WBC報道に見る日米メディア格差
第4回WBCが幕を閉じた。
すべての大会で現場取材を続けてきた経験から、今回ほど盛り上がった大会はなかったように思う。1次ラウンドからどの会場でも選手の気迫溢れるプレーが随所に披露され、球場に足を運んだファンも熱狂に包まれていた。
「(昨年戦った)ワールドシリーズに近い雰囲気だ」というプエルトリコ代表のハビアー・バエス選手の証言からも明らかなように、球場内は公式戦どころかプレーオフの雰囲気を醸し出していた。“オープン戦の延長”と酷評されたこともある第1回大会からは隔世の感がある。
そして米国が、決勝まで全勝で勝ち上がったプエルトリコを圧倒し、初のWBC王者に輝いた。決戦の地となったドジャー・スタジアムもほぼ満員のファンで埋め尽くされ、「USA」コールが響き渡る盛り上がりをみせた。だからといって米国メディアが日本のように、「米国が世界一に輝いた」と賞賛しているわけではない。
“American Beauty: USA dominates PR in final”(MLB公式サイト)
“USA dominates Puerto Rico, captures World Baseball Classic with 8-0 victory”(USAトゥデー紙)
“Stroman dominates, USA wins first WBC title”(ESPN公式サイト)
“United States Beats Puerto Rico for First World Baseball Classic Title”(ニューヨーク・タイムズ紙)
“U.S. routs Puerto Rico, 8-0, to win World Baseball Classic”(ロサンゼルス・タイムズ紙)
“Marcus Stroman, Ian Kinsler lead USA to first WBC championship in win over Puerto Rico”(ワシントン・ポスト紙)
如何だろう?各主要メディアのタイトルを見ても、「WBC王者」や「WBC王座」という表現はあっても「世界一」という表現は一つも存在しない。それぞれの記事を斜め読みしても、記事中にホスマー選手の「我々は野球界のトップに戻りたかった。それを達成した」というコメントを引用しているものの、記者自らが「世界一」という表現を使っている記事はなかった。
今やWBCが、MLB主要選手が参加する世界最高レベルの国別対抗戦であることは疑う余地のない事実だ。だがその一方で、開催時期、代表チームの参加資格、投手の球数制限等々、今尚真の国際大会として多くの問題を抱えていることも紛れもない事実だ。日米のメディア格差にも現れているように、どうしても「WBC王者=世界一」という論法に釈然としないものを感じている自分がいる。
ロブ・マンフレッド=コミッショナーが明言したように、当面の間はWBCは存続することが決まった。今大会の成功で、4年後はさらに盛り上がる大会になるだろう。もちろん個人的にも侍ジャパンが再びWBC王座に返り咲くことを期待して止まない。それでも現在のようにメディアが金科玉条のごとく「世界一奪還」と盛り立てることが、むしろ選手たちに余計なプレッシャーを与えることにならないか、気がかりにもなっている。
日本のトップ選手たちが、国別に分かれたMLBのスター選手たち相手にどのような戦いを繰り広げるかだけでも、十分にワクワクさせられる。コンディションは不十分、なおかつ観光気分で来日する選手たちと対戦した、かつての日米野球とは比較にならないほど“本気モード”のプレーを目撃することができるのだから。
何度も繰り返すが、現在のWBCは「世界一」に固執しなくても、野球ファンを十分に楽しませてくれる大会になったように思う。日本でももっと広い視野からWBCを捉えてもいいのではないだろうか。