前途ある若者を葬る…北朝鮮「陸の孤島」での超法規的処罰
北朝鮮が、2020年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択した「反動思想文化排撃法」は、主に韓流コンテンツの流通をターゲットにしたものと言われている。その27〜28条は次のように定めている。
第27条(傀儡思想文化伝播罪)
傀儡の映画や録画物、編集物、図書、歌、絵、写真などを見たり聞いたり、保管した者、または傀儡の歌、絵、写真、図案などを流入、流布した者は、5年以上10年以下の労働教化刑に処す。
第28条(敵対国の思想文化伝播罪)
敵対国の映画、録画物、編集物、書籍を流入させたり、流布した者は、5年以下の労働教化刑に処す。大量の敵対国の映画や録画物、編集物、書籍を流入、流布したり、多くの人に流布した場合、または集団的に視聴、閲覧するように組織したり、助長した場合は、無期労働教化刑または死刑に処す。
傀儡とは南朝鮮(韓国)のことを指すが、そのコンテンツの流通に関わった場合や、多くの人に見せた場合、また助長した場合に限って死刑に処すことを定めており、単純視聴は労働教化刑(懲役刑)だ。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
ところが、単に韓流コンテンツを見たとの理由だけで、前途ある若者が「陸の孤島」にある管理所(政治犯収容所)送りとなり、波紋が広がっている。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、中国との国境に近い鉄山(チョルサン)在住の20代男性Aさんが8月、韓国ドラマと映画など不純録画物を視聴したとの理由で、管理所送りになった。彼は、過去にも韓流コンテンツを見ていて摘発され、労働教化刑の判決を受けた前科があるが、今回は2回目ということで、死刑にも等しい管理所送りとなったようだ。
周辺からアクセスが可能な教化所(刑務所)行きなら、家族がコネとカネをフル動員すれば、なんとか生き延びることができるかもしれない。
また、以前なら摘発されたとしてもコネを使って取締班にワイロを掴ませれば、もみ消すことも可能だったが、今では1000ドル(約14万6000円)以上のワイロでも、処罰を免れるのが難しくなった。さらに、外部から接近が不可能な管理所となれば、それすら難しい。
今回の判決に、彼の家族や知人は「あまりにもひどすぎる」との声を上げている。単純視聴なら労働教化刑のはずだというのがその理由だ。しかし、最近は厳罰化にさらに拍車がかかっている。
これは、朝鮮労働党中央委員会が8月20日ごろ、道、市、郡の党委員会の宣伝部に下した次のような指示に基づくものと思われる。
◯党の唯一思想体系を強化すること
◯組織ごとの思想教育事業を徹底すること
◯人民班(町内会)などの組織ごとに監視、通報システムを強化すること
◯傀儡映像物、性録画物などすべての不純物が入ってこないよう警戒すること
◯社会主義革命と関連した学習を強化すること
しかし、思想教育や取り締まり、監視を強化したところで韓流の流入を止められないのは、当局とてわかっているはず。だからといって何もしないわけにもいかない。「ムチ」ばかり振るうのではなく、本来は違法であるはずの、中国コンテンツの流入に対するタガを緩めて、韓流の代替品とする「アメ」を使ってみたものの、若者へのウケは今ひとつ。
当局にできるのは、北朝鮮が完全に韓流に染め上げられるのを、少しでも遅らせることくらいだろう。