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北朝鮮「デニムパンツ履き替え」で見せしめ…体のラインが出てもダメ

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮当局に連行された女性(デイリーNK)

「服の乱れは心の乱れ」

日本の教育現場では、抑圧的な管理教育が頂点に達していた1980年代、頻繁に服装や髪型の取り締まりが行われていた。生活指導の教師は、少しでも校則から逸脱した服装をした生徒に暴力をふるったり、上記のようなセリフを吐いたりした。生徒の頭髪を強制的にハサミで切るなど、今では暴行・傷害の罪に問われかねない行為も横行していた。

服装や髪型、持ち物が個人の「精神」とどう関係しているか、客観的なエビデンスなど存在しないだろうが、そんなことは関係ない。理不尽な「決まり」に従わせることでコントロール下に置くという、軍隊的な教育手法が当たり前の時代だったのだ。

国全体が暴力教師と言っても過言ではないのが、今の北朝鮮だ。

非社会主義、反社会主義のレッテルを貼って、当局の気に入らないありとあらゆるものを国民から奪い、無理やり抑え込もうとする。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)慶源(キョンウォン)郡の炭鉱では、服装が社会主義にそぐわないというだけの理由で、労働者が吊し上げに遭った。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃

この炭鉱連合企業所の会館で今月10日、「社会主義に合った服装をすべき」というテーマの政治講演会が行われた。

壇上に立った朝鮮労働党の炭鉱の委員会の書記は、次のように述べた。

「服装は、人の精神状態を反映する」

この言葉、実は故金正日総書記の次のような「マルスム(お言葉)」からきたものだ。

「服装には、人の思想状態が反映され、その人の美学観が表されます」

炭鉱の書記は続いて、炭鉱内の青年同盟(社会主義愛国青年同盟)のメンバーの髪型や服装の実例を槍玉にあげた。

韓国式のヘアスタイル、体や胸の線が現れる服装などだが、これについて書記は「思想の変質は服装から現れる、党が定めた通りの服装や髪型をしない者は安全部(警察署)の世話になることになる」と警告を発した。

講演会終了後には、思想闘争会議という名の見せしめショーが始まった。

坑道掘進中隊所属のキムさん(40代男性)は、坑道に入るときにカバンに入れておいたデニムパンツに履き替えて作業に挑んだことが問題視された。書記の批判に対してキムさんは「デニムは破けにくいので、坑道の中で作業をするときだけに履く」と反論した。実際、デニムは作業服として生まれたものだ。

しかし、書記は「批判を受け入れないのか」と激しく批判し、結局キムさんに労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)で1カ月の無報酬労働を行う処分を下した。

また、採炭中隊のムンさん(50代男性)も、同様の理由でデニムジャケットを着用したとの理由で吊し上げに遭った。彼は「古着屋から買っただけ」だと釈明した。米国のものとは知らずに購入したことが判明し、労働鍛錬隊送りは免れたが、壇上でジャケットを、ハサミを使って自分の手で切断させられた。これを見た労働者は、言葉を失ったという。

一連の吊し上げを目の当たりにした労働者は、不満たらたらだ。

「21世紀にもなって服のせいで労働鍛錬隊送りはひどすぎる」

「50代だったらまもなく定年なのに、人々の前でジャケットを切らされるなんて」

一方、チョンさん(20代男性)は髪の毛にパーマを当てたとの理由で、「最近、西洋のように男がパーマを当てる現象が増えている」と批判を受けた。しかし、彼は元々かなりきつい天然パーマ。それを知っている同僚たちは、党関係者を鼻で笑ったという。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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