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JR東海 未整備だった在来線特急のネット予約を西日本「e5489」で解消へ

小林拓矢フリーライター
静岡~甲府間の特急「ふじかわ」(ペイレスイメージズ/アフロ)

 JR東海は、12月19日にJR西日本の「e5489」会員になった人が予約したきっぷを主要駅の指定席券売機などで受け取れるようにすると発表した。サービス開始は、来年の4月1日からだ。「ひだ」「南紀」「しなの」などの在来線特急のきっぷや、東海道新幹線と在来線の乗継割引を適用したきっぷなどが受け取れる。「ふじさん」「サンライズ」は、取り扱い対象外となる。

 JR東海が「e5489」を導入することで、他社と同等のネット予約環境になり、これまで在来線でネット予約できなかったという不便が解消される。なお、他社サービスを導入した例として、JR四国・JR北海道がある。

 JR各社のネット予約システム。実はかなり不便なものである。JR東日本の「えきねっと」で予約したものは、JR西日本の北陸新幹線各駅を除きJR東日本とJR北海道の券売機や「みどりの窓口」でしか受け取ることができない。JR西日本の「e5489」とJR九州の「インターネット列車予約」は、JR西日本・JR四国・JR九州の券売機もしくは「みどりの窓口」でしか原則きっぷを受け取ることができず、JR東日本の駅で受け取ることができるといっても23区内の駅と東京周辺のJR東日本の新幹線駅、北陸新幹線の停車駅だけである。

JR東海が抱えていたネット予約の問題点

 そんな中、JR東海はいままで在来線特急のネット予約システムを整備しないままでいた。JR東海は、これまで「エクスプレス予約」「スマートEX」といった新幹線のネット予約システムに力を入れていた。だがこれは、新幹線だから可能だったともいえるものだった。

 これらの予約システムでは、チケットレス乗車か、駅の券売機などできっぷを発券する。きっぷの場合のシステムを拡張して在来線のネット予約システムを構築してもよかったものの、JR東海が力を入れていたのは、新幹線のチケットレス乗車である。

 このチケットレス乗車は、専用の非接触ICカードを利用者に配布する、もしくは既存の交通系ICカードをそのかわりに使用するというものである。だがこれは、新幹線だから可能だともいえるものである。

 新幹線に乗る場合、新幹線専用の改札口から乗車する。在来線から乗り継ぐ場合でも、中間改札を通る。そこで、座席の印字された紙が出力される。

 もし在来線でこのようなチケットレスサービスを使用する場合、在来線の改札機ではできないのだ。

 しかし、独自の在来線のネット予約サービスを行うには、JR東海は在来線特急が少なすぎるという問題もある。「しなの」「南紀」「ひだ」「伊那路」「ふじかわ」、ほかに小田急に乗り入れて新宿をめざす「ふじさん」しかない。

 新幹線メインの企業体制、乗客も新幹線に比較してはるかに少ないこれらの列車のために、独自のネット予約サービスを行うのか? となるとちょっとむずかしい、ということになる。

 一方で、利用者からのネット予約サービスへのリクエストは確かにあり、またJR東海も必要ではあることは感じていただろう。

「e5489」をJR東海が導入することの意義と今後の課題

 JR東海が「e5489」を入れたことの意義は、JR東海ほどの大きな企業が、不得手な分野を他社に任せたということである。JR東海は東海道新幹線に強みを持つ、というか東海道新幹線と名古屋圏の在来線にしか強みのない会社であり、それ以外の分野は決して状況がいいとはいえない。しかしそこにもサービスは必要だ。

 そこで、他社のサービスを利用する。それも、JR四国で利用実績のあるサービスを利用する。東海道・山陽新幹線でふだんから関係の深い、「エクスプレス予約」や「スマートEX」もいっしょにやっているJR西日本のサービスだ。JR東海はたいへん賢い選択をした。

 ただし問題がある。発表段階では、JR東海の主要駅にある指定席券売機で受け取れるだけで、そうではない駅の指定席券売機では受け取れない。

 JR東海の特急には、JR東日本エリアに乗り入れる「しなの」や、終点がJR東日本の駅である「ふじかわ」がある。これらの駅で「e5489」が使用できるようにしないと、利用者の目から見ると意外と不便、ということになる。

 駅の指定席券売機によっては、複数社の予約サービスを扱えるものもある。たとえば、金沢駅の券売機では、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州のネット予約サービスからの発券ができるようになっている。「e5489」も扱える指定席券売機を、少なくとも松本、塩尻、甲府には導入すべきである。

 現行の発表のままでは、他社との境界駅などではどうするの? という課題が残る。このあたりの課題は、JR東海には解決するようお願いしたい。

訂正 「e5489」を扱える指定席券売機は、北陸新幹線の通る長野駅にはあります。また北陸新幹線の停車駅では「e5489」を受け取れます。おわびし本文を訂正します。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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