドルを上回る額になっていただろうとの見方が大勢を占めており、エンジェルスとしては相当お得な年俸額で契約できたと考えるべきだ。

 そもそもエンジェルスは大谷選手の年俸調整1年目となった2021年に、総額850万ドルの2年契約(2021年が300万ドルで2022年が550万ドル)を結んだことで、かなりの節約に成功している。

 当時は毎年負傷を繰り返す大谷選手との2年契約を疑問視する声が挙がっていたが、結果的にそのシーズンは大きな負傷もなく二刀流としてフル回転し、満票でMVPを受賞するという活躍をみせた。

 もし大谷選手が2年契約を結んでいなければ、昨オフは年俸調停2年目で大幅な年俸アップになっていた。ちなみに年俸調停2年目の最高額はベッツ選手の2000万ドルなので、それに近い額か、それ以上だったかもしれない。

 それを考えれば今シーズンの年俸が550万ドルで済んだこと自体、エンジェルスは相当に得をしている。つまりエンジェルスは、大谷選手の年俸調停期間3年を最低限の出費に抑えることに成功したわけだ。

【今回の合意で今オフにトレード話が再燃か?】

 また別の視点からも、今回の大谷選手の契約合意が相当にリーズナブルだったと考えられる。

 米国の有料スポーツ専門サイトの「The Athletic」のケン・ローゼンタール記者が今年6月に、エンジェルスのペリー・ミナシアンGMがシーズン開幕前に大谷選手の代理人と非公式ながら契約延長の話を行ったと報じたことで、大谷選手の契約問題があっという間に人々の関心事になった。

 また同記者は、エンジェルスは二刀流としての大谷選手の価値を評価し、契約延長にはマックス・シャーザー投手並みの平均年俸額が必要になってくるだろうと考えているとも報じている。

 今シーズンのシャーザー投手の年俸額は、MLB史上最高額の4333万3333ドルなので、エンジェルスとしては最低でも4000万ドルを超えるような年俸額を想定していたと考えられる。そうなると3000万ドルは相当にリーズナブルだといえるだろう。

 だがエンジェルスは、ローゼンタール記者が報じていた6月の頃とはチーム事情が一変してしまった。アルテ・モレノ・オーナーが8月下旬に、突如してチームを売却する方針を明らかにしたからだ。

 現在は新しいオーナーが決定するまで、将来的な見通しがまったく立たない状況だ。もちろん選手に使える予算にしても新オーナー次第で変わってくる。ミナシアンGMとしては、そうした不確定要素ばかりの中で大谷選手に平均年俸額が4000万ドルを超える複数年契約をオファーできる状況にはなく、とりあえず年俸調停を回避しながら、最低限の出費で大谷選手を契約することにシフトせざるを得なかったように思う。

 だがシーズン終了を待たずに大谷選手の来シーズン年俸が3000万ドルに決まったことで、彼の獲得に興味を持つチームは相当に動きやすくなったはずだ。特に予算が潤沢な強豪チームならば、3000万ドルが彼らの年俸総額を圧迫するようなことは考えにくく、問題なくチームに迎えられる状況になったといえる。

 むしろ今回の契約合意で、このオフは熾烈な大谷選手の獲得競争が巻き起こるかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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