ニュースメディアは国家社会を機能させるのに重要か否か、西欧諸国の意見をさぐる
社会の日々の移り変わりや国内外のさまざまな動向を知るのに欠かせないニュース。その情報源となるニュースメディアを、国家社会の機能に必要なものだと西欧諸国の人達は考えているのだろうか。アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2018年5月に発表した調査「In Western Europe, Public Attitudes Toward News Media More Divided by Populist Views Than Left-Right Ideology」(※)の報告書の内容から確認する。
次に示すのはニュースメディアが国家社会を(正常に)機能させる上でどれほどの意義を持つかについて「大変重要」「やや重要」「あまり重要でない」「まったく重要でない」の4選択肢を提示し、回答者の意見にもっとも近いものを選んでもらい、そのうち肯定派にあたる「大変重要」「やや重要」を示したもの。なおニュースメディアに関する定義は特に行われていない。
スウェーデン、ドイツ、スペインでは「大変重要」の回答率が高く、いずれも過半数となっており、肯定派としての値を底上げする形となっている。オランダは「大変重要」の値がやや低いものの、その分「やや重要」の値が高く、肯定派の値をスペインと同等としているのが興味深い。他方、イタリアやフランスは「大変重要」の値が低く、「やや重要」が多いものの、肯定派としての値は7割台に留まっている。
一方で肯定派は最大で19%もの差があるものの、どの国でもニュースメディアに対する重要性を認識していることに違いは無い。
このニュースメディアにおける国家社会の機能安定化の役割に関して、ポピュリスト(※※)か否かで「大変重要」の値を区切った結果が次のグラフ。
差異はあるがどの国でも一様に、ポピュリストの方が非ポピュリストと比べて低い値に留まっている。これはそもそもポピュリストの定義として現在の国家社会に問題がある、否定すべきであるとの認識が多少なりとも存在しており、そのような状況になった一因としてニュースメディアが期待している機能を果たしていないとの結論に至る人がいるからだと考えられる。
スペインは両派の差異がもっとも少なく7%ポイントしか無いが、それ以外の国では10%ポイント以上もの差異が生じている。特にフランスでは元々「大変重要」の値が低いのに加え、両派の差異が20%ポイントも生じており、大きなギャップとなっている(%ポイントの差異だけならドイツやスウェーデンはそれ以上、オランダは同等の値を計上しているのだが)。
フランスではポピュリストに属する人は2割強しか「ニュースメディアは国家社会を機能させるのに大変重要である」と考えていないなど、それぞれの国の現状を思い返すに、色々と思い当たるところがありそうな結果には違いない。
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※In Western Europe, Public Attitudes Toward News Media More Divided by Populist Views Than Left-Right Ideology
2017年10月から12月にかけて西欧諸国(デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリス)を対象にしたもので、有効回答数は各国2000人強。RDD方式によって選ばれた18歳以上の自国居住者を対象に電話(固定電話と携帯電話双方)によるインタビュー形式で実施されている。結果の値にはそれぞれの国の国勢調査の結果を用いたウェイトバックが行われている。
※※ポピュリスト
現状における国家社会・社会体制を否定し、打破を掲げる政治思想(ポピュリズム。大衆主義、大衆迎合主義とも表現される)を持つ人のことを指す。その行動の際に一般市民の権利や利益、思惑を提示したり、不安などを悪用して扇動する方法が用いられる。
今調査では2つの設問「国全体の問題を解決する場合、一般の人は選挙で選ばれた人よりもよい成果を出すか否か」「選挙で選ばれた公務員は回答者自身のような一般の人の考えを気にするか否か」への回答を基に、回答者自身がポピュリストか非ポピュリストかを属性付けている。「一般の人の方がよい成果を出す」「公務員は一般の人の考えを気にしない」との回答ならポピュリストの属性に区分され、「選挙で選ばれた人の方がよい成果を出す」「公務員は一般の人の考えを気にする」ならば非ポピュリスト、いずれか・双方の設問で回答をしなかった人などは中庸的立場と区分される。
昨今のヨーロッパ諸国ではこの考えが浸透しつつあるとの指摘もあり、今回の調査では精査対象項目として取り入れられたと思われる。
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