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岸田首相の受ける慢性副鼻腔炎の内視鏡手術とは?効果は?

前田陽平耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医
手術用の内視鏡の写真 筆者撮影

岸田首相が慢性副鼻腔炎について手術を受けるということですが、慢性副鼻腔炎の手術とはどのようなものでしょうか?

(本記事は主に成人の慢性副鼻腔炎に対する診断・治療について述べています)

慢性副鼻腔炎とは?

慢性副鼻腔炎の説明のために、まずは「副鼻腔」の話からします。鼻の奥・周りには鼻からつながる「部屋」のような構造があり、これらは副鼻腔と呼ばれています。(図1)副鼻腔の炎症によって、鼻水や鼻づまり、鼻水がのどに垂れる(後鼻漏といいます)、においがわかりにくい、などの慢性的な症状が12週以上続く状態です。生活の質を損なうこと、そして治療によってそれらが改善することが知られています。(※1)

図1 副鼻腔の構造:上の3つ以外に蝶形骨洞もある。(イラストAC)
図1 副鼻腔の構造:上の3つ以外に蝶形骨洞もある。(イラストAC)

慢性副鼻腔炎はどのように診断・治療されますか?

鼻水・鼻づまりなどの症状があって受診し、必要に応じてファイバースコープやレントゲン、CTなどの検査が行われ、その結果によって診断されます。症状などから慢性副鼻腔炎であることが強く考えられる場合は、それらの検査を当初は行わずに治療が開始される場合もあります。通常の慢性副鼻腔炎であれば、マクロライド系といわれる種類の抗生剤をある程度長期に(2~3か月程度)内服していただく場合が多いですし(※2)、他に原因がある(歯が原因であったり、全身の病気が原因であったり)場合は、それらに対する治療も行われます。それらの治療が無効であった場合に手術が考慮されますが、鼻茸(鼻ポリープ)が大きい場合は薬の効果が低い場合も多いといわれている(※2)ため、診断当初から手術が計画されることもあります。

図2 手術で用いられる内視鏡 筆者撮影
図2 手術で用いられる内視鏡 筆者撮影

慢性副鼻腔炎の手術はどのように行われるでしょうか?

慢性副鼻腔炎の手術は、現代ではそのほとんどが内視鏡(図2)で行われます。かつては口の中(上の歯茎の部分)を切開して手術が行われることが多かったのですが、内視鏡手術の普及により、慢性副鼻腔炎に対して口の中を切開する手術が行われることは非常にまれになりました。内視鏡を左手で持ちながら、右手で手術が行われます。(図3)副鼻腔のまわりには眼窩(眼球が入っている部屋のような部分)や頭蓋底(頭蓋骨の中心で脳を支えている部分)があり、それらの構造物を傷つけないように手術を行います。それらの構造物を傷つけないために、近年では(鼻の中の)どの部分を触っているのかわかるナビゲーションシステムが導入されている施設もあります。

副鼻腔は小さい部屋がたくさんあるような構造をしていますが、これらの部屋の壁を取り払い、大きな部屋のような構造にすることで換気を改善し、副鼻腔の粘膜が正常に戻る手助けをします。同時に、鼻中隔(左右の鼻の仕切り)の曲がりを直す手術や、下鼻甲介(図1)を縮小するような手術が行われることもあります。これらの手術も鼻の穴から内視鏡で行われます。

手術後は、(多くの場合は)鼻の中に出血を抑える詰め物を行い、出血の減少を観察して、数日後に抜去されます。なお、かつてはこの詰め物としてガーゼが主流で、長く置いておくことが多く、抜去時にとても痛い、あるいは長期留置のため感染を起こしやすいという問題がありましたが、近年では詰め物の素材が進化しており、このときの苦痛もかなり軽減しました。詰め物の留置期間も短くなってきています。

なお、慢性副鼻腔炎の手術は全身麻酔で行われることも、局所麻酔で行われることもあります。病状や施設、患者さんの希望によって麻酔方法が選択されます。かつては局所麻酔手術が標準的でしたが、近年ではどちらかというと全身麻酔で行われることが多いと思われます。

図3 筆者の手術の様子 内視鏡を用いて、画面を見ながら手術している。中央に見えるのがナビゲーションシステム。
図3 筆者の手術の様子 内視鏡を用いて、画面を見ながら手術している。中央に見えるのがナビゲーションシステム。

手術をすれば完治しますか?

手術の効果は高く、手術を行うことで完治に至るケースは多いです。一方で、完治に至らないケースもあります。5~10年の経過で15~20%程度の再発があるというデータもあります。(※3)特に、最近増加している好酸球性副鼻腔炎という病気では、手術後も再発してしまうケースも散見されるため、長く経過を見ていく必要があります。ただし、手術によって局所治療の効果が上がること、手術によって改善することが多いこと、などから好酸球性副鼻腔炎に対しても手術が行われることは多いです。いずれにせよ、手術後の治療も非常に重要であることが知られていて、手術後しばらくの間は鼻洗い(鼻うがい)なども含めてセルフケアや通院が必要になります

最後に

慢性副鼻腔炎は生活の質を損なう病気ですが、治療によって改善が期待できる病気です。ご心配な方はお近くの耳鼻咽喉科医院でご相談ください

※1 Mullol J, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2022 Jun;10(6):1434-1453.e9.

※2 副鼻腔炎診療の手引き 日本鼻科学会編 金原出版

※3 Alanin MC, Hopkins C. Curr Allergy Asthma Rep. 2020 May 27;20(7):27.

耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医

2005年大阪大学医学部医学科卒業。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学博士。市中病院勤務、大阪大学医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教を経て現在JCHO大阪病院院長補佐・耳鼻咽喉科部長。雑誌取材・メディア出演多数。臨床・研究の専門領域は鼻副鼻腔疾患・アレルギー疾患・経鼻内視鏡手術など。一般耳鼻咽喉科についても幅広く診療している。耳鼻咽喉科領域や診療に関わる医療情報全般の情報について広くTwitter(フォロワー4万人)などで発信している。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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