「頭が良い」とは一体なんのことを指しているのか〜会社によって曖昧でばらばらな定義〜
■「頭の良さ」は当然の採用基準
採用基準として「頭の良さ」を、ストレートに公に掲げている会社はあまりありませんが、選考の際に、適性検査などでは数学や国語などの能力試験でスクリーニングをかける会社が多いことから、多くの会社で「頭の良さ」を基準にしていることは自明です。
ところが、数学や国語などはわかりやすいのですが、よく使われている「地頭(じあたま)」の良い人を採れなどと言われてしまうと途端によくわからなくなってしまいます。本稿では、「頭が良い」と言う場合、どんなことを指していることが多いのか、考えてみます。
■多くの会社が4つのどれかに当てはまる
まず、実際に多くの人事担当者の「頭の良さ」の定義を聞いてきた私の経験から言うと、多くの場合、以下の4つのいずれかを指していたことが多かったです。
①「論理力」(論理的思考能力、ロジカルシンキング・・・)
ある概念を論理的に展開して別の概念を生み出す能力。数学の図形の証明問題(「仮定」から「結論」を論理的に導く)のようなイメージ
②「解釈力」(本質把握力、抽象化力、クリティカルシンキング・・・)
複雑で曖昧な現実から、「要はこういうこと」と本質を抽出するような能力。国語の要約問題や、小説の主人公の気持ちを読み取る問題のようなイメージ。偏見なく細分まで丁寧に物事を見ることで高まる
③「表現力」(現実化力、実現化能力、語彙力・・・)
ある概念を実現することで、現実世界での価値を生じさせるような能力。コンセプトの決まった雑誌において、どういうライター、モデル、ロケ地などで実際にそのコンセプトを表現するかを考えるというようなイメージ
④「発想力」(直感力、連想力・・・)
二つのものの共通点を発見したり、組み合わせることで別の何かを生み出したりすることができるような能力。論理的延長線上にはない、飛躍的発想ができる。多くの知識を持っていて、その脳内ネットワークを用いて、イノベーションやアートなどを直感的に生み出すようなイメージ
■では、頭が「悪い」とは何か
また、「頭が良い」=「頭が悪くない」と考えてみるとわかることもあります。「頭が悪い」=「認知の歪み」(認知療法で用いられる、ある意味「頭の悪さ」の類型とも言えそう)が参考になります。この「認知の歪み」は10パターンに整理されており、以下のようなものがあります。※注:曽和解釈
①「全か無か思考」
現実にはグレーなものを白黒はっきりさせたがる
②「過度の一般化」
少しの事例で生じた現象が、その他すべてにも当てはまると考える
③「心のフィルター」
本当はある良いことなどを、全く見ないようにしてしまう
④「プラスの否定」
良いことを、別の意味づけを行い、実は悪いことであると考える
⑤「結論への飛躍」
妥当な根拠も何もなく、一足飛びに結論を出し、決めつける
⑥「欠点の過大視、利点の過小視」
良いところを過小評価し、悪いところを過大評価する
⑦「感情的決めつけ」
感情によって、対象への評価を決めつけてしまう
⑧「すべき思考」
理想を重視しすぎて、現実的でなくとも、そこから外れることを嫌う
⑨「レッテル貼り」
大雑把な固定的パターンで対象を分類してしまう
⑩「個人化」
すべての原因が自分にあるとし、その他の要素の影響を考えない
これらの「認知の歪み」が「ない」人が「頭が良い人(状態)」と言えるかもしれません。
■「頭の良さ」の定義を考えましょう
他にも、キャッテルの知能の分類である「流動性知能」(推論力、思考力、記憶力、計算力などのような、新しい問題を解決することに必要な能力。問題解決能力やいわゆる学力と言われているものにも近い。25歳頃がピークと言われる)、「結晶性知能」(専門能力、習慣、趣味での能力など、過去の経験が土台になる専門的な能力。加齢による低下が少ないと言われる)なども参考になります。
今回あげたもの以外にも「頭の良さ」の中身になりそうなものはたくさんあります。このように一口に「頭が良い」と言っても、いろいろなものがあることを実感していただき、採用基準や育成目標を考える上では、できるだけ一義的な定義で言葉をご使用していただければと思います。