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【Covid-19】新型コロナウイルス感染症を「災害」としてとらえた政策を―弁護士が緊急提言

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・博士(法学)・気象予報士
災害対策基本法等で国民の生命と生活を守る緊急提言(令和2年4月16日)

■新型コロナウイルス感染症を「災害」と捉える

 「災害」とは何か。

 災害対策基本法(災対法)に定義がある。

 災対法では、「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」が「災害」だとされている(法2条1号)。そして、政令では「放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故」などが追加明記されている(災対法施行令1条)。

 地震や天候による自然災害だけが「災害」ではないし、政令レベルで柔軟に対応することを法律がそもそも予定しているといえる。既存の法律の定義を柔軟に解釈することで、新型コロナウイルス被害に伴う直接被害や間接的な経済被害等を「災害」と捉える余地は十分あり得よう。少なくとも「政令が定める原因」について、災対法施行令1条を改正し、「感染症等」を加えることが不合理とは思えない。

■弁護士らによる緊急提言

 2020年4月16日に「災害対策基本法等で国民の生命と生活を守る緊急提言」を有志弁護士らか発表した。提言の中心を担ったのは、阪神・淡路大震災、東日本大震災、近年の台風・豪雨災害においても、最前線で復興支援に関わり、行政とも協働して法改正にもかかわってきた弁護士たちだ。

 緊急提言は、新型コロナウイルス感染症の拡大という事象を「災害」と捉えることで、法的根拠に基づいた、有効な感染症まん延防止政策がとれると指摘する。具体的には、次のような項目を例として挙げる。いずれも過去に例をみない活用方法であることは間違いないが、可能な限り国民の生命を最優先に考える措置をとるべきであろう。

(1)自宅待機の義務付けが可能になる

 災対法の適用で、市町村長の指示に基づき、法的義務として、市民に、屋内での待避等の安全確保措置を指示ができるようになる(災対法60条3項)。

(2)警戒区域の設定で特定の者以外の立ち入りを制限できる

 たとえば、感染拡大地域、感染拡大増加傾向の地域を警戒区域と設定し、特定の者以外の立ち入りを制限するなどの政策が考えられる(災対法63条1項)。違反した場合には罰金などの罰則も定められている。

(3)解雇しなくても失業給付を受けられる

 たとえば、感染拡大地域や感染拡大増加傾向地域を「激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(激甚法)の適用地域とし、かつ「激甚じん災害時における雇用保険法による求職者給付の支給の特例」を適用することにすれば、事業者が雇用者を解雇することなく、雇用者を休業させたうえで雇用保険金を受給させることができる。

■一人ひとりに寄り添い、国民の命を守る

 緊急提言の発起人のひとりであり、災害と法分野の第一人者である津久井進弁護士はこう語る。

 「新型コロナウイルスの感染拡大という事象は、まさに災害そのもの。災害であるなら、これまで災害復興支援経験を積み上げてきた国、自治体、民間団体などの被災者支援マインドや、被災者の生活を支えてきた法律のノウハウを生かせる。経済支援の基本は「一人ひとりに寄り添う」ことにある。家にこもって人間が見えなくなっている今、あらためて一人ひとりの困りごとに光を当てて、救済のあり方を考えていきたい。」

 どんな種類の危機であっても、ひとりひとりに寄り添うことが、危機における支援の原点なのだろう。

 また、今回の提言は第1弾であり、さらなる緊急提言も検討しているとのことである。

■コロナ感染症の経済支援は災害復興支援と共通

 自然災害を契機として、これまでの被災者支援で大きな効果を発揮したと思えるのは、やはり「現金の給付」と「支払停止・債務減免」である。

 現金給付については、災害時には「被災者生活再建支援金」や「災害弔慰金」など、被害に応じたまとまった給付がある。「義援金」も忘れてはならない。なお、被災者生活再建支援金と災害弔慰金は、根拠法の改正により既に「差押え禁止」の措置がとられているので、安心して受け取れる。また、「義援金」については、過去の大規模災害については都度特例により「差押え禁止」の臨時措置がとられている。これらの災害支援に倣えば、コロナ感染症関連の各種給付金に対しても、差押え禁止の特別立法措置を行うことが必須になると思われる。確実な現金給付支援は、感染症の経済支援にも共通して効果があるはずだ。

 東日本大震災では、ローンなどへの支払停止措置が被災者を窮状から救った。フラット35を扱う住宅金融支援機構などでは、東日本大震災直後に、最大5年間の支払猶予措置を発表した。また、メガバンクや地方銀行も数年単位の支払猶予措置を、金融庁の要請や住宅金融支援機構に追随する形で行った実績が過去にはある。そして、その猶予の間に、救済制度が出来上がったのも印象的だった。個人のローンについては、破産におけるブラックリスト登録といったペナルティのない「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(被災ローン減免制度)という画期的な制度が、2011年7月にできた(その後「自然災害債務整理ガイドライン」として恒久化)。ただし、現在のところ、自然災害債務整理ガイドラインが利用できるのは「災害救助法適用の自然災害」の影響がある場合に限られる。

 同じ制度を使うことができないとしても、これまで大災害の経済復興のために行われてきた支援策は、新型コロナウイルス感染症における経済支援のヒントになると信じたい。

「災害対策基本法等で国民の生命と生活を守る緊急提言」(令和2年4月16日)全文PDF

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銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・博士(法学)・気象予報士

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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