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メルボルンから世界へのステップを踏み出した木下晴結 [テニス]

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
グランドスラムジュニアデビューを飾った木下晴結(写真協力/住友ゴム工業株式会社)

木下晴結が、オーストラリアンオープン・ジュニアの部でグランドスラムデビュー!!

「めちゃくちゃ悔しいというのが、一番最初に出てくる言葉なんですけど……」

 2022年1月中旬に開催されたオーストラリアンオープン・ジュニアの部の本戦に初めて出場した木下晴結の第一声だった――。

 2021年11月に、ダンロップが主催するRoad to the Australia open junior seriesのワイルドカード選手権(日本選手のみ出場)で優勝した木下は、国際テニス連盟(ITF)が主催するワールドジュニアサーキットの一つである「トララルゴン国際ジュニア2022」(グレード1)での予選のワイルドカード(大会推薦枠)を獲得した。トララルゴンでの木下は、ワイルドカードのチャンスを活かして、予選2試合を勝ち抜き本戦に勝ち上がってみせた(本戦1回戦敗退)。

 また、木下にとって幸運だったのは、オーストラリアンオープン・ジュニアの部の予選への出場権が初めて得られたことだ。これはダンロップが、テニスオーストラリア(オーストラリアテニス協会)と交渉した結果だという。

 オーストラリアンオープン・ジュニアの部開幕時には、ITFジュニアランキングを119位まで上げていた木下が、ジュニア女子シングルス予選で第2シードとなった。オーストラリアンオープンの大会会場であるメルボルンパークへ行きたいという気持ちが強かった木下は、1回戦6-0、6-0、2回戦6-2、6-1、いずれもオーストラリア選手を破り、予選初挑戦で見事2試合を勝ち抜いて初の本戦入りを決めた。

 木下の海外遠征に帯同する奥田裕介コーチは、「晴結の気持ち、勝負強さが出た試合でした」と、木下の予選突破を評価した。

 ちなみに、この結果によって、木下は、2期生として参加している伊達公子&ヨネックスジュニアプロジェクトでの目標達成第1号となった。

 オーストラリアンオープンは、テニス4大メジャーであるグランドスラムの一つだが、ジュニアの部は、ITFの格付けが一番高いグレードAの大会だ。シングルスドローは64で、ジュニアにとって最高峰の大会となる。奥田コーチの言葉を借りれば、グランドスラムジュニアは誰もが経験できるような舞台ではないのだ。

 本戦1回戦での木下は、プレーに硬さが見られミスが早く、第10シードのヤロスラバ・バルタシェビッチ(19位、ロシア)に5-7、4-6で敗れ、本戦デビュー戦を勝利で飾ることはできなかった。悔しさをあらわにした木下だったが、それは向上心の表れといえるだろう。そして、予選をきっちり勝ち上がり本戦出場を成し遂げたことによって、彼女が一つの目標を達成したのは間違いない。

「まずはメルボルンの会場に行きたかったというのが一番だったので、それ(目標達成)はすごく嬉しいです。やっぱり予選と本戦で全然待遇や環境が違うので、楽しいです」(木下)

 一方、斉藤咲良と組んだジュニア女子ダブルスでは1回戦を勝利。2回戦では第2シードペアに、ファイナルセット10ポイントマッチタイブレークの中で、木下/斉藤組は、2回のマッチポイントを握りながら惜しくも敗れた。第2シードペアの1人は、現在のジュニア女子ナンバーワンのペトラ・マルチンコ(クロアチア)だった。木下より1歳上で、世界のトップレベルで活躍するマルチンコのボールを打てたことは、今の木下にとって大きな財産になったはずだ。

Road To The AOのホスピタリティ体験として、ダンロップが主催した「チャンピオンズプラクティス」にも参加した木下。元選手のアリシア・モリクさんが参加した(写真協力/住友ゴム工業株式会社)
Road To The AOのホスピタリティ体験として、ダンロップが主催した「チャンピオンズプラクティス」にも参加した木下。元選手のアリシア・モリクさんが参加した(写真協力/住友ゴム工業株式会社)

 テニスでのジュニア年代である10代半ばは、1年1年の重みが特に大きいと言われる。心の成長、体の成長、テニスの成長、それぞれが1年で劇的に変化することがあり得るからだ。

 15歳でグランドスラムジュニアデビューを飾った木下は、今までテレビやインターネットなどで見てきた世界に自分が足を踏み入れ、体感できたことに目を輝かせた。

「知っているプロがすぐそこにいて、隣で練習していたり、刺激にもなるんですけど、グランドスラムって、こういう所なんだなって感じました。今までと全然違う環境の中で、いい経験ができたかなと思って、次の大会や試合につなげていけたらなと思います」

 こう語る木下は、楽しみにしていた海外でのジュニア大会をこれまで3大会戦ってきて、自分なりの手応えを得ると同時に課題も感じている。

「手応えはやっぱりありますね。でも、ここという時に、(対戦相手に試合の流れを)気持ちで持っていかれる場面があったり、大事な場面で相手が自分のパフォーマンスを上回るという機会が多いので、そこを(修正できるよう)頑張っていきたいです」

 収穫もあった。これまで木下本人が得意だと感じていたのはバックハンドストロークだったが、あるショットに大きな自信が芽生えた。

「フォアハンドが、オーストラリアに来てから、自分的に感覚がどんどん良くなってきていて、バックのダウンザラインももちろんなんですけど、フォアにも結構自信を持つことができているかなと思います」

 近い将来、木下が、ジュニアだけでなくプロのワールドツアーレベルで活躍するには、フォアハンドストロークの進化がキーポイントになるのではないか。ラケットヘッドの走りがよいフォアはスケールの大きさを感じることができるし、このショットを軸にして、これまで日本女子選手では見られなかったオールラウンドプレーヤーになれるかもしれない。

「グランドスラムの本戦の舞台を1回経験できたので、(今後は)本戦で勝って、勝ち上がることを頑張っていきたい」

 木下が、グランドスラムジュニアデビューで体感した悔しさ、楽しさ、嬉しさ、どれも今後の彼女の成長へつなげていきたいところだ。

 もちろん結果が伴わなければ、世界への階段を上がっていくことはできないが、だからといって結果だけに固執するのはジュニア時代では得策ではない。木下がテニスを楽しむことを見失わないようにすることも、今後の彼女の成長には大切になってくるだろう。

 今、木下は、メルボルンから世界へのステップを確かに踏み出したのだ。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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