サブコンのTSMCこそ世界一の半導体メーカー
先日、米市場調査会社のGartnerから世界半導体企業ランキングが発表された。1位はSamsung、2位はIntel、3位SK Hynix、4位Qualcomm、5位Micron、6位Broadcom、7位AMD、8位TI(Texas Instruments)、9位MediaTek、10位Appleという順番だった(表1)。
これを見て、あれ、と気が付かれた人も多いと思う。今をときめく台湾のTSMCが入っていないのだ。実はGartnerは、半導体製品を作っているメーカーを集計している。半導体メーカーにはSamsungやSK Hynixのようなメモリを作るIDM(設計も製造も手掛ける垂直統合のメーカー)と、QualcommやBroadcomのようなファブレス半導体とがある。いずれも自社ブランドの製品を販売している。しかしTSMCは製造だけを請け負う業者であり、いわゆるサブコントラクタ(通称サブコン)である。このため自社ブランドの半導体製品は持っていない。
これに対して、TSMCに製造を発注しているファブレス半導体の企業は、自社ブランドでビジネスを行っている。ファブレス半導体企業のP/Lでは、TSMCへの製造依頼はコストとして算出される。しかしTSMCにとっては製造サービスの売り上げである。そして、Gartnerが調査しているのはあくまでも半導体製品の市場規模である。このため自社ブランドの半導体製品を持つ企業を集め、その合計額が半導体販売額あるいは半導体市場となる。もし、TSMCの売り上げを半導体メーカーの売り上げに加えると、市場規模を二重に数えることになってしまい、正確な市場規模を求められなくなる。そこで統計上はTSMCを半導体メーカーに加えないのである。Samsungの数字もファウンドリ事業を除いている。
TSMCは今や10兆円企業
ではTSMCの売り上げ規模はどのくらいか。2022年第4四半期における同社の決算報告では、2022年の売上額も算出している。それを見ると、TSMCの2022年の売上額は758.8億ドル(1ドル=130円で計算すると9兆8644億円) になる。もはや10兆円企業となっている。つまり、ブランドを持たないサブコンメーカーが10兆円企業なのだ。
ブランドを持つ半導体企業のトップSamsungの売上額が655.9億ドルであり、TSMCの売上額はそれよりも100億ドル以上も多い。半導体産業ではサブコントラクトメーカーがブランドメーカーよりも多く稼いでいる。
もちろん、TSMCは世界一の半導体メーカーであり、台湾の学生が最も入りたい企業のトップメーカーでもある。このため毎年優秀な学生がTSMCにどんどん集まってくる。日本人の優秀な学生もかなり台湾のTSMCで働いているそうだ。TSMCはますます強くなる。
もともと台湾企業は昔から、名よりも実を取る企業が多い。かつてはHewlett-PackardやDell、Compaq、IBMなど米国のパソコンメーカーのサブコントラクタであったエイサーなどのサブコンメーカーも名を捨て、実を取って成長した。エイサーは成長した後に自社ブランドのパソコンを設計・製造・販売するようになった。AppleのパソコンやiPhoneを製造している鴻海精密工業もサブコンである。その鴻海もTSMC同様、2022年の売上額は6兆6219億元(2185億ドル)と28兆円を超す巨大な企業となっている。
名を捨て、実を取る、台湾の企業文化は日本にはなじめなかった。サブコン=下請け、という図式から長い間、日本企業は抜け出せず、名をとることに一生懸命だった。しかし日本企業は結局成長できなかった。今やブランド力も失われている。ソニーやパナソニック、東芝、日立といったブランドは世界ではもはや小さくなった。