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泉谷しげるが語る『阿蘇ロックフェス』への思いと、“復興支援”におけるエンターテイメントの可能性

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
『阿蘇ロックフェスティバル2018』(5月26日/熊本県野外劇場アスペクタ)

『阿蘇ロックフェス2019』は9月29日、初の北九州開催。今年はなぜ北九州で行うのか?

泉谷しげる with BAND
泉谷しげる with BAND
さだまさし
さだまさし

平成26(2014)年11月、阿蘇山中岳で起きた大規模噴火により、阿蘇を訪れる観光客が3割も減少。その後も風評被害により、阿蘇になかなか観光客が戻ってこない事を憂慮した泉谷しげるが発起人となり、“エンターテイメントで地域活性”を合言葉に、2015年5月30日に第1回目の『阿蘇ロックフェスティバル2015』(以下『阿蘇ロックフェス』)が開催された。2016年、再び熊本を悲劇が襲う。4月14日~16日に熊本地震が発生。フェスの会場のある南阿蘇村も大きな被害を受け、5月28日に開催するはずだったフェスは延期を余儀なくされた。しかし2017年、2018年と開催にこぎつけ、今年も9月29日に『阿蘇ロックフェスティバル2019北九州』として、初めて熊本以外の地、北九州・小倉「ミクニワールドスタジアム北九州」で開催される。出演は泉谷しげる with BAND、さだまさし、AK-69、KEYTALK、シシド・カフカ、竹原ピストル、ももいろクローバーZ、RAISE A SUILEN、Poppin'Party strings(愛美・大塚紗英・西本りみ)の9組。このフェスのオーガナイザー・泉谷しげるにフェスへの思いを聞いた。

AK-69
AK-69
KEYTALK
KEYTALK

「2020年度に、阿蘇地域全体でインフラ復旧の大きな山場が来ることが発表になって、来年は2日間開催しようという企画が持ち上がりました。でも1日開催するだけでも、その準備で地元スタッフには大変な負担をかけてしまうので、今年は開催を見送って、来年に向け準備をしようと思っていました。しかし以前から、北九州市民からミクニスタジアムで音楽イベントをやって欲しいという声をたくさんもらっていて。合わせて、このタイトルを変えることなく「志」のままに、フェスを行って欲しいとも言っていただけました。熊本・阿蘇の仲間たちも、地元をPRできるのであれば、というところでコラボが実現しました」。

噴火、大地震と大きな災害に見舞われた熊本、阿蘇の事は、九州地方だけの事ではなく、日本中の関心事であり、誰もがその一日も早い復興を望んでいる。しかし泉谷は、決して無理をしてやる必要はないという。地元の人が楽しんでフェスを作りあげて欲しいと、その理想を語る。

シシド・カフカ
シシド・カフカ

「やっぱり地元がメインじゃないですか。だから地元がプレッシャーを抱えたり、悲壮感を持ってやるものではないのでない。こういう事は、楽しくやるべきだといつも思っているので、今ひとつ気が乗らないなら、やめようというスタンスです。お互い強迫観念に迫られてやるものではないです。エンターテイメントだから、楽しくやらないと意味がない」。

「義援金を贈り続けていると、まだ復興、自立できていないという印象を多くの人の与えてしまう。そうではなく、そこへ足を運んでほしい」

「阿蘇ロックフェス」は、売り上げの一部を義援金として寄付、というスタイルではなく、あくまで地域活性化がテーマだ。県内・県外から多くの人に来てもらい、音楽と観光を楽しんで欲しいというのが一貫したテーマだ。

竹原ピストル
竹原ピストル
Poppin'Party strings(愛美・大塚紗英・西本りみ)
Poppin'Party strings(愛美・大塚紗英・西本りみ)

「義援金を集めることもやってきたけど、いいことしたなっていう自己満足みたいな感じがして仕方がない。義援金を募って、贈るという事は、相手をずっと被害者扱いするという事。それを続けるという事は、まだその地域が復興できていない、自立できないと多くの人に思わせてしまう恐れがある。それはとてもくだらないことだと俺は思う。それよりも、あそこは被害が大きい場所もあるけど、大丈夫で安全な所もあるんだから、観光に行けって言った方が、よっぽど地域への経済効果は大きいと思う。焼け石に水のような額の義援金より、社会的支援を得た方が、義援金以上のお金が街に入ってくると思う」。

これまでも、積極的に被災地の復興支援。「自分のファンがそこにいるから、見て見ぬ振りはできない。皆さんだって愛する人のためには頑張るはず」

これまで奥尻島津波被害(1992年)、雲仙普賢岳の噴火(1994年)、阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、東北豪雨(2015年)など、災害発生直後にチャリティー活動を行なってきた泉谷の言葉だけに、説得力がある。復興支援のために真っ先に立ち上がり、駆け付ける泉谷を突き動かすものを改めて聞くと、「そこにファンがいるからというのが大きいです。自分のファンがそこにいるのに、見て見ぬ振りはできないだろうっていうだけのことですよ。自分のことを好きって言ってくれる人が、何人かいるんだから。皆さんそうでしょ。家族や恋人のために頑張るわけじゃないですか。それと、孫ができたから余計そう思ったのだと思う。かわいくて仕方ないから、こいつが酷い目に遭ったらどうしようっていう、切迫感もあったのかもしれない。本当に好きな人のためとか、愛する人のためなら、人って頑張れるでしょ?」

「熊本の人は強い。あの震災の一年後にまさかフェスができるとは思わなかった」

熊本、阿蘇の被災者に対しても、ずっと愛ある言葉で鼓舞し続けている。「被害者面してるんじゃねぇ」と、泉谷らしいシニカルかつ深い愛情を込めた言葉で、元気づけている。

『阿蘇ロックフェスティバル2018』
『阿蘇ロックフェスティバル2018』

「阿蘇の人たちは動きが早い。本当に素晴らしい。震災の一年後に、まさかフェスをやれると思いませんでした。橋がなくなり、目を覆いたくなるような惨状を見た時、これは5~6年は無理だと思いました。でもあの見事な復活です。決して落ち込んで、伏したままじゃない熊本人の強さにびっくりしました。酷い目に遭った人たちが立ち上がって、自分達でちゃんと片付けたんです。そこが素晴らしい。俺はこのイベントでもそうですけど、被災地の人でもこき使いますよ、働けって(笑)。お前らが片付けなかったら誰か片付けるんだって。だって、じっとしていたら、色々な事を思い出して、余計に塞ぎ込んでしまうと思うから。働いた方が気が紛れるし、日本人はどんな酷い目に遭っても、片付けて立ち直っていく精神がある」。

「色々なフェスと重なり、ブッキングが大変。でもどのアーティストも趣旨に賛同してくれ、心意気で来てくれる。ここでしか観れないラインナップだと思う」

ももいろクローバーZ
ももいろクローバーZ
RAISE A SUILEN
RAISE A SUILEN

今年も、泉谷しげる with BAND、さだまさし、AK-69、KEYTALK、シシド・カフカ、竹原ピストル、ももいろクローバーZ、RAISE A SUILEN、Poppin'Party strings(愛美・大塚紗英・西本りみ)という多彩な顔触れが揃った。

「特に夏からこの時期かけては色々なフェスがあって、アーティストのブッキングも大変だけど、趣旨に賛同してくれて、心意気で来てくれるアーティストばかりです。ここでしか観る事ができないラインナップだと思っています。だからといって興行的に成功するとは限らないので、今年もたとえスタジアムがまあまあな集客でも、その周辺で買い物をしたり、美味しいご飯を楽しんで欲しいし、前夜祭もやったり、ロックフェスの名を借りた市民祭りにして、街全体を活性化するのが目的です」。

泉谷はオーガナイザーとして、九州だけでなく、今回の開催地・北九州の近隣の県まで積極的に足を運び、PRに余念がない。「市長は営業マンであれ」等、行政の人間にも指示を出し、動かし、熱いプロモーションを繰り広げている。

「俺を含め、行政の人の見え方なんて、フェスのためにはどうでもいいんですよ。自分はプロデューサーでもあり統括をする人間で、俺にそういう役割をやらせた事を、みんなに後悔させてやりたい(笑)。泉谷にやらせたから、こんなに動く羽目になっちゃった、みたいな。容赦しないからね(笑)。逆にこっちのスケジュールも容赦してくれない。詰め込んでくる(笑)。やっぱりこういう事って、上の人とか関係者だけが盛り上がって、なかなか現場までその熱が伝わらない、市民まで届かないという感じになりがちなので、そこをなんとかしたかった」。

6月には6時間、全61曲のライヴを完走。「やっぱりライヴが力をくれる」

71歳の泉谷は、6月30日渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で、過酷な「全力6時間ライヴ」を行った。1971年のデビューから歌ってきた作品と、最新アルバム『スキル 栄光か破滅か!』までの48年間のヒストリー、全61曲を歌い切った。

『阿蘇ロックフェスティバル2018』
『阿蘇ロックフェスティバル2018』
『阿蘇ロックフェスティバル2018』
『阿蘇ロックフェスティバル2018』

「やっぱりライヴが力をくれるんですよね。もちろん疲れるけど、回復力が育つというか、体が喜ぶのだと思う。最近特にそうなんですけど、人にとにかく強迫観念を与えないようにしています。悲壮感とかそういうものは意味がない。楽しいことに対して怠けるなって言っているだけ。一生懸命楽しまないとダメだって。楽しくないなら辞めた方がいい。自分はあくまでも楽しむためにやってるから、悲壮感ゼロなんです。6時間ライヴの時もドキュメントを撮るためにカメラが入っていたけど、『泉谷さん、悲壮感ないと絵にならないです』って言うから、『そんなのないよ、誰にもプレッシャーを与えてないんだから』って、言ってやりました(笑)。自分が努力している自慢なんていらないし、誰が見たいんだそんなもんって思う。人のためにとかではなくて、自分の楽しみのためにやっているんだから。楽しみっていうのは、結局熊本の人たちもそうだし、宮崎の人もそうだし、北海道の人たちもそうだけど、酷い目に遭った人たちにも、楽しむ権利があるということ。しかもあんな目に遭ったんだから、誰よりも先に楽しむ権利を持たなくちゃいけない。『この災害を忘れないようにしましょう』っていう人がよくいるけど、俺はそうじゃなくて、被災者にどれだけあの日のことを忘れさせてあげるかを、考えています。だからあの苦痛を思い出させるのは、おかしいと思う。忘れないでいるのは、そういう目に遭わなかった人たちでしょ。つまり俺たちみたいな人間が、忘れないようにするという事で、被災者にはなるべく忘れてもらって、楽しんでもらいたい。一番大事なことは、傷口を触らないこと。被災者の前で歌を歌う前に、『大変な目に遭って、でも立ち上がって…』って、そんな話を長々したらみんな引きますよ。それより、『馬鹿野郎てめえら、ノるんだこら!』ってやった方が、無責任になれるじゃないですか。エンターテイメントのすごいところは、なんでもできるということ。例えば政治をやっつける事もできるし、ドラマも作れるし、最新の流行も作ることができるし、昔を懐かしんで楽しむ事だってできる。被災地の応援もできる、万能のものなんです。上司や先輩からキツいこと、重たいことばかり言われたら、その日のことは忘れようとするじゃないですか。楽しいことは何回でも思い出したい。もっといえば、俺から言うのも変かもしれないけど、お金じゃなくて、幸せ優先ですよね。その人たちの幸せはどこかにあるのかという事を、最優先に考える事が大切です。それは自分の幸せでもあるかもしれない。そこは長く生きている年長者がやるべき事だし、時代を創ってきたやつは、時代をぶっ壊していくべきだと思う。『阿蘇ロックフェス』のようなお祭りは、並外れた頭のおかしい奴がやらないと面白くない。全部泉谷のせいにすればいいんですよ。あいつがかき回したから、こんなになっちゃったって、全部泉谷が決めたからって言えちゃえばいいんですよ」。

「北九州で開催することに熊本県民他から反対意見があるのは、とても健全なこと」

豪放磊落な泉谷だが、人一倍気を遣い、細かい心配りで周囲の人々を引きつけ、フェスを大きくしながら続けてきた。今年の北九州開催についても、熊本の人々のことを、気にかけている。

『阿蘇ロックフェスティバル2018』
『阿蘇ロックフェスティバル2018』

「色々な声がある事は知っています。でも『北九州が熊本を応援するって言ってくれたんだから、ありがたいと思って感謝しろ、それを『どこでもいいのか』とか『阿蘇ロックは私たちのものだ』みたいなことを言って、お前たちのものじゃなくて、みんなのものだから。熊本の中に閉じ込めておくのはおかしい。災害を私物化するな』って、この前、熊本のテレビの生番組に出演した時、言ってきました(笑)。でも、別の女に浮気しました(笑)、お詫びのフリーコンサートを熊本でやって、来年に向けてがんばろうとも言ってきました。反対意見や文句あるという事は、とても健全だと思う。嫌な言い方をする人たちもいるけど、それはその人たちなりの正義感かもしれないし、それをいじらないで放っておく事もできるけど、弄る健全さもあると思う」。

泉谷の愛情が、隅々にまで行き届いた『阿蘇ロックフェス2019北九州』に、多くの人が集い、またそこから新たに生まれる“愛”が、熊本を、阿蘇を元気にする。(写真提供/阿蘇ロックフェスティバル製作委員会)

『阿蘇ロックフェスティバル2019北九州』 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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