アラニス・モリセット:「私はロックスターの格好をしたお勉強オタク」
アラニス・モリセットが、今また忙しい。
来年5月、彼女のアルバム「Jagged Little Pill」にもとづく舞台ミュージカルが、ブロードウェイで上演開始になる。1995年の世界的ヒットアルバムがどんなふうに舞台化されるのかはもちろん、「JUNO/ジュノ」でオスカー脚本賞を受賞したディアブロ・コーディが初めて舞台ミュージカルの脚本を手がけるというのも、関心を集めている部分だ。それに先立ち、1月には来日公演が控える。日本でのコンサートは、なんと13年ぶり。
そんな彼女が、現地時間24日(日)、L.A.で行われたチャリティパーティに出席した。筆者もボランティアとして関わっている非営利団体ヨガ・ギヴス・バック(YGB)の、毎年恒例のファンドレイジングイベントで、収益はすべて、ヨガ発祥の地インドで貧困に苦しむ女性と子供たちの援助に使われる。
3年前から、このイベントでは、ヨガと瞑想のコミュニティと深くつながり、人道活動も熱心に行ってきた人物に、ナマステ・アワードと呼ばれる賞を贈っている。昨年の受賞者は、受刑者や恵まれない子供たちに無料で瞑想を教える活動を続けてきているデビッド・リンチ。今年はモリセットだ。
グラミー受賞シンガーの彼女は、ヨガ歴が長く、インドも何度か訪れている。長年にわたって数々のチャリティに貢献し、ポッドキャストなどを通じて、健康、環境、人権、芸術、人間関係など、知的な会話を刺激するきっかけ作りもしている人だ。
モリセットは、カナダのオタワ出身。だが、ヨガを始めたのは、90年代初め、ここL.A.だったと、受賞スピーチで明かしている。
「(当時のヨガワークスのオーナー)チャック・ミラーとマティ・エズラティのクラスを受けて、完全にはまってしまったのよ。それからは、どこに行くにもヨガマットを持っていくようになった。ホテルの部屋でも、どこでもやったわ。ライブの体慣らしとして、バックステージで変なポーズをやったこともある。そして、年月を重ねるごとに、それはますます私にとって重要な存在になっていったの。ヨガは、包括的に心を清めていく上での指針をくれる。私は常に自分の心をきちんと意識し、自分に与えられたこの体をできるかぎりケアしてあげたいと思っているのよ」。
悪いニュースをひっきりなしに耳にする今の世の中で、平静な心を保つ上でも、ヨガは効果的だ。
「悪いことばかり聞かされると、人は、 ついついすべてから目を背けようとしてしまいがち。サバイバルのための本能よね。でも、知性というのは、体の中から拡大していくんだと、私は思う。自分の内面で何が起こっているのかに注意を払い、体を動かすと、エネルギーが流れ、命の泉が湧き上がる。静けさへの入り口は、そんな状態にある時に、見つけられるの」。
彼女の書く歌にも表れているとおり、もともと内省的な彼女は、自分のことを「ロックスターの格好をしたお勉強オタク」と言って笑う。彼女のポッドキャスト「Conversation with Alanis Morissette」も、その止まらない好奇心から生まれた。
「この世の中で人々が置かれている状況、人類の起源、人体の謎、同僚との人間関係についてなど、私は、いろんなことに興味を持っている。それらのことについて、私が尊敬するいろんな人から話を聞きたいのよ。どんな職業についていても、情熱の対象は、ほかにもたくさんあるはず。そういったいろんな世界、いろんな側面を、これからもつなげていきたい」。
舞台でモリセットに賞を手渡したのは、昨年に続き、今年もこのイベントに最大規模の寄付をした氷室京介の事務所の代表者。両手を合わせたこの像は、南インドの青年が、2ヶ月かけて制作した。幼い時に父を亡くし、貧しい母によって孤児院に入れられたこの青年は、YGBの支援で学校に通い、芸術を学んでいる。
写真/Kaori Suzuki