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しがらみなき解説者・玉乃淳の日本代表解説。「“遠藤スーパーサブ”でW杯へのひな形が見えた」

川端暁彦サッカーライター/編集者
Jスポーツでの解説でお馴染み・玉乃淳氏。オランダ戦の日本代表をどう観たのか?

日本代表、オランダとドロー

11月16日、真新しいユニフォームに身を包んだ日本代表がオレンジ軍団に挑んだ。香川真司、柿谷曜一朗、川島永嗣、そして遠藤保仁をベンチに置く予想外の布陣を組んだ日本は立ち上がりから厳しい守備でオランダに対抗。だが一瞬のスキとミスをワールドクラスのタレントに付け込まれて2失点。またも暗鬱なムードが漂いかけたが、大迫勇也の素晴らしいゴールがその流れを断った。

そして迎えたハーフタイム。奇策にも思えた二人のベンチメンバー、遠藤と香川をピッチに送り込んだ日本は躍動を開始する。後半15分には遠藤のサイドチェンジを起点として流れるような攻撃で、本田圭佑が同点ゴールを奪い取った。

結局、試合は日本サッカー史に刻まれるような美しいゴールの記憶を残して閉幕となったが、この試合のポイントは何だったのか。来年のW杯へ向けてつかんだものについて、サッカー解説者の玉乃淳氏に語ってもらった。

「日本の目指す先が“スペイン”でないことを確信した」

――まず、日本代表の先発に驚きました。

「ザックはブレたんじゃないか。そんな批判を受けかねない変更だったと思います。リスクをとった采配です。相当の覚悟がないとできないですよ、遠藤を外すのは。ぽんぽんと気楽に外せるような選手じゃありません。ただ、最近の代表戦で遠藤のパフォーマンスが落ちていたのも事実なんです。一部のメディアでは神格化するような向きもありますが、彼も人間。特に守備の部分でつぶせなくなっていましたし、遠藤を使うことで周りの守備負担も大きくなってしまっていた。遠藤が日本のウィークポイントになっていたというのは一面の事実だと思います」

――遠藤を外した理由は守備?

「まさにそう。まず強豪国を相手に守備から入ろう。その意識だったと思います。まず守備をきっちりできる選手を並べて、前から圧力をかけにいく。後半は遠藤、香川を入れて攻撃に傾斜し、勝負をかける。そういうゲームプランが明確でしたよね。そもそも、ずっとボールを支配して勝ち切ろうなんて考えは、甘い。そんなのはスペインだけだし、日本はスペインじゃない。強豪国でも、守備の時間と攻撃の時間というのは、ある程度意図的に作るものなんです。大雑把に言えば、前半と後半を使い分けるということ。ザックはこの点に関してもしかして無策なんじゃないかと心配していましたが、違うということが分かってホッとしています(笑)」

――遠藤投入は効きましたね。

「ハッキリとリズムが変わりましたよね。遠藤がいると、よくも悪くも“遠藤のリズム”が維持されてしまいますし、彼自身も90分のペース配分を考えるから抑えめにプレーする部分がある。それが後半から投入された今回は、最初から全開でした。やはり彼は凄いタレントですよ。おかげで明確に“スイッチ”が入りましたよね。見えたのは、“スーパーサブ遠藤”。これは大きな収穫ですよ。この後半のサッカーを前半からやると後半は落ちる一方だし、スイッチを切り替えることもできない。そういう試合はこれまでの日本代表でも多かったですよね。試合の中でどうやって緩急を作るかという問題は大きかったですが、それが見えた試合だったと思います」

――W杯での戦い方に通じる。

「そのひな形が見えた試合だったと思います。すごく、ポジティブ。これをもう一回、次のベルギー戦でもテストしたいですね。もう少し守備のミスを減らして前半の失点を抑えられていたら、オランダを食えたんじゃないか。そんなW杯に向けたイメージの膨らむ試合だったと思います」

――山口も良かったです。

「まさに『Jリーグ最高!!』と言いたいですね。大迫もそうですが、Jリーグでやっている選手たちがこれだけやれるということは、選択の幅はもっとあるんだということでもあります。そういう刺激を広く与えたという意味でも価値あるゲームだったと思います。『俺にもチャンスがあるんじゃない?』と、かなりの選手が思ったんじゃないかな。遠藤に限らず、起用法に固定観念を持ち込む必要はないんです。本当に楽しい試合でしたよね? 本田のゴールなんて最高だったじゃないですか。何人もの選手が絡んできて……。あれをできるんですよ、日本は。できるだけの選手がいる。必要なのはメリハリなんです。90分間、同じ“自分たちのサッカー”をやる必要なんてないですし、そもそもできないんです。この試合は前後半で違うサッカーになった。それは前半がダメで後半が良かったなんて単純な話じゃないんですよ。あの前半があったから、あの後半になったんです。W杯に向けてサッカーファンがあらためて期待感を持ち直せる、そういう試合になりましたね。いやあ、楽しかった!」

玉乃 淳(たまの・じゅん)

1984年6月19日生まれ。東京都出身。国際大会での活躍が認められてアトレティコ・マドリー(スペイン)のユースチームに15歳で移籍。帰国後は東京ヴェルディなどでプレーしたが、早々に現役を退いて25歳にしてTV解説者としてデビューした。日本サッカー界の「しがらみ」と無縁であるがゆえの突っ込んだ解説、そしてサッカーへの愛と情熱に定評がある。Twitter@JUNTAMANO1

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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