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DeNAから単独指名を受けた東克樹が垣間見せたアスリートとしての確固たる自我

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
DeNAから単独指名を受けた立命館大の東克樹投手

 第1巡選択指名選手が読み上げらると、大方の予想通り次々に清宮幸太郎選手の名前がアナウンスされていく。そんな中12球団中8番目だったDeNAの順番が巡ってきた。

 「東克樹 投手 立命館大学」

 その瞬間、立命館大に用意さていた会見場の側で待機していた野球部員たちから大きなどよめきが起こった。結局東投手は重複指名することなく、DeNAが単独指名に成功し交渉権を獲得することになった。それまで硬い表情のまま会見場でTV中継を見守っていた東投手の顔がようやく緩み始めた。

 東投手の存在を初めて知ったのは今年8月のことだった。立命館大体育会本部が主催し、同大アスリート1150人が自主参加で集まり、琵琶湖畔に異常繁殖した外来種植物の駆除活動を行ったことを本欄で報告したことがある。この取材で現場を訪れた際、知り合いの准教授から大学日本代表にも選出されている東投手が活動に参加していることを教えてもらった。

 当時は東投手がドラフト指名候補になっていることも理解していなかったのだが、日本代表クラスの選手がそうした社会貢献活動に参加するのかとすっかり感心させられていた。それを機に彼に興味を抱き、情報を集めるようになっていった。そんな矢先に立命館大広報からドラフト会見のお誘いを頂き、喜んで参加させてもらった。

 DeNAの指名が確定し本格的な記者会見が始まると、東投手の芯の強さが随所に垣間見られた。メディアから矢継ぎ早に続く質問にしたいしてもよどみなくしっかり明確な答えを返す姿はしっかり自分の意志、意見を持っている証拠だった。それは自分が想像していた通り、投手、野球選手、そしてアスリートとしての確固たる自我を形成しているからだと感じ取ることができた。

 「(DeNAからの指名は)まったく予想していませんでした。今左投手が多いDeNAで選んで頂いたことは自分にとって凄く光栄なことだと思います。選手は若いと思いますし、その中で自分がもまれる環境としては左投手も多いですし、最高の環境で野球がやれるんじゃないかと思います。

 自分は物事をはっきり言う方なので、自分に合わないと思えばそれをしっかり伝えて自分に合っているフォームでしっかり続けていかないと…。(コーチの)言うことばかりを聞いていたら自分が潰されてしまうしまう可能性があるので。やはり自分は選手として長く野球をやりたいと思っているので、そこはちゃんとコーチとの話が大事かなと思います。

 高校時代はスポーツクラスでそのクラス内の友だちだけというか、回りとの関わりが少なかったんですけど、大学はそういうのが関係なくて、野球部以外の友だちがすごく多くできたので、そういう人たちが(自分の)最後の試合に観に来てくれました。そういう友だちが多くできたことが自分にとって良かったというか、そういう人たちも(自分を)見ていてくれるんだなというのを感じることができました。心自体も大人になったと思うので、しっかり物事を考えながら野球をやっていきたいと思います」

 あくまで会見で東投手が答えたほんの一部を抜粋させてもらったが、彼が自分でしっかり考え、意見を言える人物だというのを理解してもらえるだろう。これまで米国の地で野球選手を中心に多くの日本人アスリートたちと接する機会を得た。日本とはまったく違う環境で新たな挑戦をする彼らのすべてが成功を収めたわけではないが、成功したアスリートに共通していたのが年齢、性別に関係なく確固たる自我を確立していたことだ。逆に年上のこりらの方が彼らから教えてもらうことが多かった。

 例えば野茂英雄投手は、プロ入りする前から彼の独特なフォームに手を加えられることを拒否する姿勢を示していたし、MLB挑戦する際もメディアからのバッシングを受けながらもしっかり自分の主張を貫き通した。またダルビッシュ有投手もプロ野球の常識を覆し投手ながら積極的にウェートトレーニングを取り入れ強靱な肉体を作り上げ、確実に自分の投球を新たなレベルに引き上げている。こうした例は枚挙にいとまがない。

 東投手も大学4年間、ずっと1人で考え続けてきた。野球選手としては決して恵まれない170センチの体格で、しかも常時トレーナーがいない厳しい環境の中で、自分と向き合いながら投手として成長を目指してきた。その一方で野球という殻に閉じこもることなく、他の世界の人たちとの交流を広げ1人の人間として視野も広げている。そうした環境の中で出来上がったのが現在の東克樹投手なのだ。

 プロ野球は即戦力として期待された選手がすべて期待通りに活躍できる世界ではない。だが東投手のような確固たる自我を持つアスリートは、逆境や壁に遭遇した時こそ見事な突破力を発揮するものだ。プロの世界に入ってから東投手がどのように羽ばたいていくのか。プロ野球に新しい興味が増えた思いだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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