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企業と学生双方にとって大きなメリットがある学歴フィルター

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

先日、就職活動中のある学生の体験談がネットで話題となりました。

【参考リンク】ネットで暴露「学歴フィルター」疑心暗鬼の就活生

学歴を“早稲田”に変えたところ、それまで満席状態だった企業セミナーがあっさりエントリー可能となったというものです。いわゆる学歴フィルターの可視化ですね。

「学歴差別だ!」と憤っている人も多いようですが、実は企業側も好きで学歴フィルターを利用しているわけではありません。なぜ企業は学歴フィルターを設定しているのでしょうか。また、それを突破するにはどのような方法があるのでしょうか。良い機会なのでまとめておきましょう。

企業も学生も双方がハッピーになれる学歴フィルター

団塊ジュニアと比べると4割ほど若者の数は減ってはいますが、それでも就活ともなれば人気のある大企業には応募が集中し、50倍を超える競争倍率となります。ちなみに2018年卒の新卒求人倍率は1.78倍でバブル並の売り手市場だと言われることも多いですが、従業員数5千人以上の企業規模に限ってみればたったの0.39倍、逆に従業員数300人未満だとなんと6倍に跳ね上がる状況です(リクルートワークス調査)。

それと90年代の新卒採用と違い、現在は中途採用や第二新卒というオプションも豊富なため、今の大企業は妥協してまで採用枠確保を優先しない傾向があります。求人100人という企業でもきっちり100人確保している企業は少ない印象があります。というわけで、少なくとも大手企業については売り手市場というにはほど遠い厳しい就活が続いていると言っていいでしょう。

さらに言えば、近年はインターンシップという、人事からすれば採用プロセスが2倍に増えるような手のかかるイベントも流行しています。学生を研修施設などに集めて行う“一日インターンシップ”でお茶を濁している企業も多いですが、真面目に各職場に頭を下げて学生を受け入れてもらったり、交通費や保険、勤怠管理まで地道に行っている企業では採用セクションが過労で倒れるほどの負担増です。

こういう状況では、あらかじめ過去の採用実績などから線引きして、採用可能な人材がヒットする確率の高い層に貴重なリソースを集中するのは組織としては当然の選択でしょう。大手ならどこでもやっている話です。たまにメディアに出てきて「ウチには学歴フィルターなんてありません」とアピールしている企業の方もいますが単純に不人気で母集団が少ないだけの話でしょう。

一方、学歴フィルターはふるい落とされる学生の側にも多大なメリットがあります。たとえば、学歴フィルターがまったく存在しなかったとして、自身が首都圏以外の大学に在籍しつつ就活する姿を想像してみてください。確かに商社から大手自動車、テレビ局まで、どの大企業の説明会、面接でも参加し放題ですから、そのたびにあなたは電車に揺られて上京するでしょう。

でもいざ面接に臨めば「はい、はい、本日は以上です」と数分であっさり帰され、それっきり連絡は来ないでしょう。それを何十社も続けるうち、心も財布もカラカラに干からびてしまうはず。学歴フィルターによって、企業はもちろん学生も限られたリソースを有効に活用できるということです。

学歴フィルターは迂回すべき

では、個人は“学歴フィルター”とどう向き合うべきか。筆者のアドバイスは「迂回しろ」です。企業規模にこだわらず就職をし、社会人としてみっちり修行してその企業からも評価されるキャリアを身につければ、かつてフィルターで弾かれた企業に転職することも可能でしょう。ポテンシャルを評価する新卒採用と違い、中途採用ではキャリアが評価されるためです。

特に、中途採用では人事は「前向きなモチベーションの有無」を重視します。地道に叩き上げてかつての夢に再挑戦しに来てくれた人材に好印象を抱くことでしょう。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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