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ホロコースト生存者「当時の親友を探し続けている」証言がきっかけで82年ぶりにZoomで再会

佐藤仁学術研究員・著述家
Zoomで再会しお喋りを楽しむ2人(USCショア財団提供)

ホロコースト生存者の証言がきっかけで82年ぶりに再会

 第二次世界大戦時にナチスが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。ユダヤ人という理由で差別され迫害されて1939年にドイツのベルリンを追われた2人のユダヤ人の老女が82年の時を経て、Zoomで再開することができた。1人はアンナ・マリア・ワーレンベルグ氏で、一家は南米のチリに逃げることができた。もう1人はベッティ・グレベンシコフ氏で上海経由でアメリカに移住することができた。当時、ドイツに住んでいたユダヤ人は50万人程度で全人口の1パーセントにも満たなかったが、国外に脱出できたユダヤ人は幸福で、多くのユダヤ人が収容所などで殺害された。2人ともお互いがホロコーストでナチスによって殺されてしまっただろうと9歳で分かれてから82年間思っていた。

 南カリフォルニア大学(USC)にあるショア財団ではホロコースト生存者の証言を収集している。ベッティ・グレベンシコフ氏が「ベルリンに住んでいた時の仲良しだった友人を探し続けています」と証言の中で語っていた。彼女が長年の友人を探し続けていることを南カリフォルニア大学のショア財団のクリエィティブ・プロデューサーのラハエル・セロッティ氏がイスラエルのメディアでも語っていた。またアンナ・マリア・ワーレンベルグ氏がコロナの影響でオンラインで開催された「バーチャル・クリスタルナハト(水晶の夜)追悼イベント」で講演をした時に、ベッティ・グレベンシコフ氏の証言で「長年探している友人がいる」という発言を、アーキビストのイタ・ゴールドン氏が覚えていて、2人を引き合わせて82年ぶりにZoomで対談することが実現した。2人はZoomでの再会だが、今では毎週日曜日にはZoomでお喋りを楽しんでいるそうだ。アンナ・マリア・ワーレンベルグ氏は「パンデミックが収まったら、いつか世界のどこかで会いたい」と語っている。2人とも91歳だが、とても元気な様子だ。

進む記憶のデジタル化

 現在でも欧米やイスラエルなどではホロコーストの悲劇を繰り返さないため、またホロコースト教育を行うためにホロコースト博物館が多く設置されている。南カリフォルニア大学(USC)にあるショア財団は、ホロコーストを題材にした映画『シンドラーのリスト』の映画監督でユダヤ人のスティーブン・スピルバーグが寄付して1994年に創設された。ショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも55,000本以上の証言を集めて来たが、今後あと10年が勝負である。欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人は民族憎悪やヘイトスピーチの対象にされやすい。「ホロコーストなどなかった」といったホロコースト否定論も多い。ホロコーストを二度と繰り返さないことと、正しいホロコースト歴史教育のために世界中のホロコースト生存者の証言を集めて来た。そして、今回はホロコーストの記憶の証言の中で「当時の友人を探し続けている」という発言があったことがきっかけで、ホロコーストで離散してしまった友人たちが82年ぶりに再会できた。

 また南カリフォルニア大学ショア財団ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組みを「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みでホロコースト教育に活用されている。

Zoomに慣れているホロコースト生存者

 ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っていた。だが高齢化が進み、博物館や学校などに行くのが困難になってきていた。新型コロナウィルス感染拡大によって欧米ではロックダウンが進み自宅から外に出られなくなると、ホロコースト生存者らはZoomを通じて学校の授業で学生や、一般の方々に向けた講演会で話をするようになった。そのため、ホロコースト生存者の多くは高齢でありながらも、家族らに教えてもらいながらZoomの操作には非常に明るい人も多い。彼らは新型コロナウィルス感染拡大前には学校や博物館に行くのは高齢で肉体的にも大変になっていたが、自宅からZoomで当時の体験談を語れるということで、元気に家で座りながら当時の経験を世界中に伝えている。また新型コロナウィルス感染拡大前であれば、その博物館や学校に行かないと聞けなかったホロコースト生存者の貴重な体験談を世界中のどこにいても聞くことができるようになったのは世界中の歴史学などの研究者にとってもプラスでもある。

ベッティ・グレベンシコフ氏(左)アンナ・マリア・ワーレンベルグ氏(右)(USCショア財団提供)
ベッティ・グレベンシコフ氏(左)アンナ・マリア・ワーレンベルグ氏(右)(USCショア財団提供)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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