実は4年間も出発できないまま…北朝鮮の「金正恩列車」
北朝鮮の白頭山(ペクトゥサン)観光鉄道は、革命の聖地である白頭山と、両江道(リャンガンド)の中心都市の恵山(ヘサン)を結ぶ路線だ。元々は日本の植民地支配下にあった1940年代に、狭軌(762ミリ)の森林鉄道として一部区間が完成したが、1948年に復活、1970年代になって全区間が開通し、革命の聖地に多くの人を運んだ。
しかし、1994年の大洪水で路盤が流出した。復旧工事が始まったものの度々中断し、金正恩総書記の直接の指示で2015年から再開、2018年に、他の路線からの直通が可能な標準軌の鉄道(1435ミリ)としてようやく完成し、翌年の10月に竣工式を行った。
(参考記事:通勤列車が吹き飛び3000人死亡…北朝鮮「大規模爆発」事故の地獄絵図)
それから4年経ったが、未だに正常運行が行われていないという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道の情報筋は、台風6号(アジア名カーヌン)による大雨で今年8月12日、土砂崩れが発生し、鉄道が土砂に埋もれてしまったと伝えた。その後、復旧工事が行われたものの、きちんと工事が行われなかった区間で再び土砂崩れが発生した。
ただ、この路線は2019年の竣工式の後でも、まともに運行されたことはなかった。
「白頭山観光鉄道は、竣工式を行った後、最初の数日だけ正常運行をするふりをしただけで、今まで一度たりともまともに運行されたことはない」(情報筋)
その原因は、不安定な電力供給にある。
2019年10月、中央は5000馬力の電気機関車、赤旗号2両と客車16両を送ったが、冬の少雨による電圧の低さでまともに動かなかった。そこで、翌年4月、車軸6軸、車輪が12個ついた先軍号を送り込んだものの、またもや電圧の低さで運行できなかった。そして、昨年7月になって、車軸4軸の先軍赤旗1号を送り込んだが、それでもだめだった。
電力供給の不安定さに加え、勾配のひどさも影響していると思われる。この路線の正確な数値は不明だが、近隣を走る白茂(ペンム)線の場合、勾配は33パーミル。1キロ進むと33メートルの高さを登るという計算だが、日本の鉄道の勾配の限界である35パーミルに近い。
北朝鮮の鉄道には、このような急勾配区間が多く、線路の整備状態が悪いため、しばしば大事故が起きている。
別の情報筋によると、先軍赤旗号の導入をきっかけに、定員60人の客車6両から、定員40人の客車6両に入れ替えて負荷を減らしたが、それでも複数の急勾配を登れなかったという。
直流の赤旗号は3000ボルト、交流の先軍号、先軍赤旗号は2800ボルトの電圧が供給されれば問題なく運転できるという。元々の狭軌鉄道ならば、負荷も軽く、電力事情が多少悪くとも問題なく運転できたのが、見栄えを考えたせいか、標準軌に変更したことで無用の長物と化してしまった。
このように、金正恩氏の実績としてプロパガンダ用に使うだけ使って、実用に耐えないという施設は全国に数多く存在する。