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【頭皮環境を整えて発毛を促進】PRP治療が男性型脱毛症に効果的な理由とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

男性型脱毛症(AGA)は、男性の80%、女性の50%が経験すると言われる、非常によくある脱毛症です。AGAの特徴は、次第に毛包が小さくなり、髪の毛の数が減少していくことです。 AGAの発症には遺伝的な要因が大きいですが、ストレスやホルモンバランスの変化など、さまざまな原因が複雑に絡み合っています。

近年、AGAの新しい治療法として注目されているのが、多血小板血漿(PRP)療法です。PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板を濃縮して調製した血漿を頭皮に注射する治療法で、臨床試験でもその効果が実証されています。しかし、PRPがどのようなメカニズムでAGAを改善するのかについては、まだ分かっていないことが多いのが実情です。

【PRP治療がAGAに効果を発揮するメカニズムとは?】

今回、中国の研究チームが、PRP治療を受けたAGA患者の頭皮細菌叢(頭皮に生息する細菌の集団)を分析し、興味深い結果を発表しました。彼らは、14人のAGA患者(男性、平均32.5歳)に対し、月に1回のペースでPRP治療を6ヶ月間行いました。そして、治療前と治療後に頭皮のサンプルを採取し、16S rRNA遺伝子の塩基配列を調べることで、細菌叢の変化を詳細に分析したのです。

その結果、PRP治療後には、頭皮細菌叢の構成に変化が見られました。具体的には、健康な人の頭皮に多く見られるクチバクテリウム属(Cutibacterium)の割合が増加し、ブドウ球菌属(Staphylococcus)の割合が減少していたのです。クチバクテリウムは、毛包の炎症を抑える働きがあると考えられており、一方のブドウ球菌は炎症を引き起こす原因菌の一つと見られています。PRP治療によってこの2つの菌のバランスが整うことで、毛包の炎症が抑えられ、発毛が促されるのではないでしょうか。

【頭皮環境を整えることが発毛につながる】

また、研究チームは、頭皮の脂っぽさを反映するローソネラ属(Lawsonella)の菌が、PRP治療後に減少していることも突き止めました。AGAの患者さんは頭皮の皮脂分泌が過剰になる傾向があり、これが頭皮環境の悪化や炎症の一因となっていると考えられます。PRP治療によって過剰な皮脂分泌が抑えられ、頭皮環境が改善することで、発毛が促進されるのかもしれません。

【PRP治療は頭皮細菌叢を整えることでAGA改善に寄与?】

以上の結果から、研究チームは「PRP治療は頭皮細菌叢のバランスを整えることでAGAの改善に寄与している可能性がある」と結論付けています。AGAの治療において、頭皮環境を整えることの重要性が改めて示唆された形です。もちろん、今回は少数の被験者を対象とした研究であり、より大規模な臨床試験でデータを積み重ねていく必要があります。しかし、PRP治療の効果のメカニズムの一端が明らかになったことで、AGAの新しい治療法の開発にもつながることが期待されます。

頭皮の健康は、髪の健康に直結します。皮脂の過剰分泌や汗などによる頭皮環境の悪化は、脂漏性皮膚炎や、ときには細菌感染を引き起こすこともあります。普段から頭皮を清潔に保つことを心がけ、異変に気付いたら早めに皮膚科専門医に相談するようにしましょう。

参考文献:

Zhang, Q. , Wang, Y. , Ran, C. , Zhou, Y. , Zhao, Z. , Xu, T. , Hou, H. and Lu, Y. (2024), Characterization of distinct microbiota associated with androgenetic alopecia patients treated and untreated with platelet-rich plasma (PRP). Anim Models Exp Med, 7: 106-113. https://doi.org/10.1002/ame2.12414

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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