お笑いトリオ・ぱーてぃーちゃんが快進撃、「チャラ芸」が求められる理由とは?
有吉弘行曰く「令和の安田大サーカス」
チャラ男とギャル2名のお笑いトリオ・ぱーてぃーちゃんが快進撃である。
『よるのブランチ』(TBS系)、『笑神様は真夜中に…』(日本テレビ系)、『ぐるナイ おもしろ荘 若手にチャンスを頂戴!今年のブレイク芸人は誰だSP』(日本テレビ系)など2021年末からテレビ出演が激増。さらにTikTok、YouTubeなどでも動画が拡散され、一気に知名度を上げている。
ぱーてぃーちゃんは、すがちゃん最高No.1、信子、金子きょんちぃによる3人組。すがちゃんは2020年10月、石原涼丞と組んでいたパーティーズを解散。そして、エンぷレスというコンビで活動する信子、きょんちぃに合流。2021年4月、ぱーてぃーちゃんを結成した。
1月4日深夜放送のラジオ番組『土佐兄弟のCultureZ』(文化放送)に出演した際、すがちゃんは「石原とやっていたときは肩まで地下に浸かっていた」と浮上の気配がまったく見えなかったという。昨年12月15日放送『よるのブランチ』では「本気で売れたくなった」と、ぱーてぃーちゃんを組んだきっかけを口にしている。
そんなぱーてぃーちゃんのスタイルは、自由奔放なボケを繰り出すギャルの信子ときょんちいに対し、ホスト風な見た目のすがちゃんがキザなツッコミをいれていくもの。決めポーズは、イヴ・サンローランのロゴを模したハンドサイン。元日放送『ぐるナイ おもしろ荘』では、出演者の有吉弘行から「令和の安田大サーカス」と例えられた。
意外と真面目、ラジオ出演に合わせて新ネタ作り
ぱーてぃーちゃんのおもしろさのひとつは、チャラいように見えて、実はちゃんとしているというギャップだ。
『土佐兄弟のCultureZ』でも、番組用に新ネタを作ってきて披露する生真面目さを見せている。すがちゃんは「2022年が始まった瞬間、(番組用の)ネタを作った」と明かし、MCの土佐兄弟も「この番組でしか使えないネタなのに。やっぱり、菅野(すがちゃんの本名)ってマジでおもしろい」と旧友を称えた。
温度感が低めなギャル・きょんちぃが目標とするお笑い芸人は、和牛、銀シャリ。これまた意外にも本格的なしゃべくり漫才志向。「『M-1』で優勝したーい」と事も無げに言いながら、「今は真逆のことをやっている」と自分たちの現実をちゃんと認識している。
パリピ系ギャル・信子も、出演番組で「走り幅跳びでジュニアオリンピックに出たことがある」と輝かしい実績をアピール。まさかのアスリート芸人でもあった。彼女がリスペクトしているのは、南海キャンディーズの山里亮太。養成所のワタナベコメディスクール時代は「髪の毛は暗めで、ジャケットを着ていた。衣装はセットアップだった」と見た目も違っていた。
昨年12月27日放送『笑神様は真夜中に…』では、初ロケのオープニングで、あまりの手応えのなさにきょんちぃが号泣。さらに街歩きのロケ中も、信子、きょんちぃのレポートに納得がいかなかったすがちゃんが、撮影中にもかかわらず反省会をはじめた。芸風のチャラさに反して、どんなことでも真面目に向き合う姿勢が笑いを誘っている。
トータルテンボス、エルフ・荒川、EXITがチャラ芸で人気に
これまでもお笑い界には、チャラさをモチーフにした芸人が度々登場。いずれも、ギャップのある芸風が魅力的だった。
ストリートファッションに身を包み、「渋谷系漫才」と称されたのはトータルテンボスだ。「ハンパねぇ」という若者向けの言葉を取り入れながら、コント漫才に移る際などには「しのびねぇな」「かまわんよ」と古めの言葉をやりとりのなかに織り交ぜた。見た目や話口調と、ネタ中にチョイスするワードのギャップが特徴的だった。2008年の『第10回爆笑オンエアバトルチャンピオン大会』(NHK総合)で優勝を飾り、『M-1グランプリ』でも2007年大会準優勝の結果を残すなど、実力派漫才コンビでも知られている。
ギャル芸人でブレイク中なのは、エルフの荒川。陽キャ感を全面に押し出し、どんな場でもポジティブな空気に変える。1月2日放送『笑いの総合格闘技!千原ジュニアの座王 新春SP』(カンテレ)でも、「神社でお賽銭を投げたあとの一言」というお題に挑んだ際、「神さま、人間はなんやかんやみんな頑張ってます。心配せんとってね!」と一点の曇りもない回答で笑いを誘った。同番組のなかで粗品(霜降り明星)との大喜利対決に敗れても、松本人志(ダウンタウン)の審査評に対して「アドバイス、嬉しいです!」と前向き発言。「屈託のなさ」を笑いにできるところがすごい。ギャルな風貌に眉をひそめそうな層ですら笑顔にさせるキャラクター性がある。
EXITは、すでに売れまくっている自分たちの現実を引き合いに出した漫才の構成が抜群だ。『M-1グランプリ2021』3回戦では出演しているCMに配慮しながらネタを披露したり、準々決勝では「『M-1』の賞金1千万よりも月収の方が高い」と言ったり。メタ的要素も取り込んだネタは、ゲスさと知性のバランスが絶妙である。また兼近大樹は初小説『むき出し』(2021年/文藝春秋)を出版。こちらも傑作で、作家としても期待大だ。
オリラジ・藤森「褒めや肯定を手元にあふれさせる」
それぞれが持つ陽気さも、テレビ番組などでチャラ芸が求められる要因だ。どんなことでも軽いノリで押し切っていく部分が好評を集めている。
視聴者が日常で苦しいことやつらいことがあっても、チャラ芸人を見ると「こんなにお気楽で良いんだ」と安心できたりするし、いい加減に生きていそうなチャラ芸人たちがふとした拍子に発する言葉に励まされたりもする。
チャラ芸は軽すぎて後には残らないから、もう一度見たくなり、それが中毒性を生むのではないだろうか。
あと、チャラ芸人の肯定感の高さもウケている理由のひとつ。
チャラ芸人の代表格はオリエンタルラジオの藤森慎吾だが、彼はあらゆる相手を「君、カワウィーね(かわいいね)」と持ち上げ、自分が何を言われても「サンキューです!」と感謝して受け入れた。どんなことに対してもひたすらプラス思考なのだ。これは現在、エルフの荒川がブレイクしている意味にも通じるかもしれない。チャラ芸人のノーテンキさは、ハッピーオーラに変わり得る。
藤森は自著『PRIDELESS(プライドレス) 受け入れるが正解』(2021年/徳間書店)のなかで、番組でウケたり、これから使えそうなチャラいワードをスマホのメモ機能に書き溜め、そこには「プラスのことしか書かない」というマイルールを設けていると記述。手元に「褒め」や「肯定」をあふれさせることで、前向きな気持ちで固められるという。チャラ芸人はそうやって肯定的なマインドを作って芸を伸ばし、視聴者も明るい気持ちにさせているのだ。
当分は続きそうな、ぱーてぃーちゃん旋風。すがちゃんは「目標のお笑い芸人は島田紳助さん」と公言しているが、まずはチャラ芸でどこまでお笑い界に食い込めるか。今後の芸の進化も含めて楽しみにしたい。