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ポスト・シェール革命に備えるOPEC ~バドリ事務局長の講演より~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

石油輸出国機構(OPEC)のバドリ事務局長は10月21日、オマーンで開催された「Oman Energy Forum 2013」で講演を行った。OPECが現在、そして将来の原油需給、原油相場をどのように考えているのか参考になる内容となっているため、講演内容の概要を紹介した上で、その意味を解説したい。

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2013年の原油市場は、数々の不確実性の挑戦を受け続けた。世界経済の先行き(不透明感)、地政学的なイベント、それらが潜在的あるいは実際に原油相場に及ぼした影響、特に北アフリカと中東の供給問題である。

ただそれにもかかわらず、原油市場では何ら供給不足は発生しなかった。需要に見合った規模の供給が行われており、現在の市場ファンダメンタルズはバランスが取れているように思われる。ただ、依然として多くの懸念事項が存在しており、2013年末、更には来年にかけては引き続き警戒が必要である。特に短期スパン、中期スパンでは、景気動向がこれまで同様に重大な懸念事項になっている。

2013年の原油市場は多くのトラブルに見舞われ、特に7月以降のエジプト内乱、シリアの化学兵器使用問題、リビアの供給トラブルは、原油価格の急騰を招いた。リビアのデモによる減産は一時的に欧州地区を中心とした需給逼迫を招いたが、世界全体としては深刻な供給不足は発生しておらず、原油需給バランスは総じて安定が保たれた状態にあるとの認識が示されている。

ただOPECとしては、短期・中期で需給バランスの歪みをもたらすリスクとして、世界経済の動向に注目していることが窺える。消費国サイドとしては再び地政学的リスクに起因した供給リスク・トラブルの再発が警戒される所だが、産油国カルテルであるOPECにとっては景気減速による石油需要(見通し)の下振れリスクが最大の関心事であると言えるだろう。

原油取引は、現実の供給不足よりも供給懸念に反応し易い状況が続いている。ただ今年に関しては、100~110ドルのレンジが続くと見ている。このレンジは、産油国と消費国の双方にとって受け入れ可能であり、OPECは原油価格の急騰も急落も望んでいない。

バドリ事務局長は、従来100ドル水準を産油国と消費国の双方が受け入れることのできる価格との見方を示していたが、ここで100~110ドルとやや強気スタンスに傾いたことが確認できる。年央からの原油価格高騰を追認したものであり、現在の価格水準が一時的な高値ではなく、中長期にわたって維持することが可能なレベルと評価していることが窺える。従来との比較では、減産・増産対応が行われる価格水準が切り上がることになる。

一方、供給「不足」ではなく、供給「懸念」に原油価格が反応し易い状況になっているとの指摘は、価格コントロールが困難になっていることを意味する。現実の供給「不足」であれば増産対応が可能であるが、供給「懸念」の払拭は困難であり、現在のような相場環境が続くと突発的な急騰リスクに対しても注意が必要と考えている。

供給サイドでは、中東、北アフリカ、北海油田で供給トラブルが発生した。ただ、市場に対するインパクトは限定されており、総じて需要に見合った供給量を確保できている。また、非OPECの産油量は増加が続いており、2013年は日量110万バレル、14年は120万バレルの増産が見込まれている。非OPECの増産は米国のタイトオイル増産によるものである。我々は、原油供給の安定化をもたらすと同時に、供給不足のリスクを軽減する動きとして、こうしたタイトオイル増産を歓迎している。今日では、「ピークオイル」の議論は聞かれなくなっている。

ただ、長期的にはこうしたタイトオイル供給がどの程度の安定性を有しているのかを見極める必要がある。例えば、タイトオイルの油井は開発初年度から深度が増しており、生産を維持するだけでもより深く、深く、深く掘らなければならなくなっている。

OPECの産油量は日量3,000万バレルを僅かに上回る水準にあるが、これで需要に対応することは可能である。また、増産余力も適正レベルにあり、予見できる将来にわたって適正水準が続く見通しである。

在庫に関しては、十分な数値が確保されている。経済協力開発機構(OECD)の石油在庫は、総じて健全であり、非OECDでも民間・戦略備蓄の積み増しが進んでいる。需要日数では58.6日分の在庫があるが、これは5年平均を上回っている。

OPECの産油量は日量3,000万バレル水準で横ばい状態が続くも、米国のタイトオイルを筆頭とした非OPECの増産によって、拡大する需要への対応は可能であり、需給バランスは総じて均衡状態を保てる見通し。

問題はタイトオイルの評価だが、基本的には原油供給環境の安定化をもたらす動きとして歓迎の意向が示されているのはこれまで通りである。ただ、タイトオイル供給の安定性には依然として疑問を出だしていることも確認でき、今回はシェールオイルなどの油井の深度が早くも高まっていることに警告のシグナルが発せられている。

現在の産油量を維持するためだけでも、更に深度を上げる必要性が浮上する中、技術的・コスト的な対応がどの程度の原油価格水準を要請するのかも注目される所になるだろう。

2018年以降に米国の産油量が減少する中、OPECは日量3,700万バレルの生産を行われなければならない。OPECが投資を継続しなければ、原油価格は150ドルを超えることになるだろう。

OPECでは、シェール革命による増産は今後5年程度の動きと想定されている。そのため、現在の日量3,000万バレル水準の産油量を改めて引き上げる必要性が高まることになるが、そのための投資の必要性を訴えたものである。

現時点での投資水準は適正とされている。ただ、仮に十分な投資が継続されない場合には、シェール増産が鈍化した後に供給不足が発生し、原油価格は150ドルを超える可能性があるとの警告である。これ以上の踏み込んだ発言は行われていないが、これが意味することは将来の原油価格高騰を回避するための投資が可能な原油価格水準を容認することが必要ということである。「産油国と消費国の双方にとって受け入れ可能」な価格水準として「100~110ドル」という具体的な数値が示されていることは、OPECが継続的な投資を継続するのにこの程度の価格水準は必要と考えていることを意味している。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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