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仮面ライダーと戦った“悪の女”から飛躍した女優たち

斉藤貴志芸能ライター/編集者
アギレラ役の浅倉唯(C)2021 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

『仮面ライダーリバイス』で“悪の女王”アギレラを演じる浅倉唯が人気を呼んでいる。初ドラマながら美しく奔放なキャラクターで注目され、雑誌の表紙グラビアにも引っ張りダコだ。特撮からブレイクの例は多いが、仮面ライダーシリーズの女性の悪役からは意外な女優も輩出している。

“アギレラ様”こと浅倉唯がグラビアでも大人気

 浅倉唯が演じているアギレラは、悪魔崇拝組織・デッドマンズの女王。中南米で発掘された棺に封印された悪魔の始祖・ギフの復活を目論み、生贄となる人間を探させていた。幼い頃から天外孤独で、ギフの花嫁になることを夢見ている。しかし、右腕のオルテカからアギレラ自身が生贄と告げられて決別。デッドマンズは分裂して……という展開になっている。

 青森出身で25歳の浅倉は、大学時代に別の名前でアイドルグループで3年活動。その後、オーディションでアギレラ役に選ばれ、女優デビューした。アギレラはいかにもな悪役でなく、奔放で「ぴえん」と言ったりもするノリだが、赤い衣装が似合うルックスは“美しき悪の女王”との設定を全うして目を引く。『リバイス』が放送される日曜には“#アギレラ様”が毎回のようにトレンド入りしている。

 一方、『週刊プレイボーイ』、『ヤングジャンプ』、『少年サンデー』などで相次ぎ表紙グラビアを飾り、大きな反響を呼んだ。昨年9月から半年足らずでデジタル写真集を6冊出し、初の写真集も発売予定。『リバイス』後半でのアギレラの動向と相まって、浅倉の人気はさらに過熱しそうだ。

高畑淳子が火を吐きムチをふるって

 仮面ライダーシリーズの悪役から世に出た女優として語り草になっているのが、『仮面ライダーBLACK RX』(1988年10月~)で敵幹部の1人、マリバロンを演じた高畑淳子だ。

 青年座で舞台女優として活動していた高畑が『RX』に出演したのは34歳のとき。1985年に特撮の『巨獣特捜ジャスピオン』に出演歴があるが、連続ドラマのレギュラーは初めてだった。

 マリバロンは、異次元世界から日本に侵攻するクライシス帝国の四大隊長の紅一点。諜報参謀として魔力を操る怪魔妖族を率い、自身は約百種類の妖術を身に付けていた。光線状のムチを使い、手や口から火炎攻撃も繰り出す。目の周りが赤や緑で塗られ、スリットの下は太もも露わなハイレグというコスチュームだった。

 昨年、RX=南光太郎役の倉田てつをのYouTubeチャンネルに出演した際、当時『はぐれ刑事純情派』とメイクルームが同じで、「友だちの俳優が普通の人間の役でいらして、私はすごい色を塗っているなと……」と話していた。

 思い出として「倉田くんのお腹を踏みつけてギューッとやった」ことを挙げ、両手をクロスさせて睨みをきかせ「おのれ南光太郎!」と、決め台詞を33年ぶりに披露。最近でも、『人生最高レストラン』に出演したときにマリバロン役に触れ、「口から火を吹くような悪役」「石炭採掘場でクレーンに吊るされて」などと語った。

 その後の高畑は『3年B組金八先生』の養護教諭役、『白い巨塔』の東教授(石坂浩二)の妻役などで頭角を現し、数々の作品に脇を固めるポジションで出演。2014年には紫綬褒章を受賞した。今秋スタートのNHK朝ドラ『舞い上がれ!』では、福原遥が演じるヒロインの祖母を演じる。

芦名星は妖怪を育てて光線や鉄扇で戦う

 平成仮面ライダーシリーズでは、5作目の『仮面ライダー響鬼』(2005年1月~)に芦名星が出演していた。鬼と呼ばれる戦士が魔化魍(まかもう)という妖怪と戦うストーリーで、それぞれの魔化魍に童子と姫と呼ばれる男女が付いて育てている。芦名は毎回の姫を演じた。2002年にモデルデビューし、連続ドラマは2本目。初の本格的なレギュラーだった。

 32話からは、すべての魔化魍を育てるスーパー姫に。烏帽子ふうのかぶりものなど戦装束をまとい、手のひらから放つ光線や鉄扇を武器に、響鬼らと渡り合う戦闘力を発揮。芦名のスレンダーなスタイルがミステリアスさも醸し出していた。

芦名星が演じたスーパー姫

 スーパー姫は精神の成長と共に「自分たちは何のために生きているのか?」と自問するようになる。最後は自らの創造主である洋館の男女に反旗を翻したため、生命の源としていたイガ状の塊を断たれ、消滅していった。

 芦名は『響鬼』終了後、日本・カナダ・イタリア合作の映画『シルク』でヒロインに抜擢。『ブラッディ・マンデイ』や『救命病棟24時(第5シリーズ)』など、主に凜とした女性役でドラマ出演も相次いだ。『相棒』で2017年のSeason15から週刊誌記者を演じていたが、2020年に36歳で他界している。

13歳で悪の幹部を演じた矢作穂香

 『仮面ライダーオーズ/OOO』(2010年9月~)では、矢作穂香(当時は未来穂香)が若干13歳で敵の幹部を演じた。オーズが戦ったのは、800年の眠りから覚めた人工生命体・グリード。矢作は5人のグリードの1人で水棲系のメズールの人間態という役だった。

 メズールは頭部がシャチ、首元にウナギ、脚にタコの吸盤といった怪人然とした姿だが、人間態はティーンの少女でセーラー服や青い服を着ている。他のグリードの面倒を見たり、いさかいをなだめたりと母性愛が強そうに見えて、自身が味わえない愛情をまねしているに過ぎなかった。街中で母子をさらって閉じこめ、本物の愛情を味わおうともした。

 当時の矢作はローティーン向けファッション誌のモデルをしていたが、『オーズ』で美少女ぶりが広く知られるように。その後も人気マンガをドラマ化した『イタズラなKiss~Love in TOKYO』に主演など、コンスタントに活躍した。

 2015年からニューヨークに留学して、帰国後に改名して復帰。大林宜彦監督の映画『花筐/HANAGATAMI』でヒロインを演じた。ドラマでも『ピーナッツバターサンドウィッチ』などに主演し、『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』では男性の家に強烈なダメ出しをするぶっ飛びキャラで新境地を開き、昨年続編も放送された。

 3月12日から期間限定上映される『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』にも出演。新作の完結編で「まさか10年ぶりにメズールができるとは思っていなかったので、びっくりしましたし、本当に本当に本当に! 嬉しかったです!」とコメントしている。

『仮面ライダーオーズ 10th 』に出演の矢作穂香(左から2人目)(C)2022 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映
『仮面ライダーオーズ 10th 』に出演の矢作穂香(左から2人目)(C)2022 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C) 石森プロ・東映

馬場ふみかが治癒を行うアンドロイドに

 竹内涼真が主演した『仮面ライダードライブ』(2014年10月~)では、ドライブに変身する刑事の泊進ノ介らが、進化するアンドロイドのロイミュードと戦った。その幹部の1人のメディックの人間態を演じたのが馬場ふみか。のちにモデルとグラビアの双方で活躍するモグラ女子の代表格となるが、この作品がドラマ初出演だった。

 メディックは黒いナース帽をかぶり、ボディを破壊されたロイミュードの治癒や強化改造を担当。リーダー格のハートから「女神」と称される。一方で、ハートに尽くすためには仲間を犠牲にする冷酷さも持っていた。「~ですわ」といったお嬢様言葉を話すキャラクターだ。

 外見は、ひき逃げされて重傷を負ったバレリーナの羽鳥美鈴をコピーしたもの。バレエのポーズのような仕草を見せるが、馬場自身の特技がバレエで、アドリブで取り入れられたという。最後は進ノ介と共闘。瀕死になった彼を自身の残された力で治癒したのち、笑顔で「ごきげんよう……」と消滅した。

 その後の馬場は『non-no』専属モデルとなり、女優業では『コード・ブルー』の3rd seasonのレギュラーや『深夜のダメ恋図鑑』『百合だのかんだの』の主演などを務めている。現在はヒロイン役の舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』が上演中だ。

ゲストの釈由美子がマンホールで大暴れ

 平成シリーズ20作目で最後の作品『仮面ライダージオウ』(2018年9月~)では、当時は『Seventeen』、現在は『non-no』専属モデルの紺野彩夏が敵役で出演している。子役からのキャリアを持つが、連続ドラマでは初のレギュラー。未来人で歴史の改ざんを目論むタイムジャッカーの1人、オーラを演じた。

 クールビューティーで高飛車。人間にアナザーライダーの力を与え、「あなたは私の傀儡として王になるのよ」「生き残るのは、私」といった決め台詞があった。

 放送終了後には、W主演した青春映画『藍に響け』が公開。ドラマ『いいね!光源氏くん し~ずん2』の紫の上役などでも、クールさで印象を残している。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

 こうして振り返ると、仮面ライダーシリーズの悪役からブレイクした女優たちは、その後の活躍を支える芯となる個性がすでに、非現実的な役の中で活かされていたように感じる。

 なお、『ジオウ』では釈由美子が40歳にして、ゲスト出演した。歴代の平成ライダーの世界と交わったこの作品の『仮面ライダーキバ編』に登場。殺人罪で刑務所に収監されて無実を訴える北島佑子という役だった。オーラの力でアナザーキバに変身して脱獄し、冤罪を晴らせなかった弁護士らに復讐していく。

 ジオウに変身する常盤ソウゴの初恋の人でもあったようだが、アナザーキバの力に酔いしれる祐子は「私は王となる」と暴走。復讐相手を「有罪!」と指差すポーズは、代表作『スカイハイ』の「おいきなさい」を彷彿とさせた。

 釈は「悪役に徹してキレッキレな女王様を演じました」とコメントしていたが、面白かったのはマンホールの蓋で戦っていたこと。ヒールの爪先でマンホールを踏みつけて跳ね上げ、手にすると相手に投げつけたり、攻撃を防御したり。元恋人の教会での結婚式にもマンホールを片手に乗り込み、カオスの様相を見せた。

 2話の出演ながら影響は大きく、釈は一時「マンホール女優」と呼ばれ、鳥取県でポケモンのマンホール『ポケふた』をPRする仕事も舞い込んだ。特撮の仮面ライダーならではの演技が身を結んだ形だ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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