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東京家裁殺人事件、セキュリティチェックが危険を呼んだ? 裁判所はさらなる配慮を

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
東京家庭裁判所(写真:アフロ)

3月20日の午後、東京家庭裁判所の玄関で、離婚調停に訪れた妻が、夫に刺殺された(金属探知機ゲート前で待ち伏せか 容疑者の米国籍の夫 東京家裁・妻刺され死亡)。

痛ましい事件である。離婚などの家事事件は、「親密な感情」が行きかう場だ。愛情は時として殺意にまで至る。東京の家庭裁判所も、近年、入り口でのセキュリティチェックを導入した。「安全」のためなのだが、これがかえって危険である、という声があった。この事件を、「家庭裁判所の構造上、起こるべくして起こった」と思っている関係者も多い

この日夫は、離婚調停に来る予定ではなく、弁護士が出席する予定だった。夫は、ガソリンや刃物3本をもって、このセキュリティチェックの前で妻を待っていた。つまり、セキュリティチェックを設置したことで、調停に現れるひとがいつどこを通るかが、特定されることになったのだ

リンクの記事では、2017年6月の時点で東京家裁など4庁舎だけだった検査が、現在は13庁舎に拡大したと報じている。4月にはさらに5庁舎で導入される予定だそうだ。

このセキュリティチェックは、確かに裁判所の「内部」を安全にするかもしれない。しかし導入されることで、外部への接点が、今だかつてなく、危険になってきているのだ。

例えば来月に導入予定の横浜の家庭裁判所に詳しい弁護士は言う。

「横浜の家庭裁判所の図面では入口の3カ所ですが、実際には4か所あります。横浜は本館と別館2つあり、渡り廊下で結ばれている形です。本館に3つ、別館1つの入口があるのです。

これまでは、DV被害者が、加害者と出会わないように、使い分けて出入りして来ました。それをほかの入口を閉鎖して、本館1カ所にしてしまうと、導線が特定されてしまう。きわめて危険です。どの家庭裁判所も同じように、入口を1つにする予定なので、みんな危惧しています。

家庭裁判所は、「複数の入り口をもうけ、全てセキュリティチェックを行う」、「出口はさらに増やす」、などの対応をして欲しい。セキュリティを高めたことが、ぎゃくに事件を増やしてしまうとしたら、本末転倒と言わざるを得ない

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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