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新型コロナ デルタとオミクロンの組換え体「デルタクロン」について現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
(写真:REX/アフロ)

2022年後半に日本で主流となっていたデルタ株と、現在日本で広がっているオミクロン株との組換え体の変異株、通称「デルタクロン」が話題になっています。

現時点でデルタクロンについて分かっていることについてまとめました。

新型コロナウイルスの組換え体とは?

組換え体が出現するメカニズム(Cell. 184(20). 2021. pp. 5179-5188.e8.より筆者作成)
組換え体が出現するメカニズム(Cell. 184(20). 2021. pp. 5179-5188.e8.より筆者作成)

組換え体は、2種類以上の変異株に同時に感染することで、感染者の体内でそれらの遺伝子が混ざり合って発生するものです。

新型コロナウイルスはヒトだけでなく動物にも感染することがあるため、動物の体内で組み換えが起こることもあります。

新型コロナウイルスの組換えは珍しいことではなく、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、いくつかの組換え体が確認されています。

日本でも2021年10月にアルファ株とデルタ株との組換え体が見つかっています。

しかし、これまではこれらの組換え体が他の変異株よりも感染力が強く拡大したという事例はありませんでした。

これまでに見つかっているデルタクロンの特徴とは?

最初に見つかったデルタクロンのスパイク蛋白の変異プロファイル(doi: 10.46234/ccdcw2022.054より)
最初に見つかったデルタクロンのスパイク蛋白の変異プロファイル(doi: 10.46234/ccdcw2022.054より)

デルタ株とオミクロン株との組換え体、通称「デルタクロン」の出現については、これまでも様々な国や地域から報告が出ていましたが、正確なウイルスの遺伝子情報についてはフランスのパスツール研究所から2022年3月9日にGISAIDというウイルス情報プラットフォームに最初に公開されました。

フランスではこのXDと呼ばれるデルタクロンが2022年1月初旬からすでにいくつかの地域で検出されていたようです。

現時点でXDの感染者は、フランスで40例、デンマークで8例、ベルギーで1例、合計49例が報告されています。

このデルタクロンは、スパイク蛋白という感染力やワクチン効果に関係している部位の遺伝子領域に関してはオミクロン株(BA.1)によく似た特徴を持っており、それ以外の部分はデルタ株(AY.4)によく似た特徴を持っているようです。

スパイク蛋白に見つかった36個のアミノ酸変異のうち、オミクロンが持つ変異が27個、デルタ株が持つ変異が5個、オミクロン株とデルタ株に共通する変異は4個見つかっています。

イギリスでは別のデルタクロンや、BA.1とBA.2の組換え体も

組換え体XD、XE、XFの遺伝子配列の特徴(UKHSA publications gateway number GOV-11753より)
組換え体XD、XE、XFの遺伝子配列の特徴(UKHSA publications gateway number GOV-11753より)

イギリスからも、XDとは別のデルタ株とオミクロン株の組換え体「XF」が報告されています。

XFは2022年1月7日以降イギリス国内で38例が見つかっていますが、2月中旬以降は確認されておらず、現在拡大している状況ではなさそうです。

さらにイギリスではオミクロン株同士の組換え体も見つかっています。

オミクロン株は、日本でも第6波の主流であったBA.1と、より感染力が強いとされているBA.2などに分かれます。

このBA.1とBA.2の組換え体がイギリスから報告されています。

デルタ株とオミクロン株の組換え体が通称「デルタクロン(delta-cron)」なら、オミクロン株同士の組換え体は何と呼ばれるのでしょうか。「オミクロクロン(Omicro-cron)」とかいかがでしょうか。

とりあえずイギリスで見つかったこのBA.1とBA.2の組換え体はXEと呼ばれており、これまでにイギリス国内で合計637例が確認されています。

XD、XE、XFの感染力や重症度、ワクチンに対する効果は?

2022年以降に見つかっている組換え体の特徴(筆者作成)
2022年以降に見つかっている組換え体の特徴(筆者作成)

このように「デルタクロン」と呼ばれているデルタ株とオミクロン株の組換え体は複数見つかっており、オミクロン株同士の組換え体であるXEも見つかっています。

それでは、これらの変異株同士の組換え体の感染力、重症度、ワクチンに対する効果は、これまでの変異株と比べてどうなっているのでしょうか?

結論から言うと、まだこれらの組換え体の情報は限られており、感染力、重症度、ワクチンに対する効果などについては分かっていません。

少なくとも南アフリカからオミクロン株が見つかってからまたたく間に世界中に広がったような状況とは異なるようです。

引き続きこれらの組換え体、そして新たに出現する変異株の広がりをモニタリングしていくことが重要です。

私たち一人ひとりにできる感染対策は変わりません。

手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策をこれまで通りしっかりと続けることが重要です。

特にマスクを外した状態での会話が感染リスクとなりやすいことから、会食や職場の昼食時などは黙食・マスク会食を徹底するようにしましょう。

年度末や年度始まりにはイベントが多くなりますが、大人数が集まっての会食は避けましょう。

また、高齢者や基礎疾患のある方においては新型コロナワクチンのブースター接種で重症化予防効果を再び高めることが重要です。

ただし、ワクチンだけで感染を防ぎ切ることは困難であり、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策は続けるようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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