日本の難民認定はわずか74人 ウクライナ避難民は「貧困」に陥る恐れ
13日、出入在留管理庁は昨年の難民認定に関する数値を公表した。難民としての認定を求めるために申請を行ったのは2413人で、難民と政府が認定したのはわずか74人(一昨年は47人)であった(令和3年における難民認定者数等について)。
これは、先進国で圧倒的に低い水準であり、例えば、トランプ政権下のアメリカですら44,614人を2019年には受け入れている。残念ながら、日本は海外から難民の受け入れにあまりに消極的だと厳しい批判を受けているのが現実だ。
参考:所持金15000円 国から「野垂れ死ね」と言われる日本の難民
そうした中で急速に社会の注目を集めているのが、ウクライナからの難民の受け入れだ。今年に入り、ウクライナでの戦争によってすでに600万人がウクライナから国外に逃れている(ウクライナ難民600万人超 国連)。うち、先月17日時点で661人が日本で暮らしており、連日、ニュースではウクライナからの「避難民」の状況が報じられている(ウクライナから日本への避難民661人 ことばや就労の支援が課題)。
ウクライナ情勢を契機に「難民」の受け入れが進んでいるようにも見える。しかし、彼らは今後、どのような状況下で日本で生活することになるのだろうか。これまでの日本の難民政策の実態を踏まえてシビア論じているものはほとんどない。
そこで今回は、すでに日本で長年暮らす「難民」の状況に焦点をあてながら、あるべき「難民」支援のあり方について考えていきたい。
「難民」としての受け入れを拒否し続ける日本
いま日本政府はウクライナから避難した人に対して、「人道的な観点から幅広く柔軟に受け入れる」と述べて、積極的な受け入れをアピールしているが、その内実は非常に限定的だ。
そもそもウクライナから来日した人は「避難民」と呼ばれ、「難民」とは区別されている。この避難民という用語は法的な正式名称ですらなく、難民認定を受けて長期的に日本での滞在が可能となる人たちと区別するためにつくりだされている。
それもあって、具体的な「支援」もとても十分とは言えない。ウクライナ出身者に限らず、外国籍の人が日本に在留する場合には在留資格が必要となる。日本に避難するウクライナ出身者にはまず観光客と同じ「短期滞在」の在留資格が与えられ、その後、1年間働くことが許可される「特定活動」になる。
つまり、最初から期限付きでの滞在しか認められておらず、母国での生活が困難であることを理由に出身国以外で生活せざるを得ない「難民」としての受け入れからは程遠い。仮に、難民として認められれば、「定住」の在留資格が与えられ中長期的な日本での滞在に目処が立つものの、ウクライナ「避難民」はそうではない。
政府は戦争が続く限りこの在留資格の更新を認めるという方針のようだが、更新するかどうかの判断は国に委ねられるため、突然、在留資格の更新が認められずに帰国を余儀なくされる可能性は常に存在し続ける。
さらに、経済的な支援も限定的だ。国は5.2億円を支出したようで、個人的な支援は最大で一人1日あたり2400円(1ヶ月30日で72,000円)の支給が検討されている。しかし、これは生活保護の定める最低生活費を遥かに下回っており、「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることができない。
参考:ウクライナ避難者、1日最大2400円を支給へ 身寄りない人を対象
つまり、様々な報道とは裏腹に、ウクライナ「避難民」の日本での滞在は法的に安定したものとはいえないうえ、生活も「困窮者」の水準におかれることが予測される。
日本政府としては、ウクライナ避難民が「難民」には当たらない以上、上記の措置で問題ないと考えているようだ。確かに難民条約(1951年)は、難民を「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」と定義しており、戦争などの結果として移住を余儀なくされた人々の扱いには直接的に言及はしていない。
とはいえ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「国際的保護に関するガイドライン12」は、難民条約が「武力紛争および暴力の発生する状況を原因として移動を強いられた一般市民に直接適用される」としており、ウクライナ出身者を「難民ではない」と断定することには疑問も出ている。
これに対し海外では、ポーランドはすでに300万人以上を受け入れ、続いて、ルーマニア(90万人)、ロシア(79万人)、ハンガリー(58万人)などと、日本とは受け入れ数自体が桁違いだ。そのうえで、生活上の支援を行っている。ウクライナと国境を接する国々は難民に対して食糧や医療を提供し、EU圏内の他国への移動のサポートをしている。EUは最大で3年間の就労を認め、社会保障や住居、医療、教育へのアクセスを保障している。
参考:How many Ukrainians have fled their homes and where have they gone?
「難民」と認められないクルド人たち
ここまでは主にウクライナ出身の人々に対する「支援」について見てきた。しかし、日本にはすでに多くの「難民」が生活している。そのなかでも最近、埼玉県南部で暮らすクルド人の状況が取り上げられることが増えてきた。クルド難民のおかれた状況は、日本の難民の現実を象徴している。
世界に3000万人ほどのクルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれ、主にトルコやイラク、シリアなどで暮らしている。しかし例えばトルコでは同化政策の結果、クルド語の使用が制限されるなど差別されており、その環境を逃れるために海外で暮らすクルド人は少なくない。日本では、約2000人が主に埼玉県の川口市や蕨市などで暮らしている。
トルコ出身のクルド人は、アメリカやカナダではその8割以上が難民として認定されているものの、日本では過去に一人も難民認定を受けた者はいない。また上にみた1日2400円といった支援の内容は今回のウクライナ出身の人が対象となっているため、クルド人をはじめ、その他の「難民」は適用外となっている。
2019年にトルコ出身者(必ずしも全員がクルド人とは限らない)の難民認定数は、ドイツの5232人(認定率33.8%)や、カナダ2011人(認定率73.7%)、アメリカ1400人(認定率41.3%)となっている。日本の0人と比較するとその差は一目瞭然だ。
難民として認められないクルド人は日本に滞在するための在留資格を与えられない。そのため、茨城県牛久市などに出入国在留管理庁の収容施設に身柄を拘束されて迫害の恐れのある出身国への帰国を待つか、「仮放免」という形で一時的に収容を解かれて生活することになる。
この入管施設では人権侵害が頻発しており、入管職員による暴力事件や、収用による精神的苦痛がきっかけになった自死、また昨年にはスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが医療放置の末死亡するといった事件も起こっている。
生存権が保障されない難民申請者の実情
また、仮放免という形で、地域社会で暮らすことが認められても、就労することが認められておらず、生計を立てることはできない。さらに、住民登録もできず、国民健康保険に加入することも、その他の社会保障を利用することも禁止されている。
最後のセーフティーネットである生活保護は、原則、日本国籍保持者を対象としており、「永住」など一定の在留資格を持つ外国籍住民を除いて、いくら生活に困窮しても利用することはできない。つまり、働いて収入を得ることも、福祉制度を利用することもできないクルド人は、まさに生存権を剥奪された状態で、地域コミュニティの援助を受けながらなんとか生活することを強いられているのだ。
これは私が代表を務めるNPO法人POSSEが、他の支援団体と共同で2020年11月に行った相談会の記録からも明らかである。そもそも国や自治体は住民登録されていない仮放免状態の「難民」について、その存在を無視し続け、生活実態を把握しようとすらしていない。そのなかで国内のクルド人に対するはじめての本格的な調査として行われた本相談会には、約300人のクルド人が訪れた。
調査からは深刻な貧困状態に置かれているクルド人の実態が浮き彫りになった。相談時の平均所持金は一世帯あたりわずか15,000円であり、約3割の家庭が家賃を滞納していた。
4世帯に1世帯は十分な食事が取れていないと回答している。ある両親と子供2人の4人家族は、小学生の子供が喘息や心臓病など治療や手術が必要な病気を抱えているにも関わらず、保険証を持っていないため治療費を100万円以上を求められ途方に暮れていた。
また別の家族は、中学校に通う子供のためのジャージや制服代を賄うことができず、給食費の支払いも滞っていると訴えた。そして、ほとんど全ての世帯が生活保護の定める最低生活費以下の水準で生活していることが明らかになった。(詳しくはこちらの論文を参照していただきたい。岩本菜々「クルド難民の生存権獲得に向けて 相談会とその後の実践から見えた可能性」『Posse 47号』 )
この実態からもわかるように、日本にウクライナなどから庇護を求めて訪れる人々を受け入れる体制が整っているとは、とてもいえる状態ではない。
生存権を求める取り組み
それでは、今、私たちに求められていることは何だろうか。それは現実の難民対策の問題を無視したまま、ウクライナ避難民や国際社会に「アピール」を繰り返すことでは決してないはずだ。
まず必要なことは、きちんと実態を把握していくことだ。「仮放免」状態に置かれた外国籍住民は住民登録ができないがゆえに、その自治体で暮らしているにもかかわらず、その自治体の住民としてそもそもカウントすらされていない完全に無視された存在に追いやられている。具体的な生活の支援を行うためには、まずそれぞれの人が置かれて状況を明らかにすることが必要である。
これまでにPOSSEでは、川口市の公共施設や貸し会議室などで、地域のフードバンクと連携しながら食糧支援を行っている。開催するたびに食糧を受け取りに数十人が訪れるが、そのなかでいまの生活で困っていることなどのヒアリングを通じて、実態把握に務めているが、本来は国家がそうした措置を講じるべきだろう。
そして、実態を把握した上で、具体的な生活基盤を安定させるための措置が必要だ。健康保険に加入できていない、住民票がないため就学にかかる支援制度を活用できないなどといった現在排除されている様々な福祉制度を全ての人に適用させていかなければならない。2000人いるクルド人の生活を市民社会における民間の支援だけで安定させることは不可能だ。国が彼らの生存権を保障しなければいけない。
おわりに 市民レベルの難民支援
最後に、国にそのような対策を講じるよう求めるためにも、まず現場レベルでの問題提起や支援活動が重要となる。実際に、日本ではさまざまな市民団体の支援が先行し、国に制度の充実を現場から求めている。
法でも、中学生や高校生向けには就学支援という形で一緒に勉強を行う場も設けている。ここでは学校の宿題をやりながら、学校生活における困難を共有する場にもなっている。たとえば、中学校に進学する予定だが制服やジャージなどを購入することができないといった費用負担の相談や、あるいは給食費の減免手続きの方法がわからないといった制度利用に関する相談が寄せられることもある。
このような取り組みは、高校生や大学生のボランティアが中心となって行っている。食糧支援など現場で具体的な支援を行いながら、そこから見えてくる課題を構造的に把握して問題を発信したり、国や自治体に対して改善を求めていく活動に若いボランティア自身が取り組んでいる。
そもそも外国籍という理由だけで、働くことも社会保障を利用することも禁止されている状況は人間の生存権をも否定しており、異常である。現場の支援を行いながら、おかしいことに対して「おかしい」と当事者と一緒に訴えていくことで、社会のあり方を変えることにつながるだろう。
(なお、外国人支援に関しては、拙著『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)に詳しい)。
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