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バルサのしくじり。センターバック補強は約200億円をどぶに。フランス代表ウンティティは適合する?

小宮良之スポーツライター・小説家
フランス代表でポグバと語らうウンティティ。(写真:ロイター/アフロ)

今シーズンのオフ、FCバルセロナが最も力を入れてきたのは、センターバックの補強である。生え抜きのスペイン代表マルク・バルトラが出場機会の少なさに不満を訴え、ボルシア・ドルトムントへ移籍。計算できる本職のセンターバックは、ジェラール・ピケ一人という危機に陥っていた(ハビエル・マスチェラーノは元来、ボランチの選手でユベントス移籍の噂が)。

「バルサのセンターバックは守備で攻撃に晒される一方、攻撃ではその起点となることが求められる」

この条件に見合う人選は難航を究めていたが――。

フランス代表でEUROメンバーのサミュエル・ウンティティと合意している。正式な入団発表はEURO後(もしくはフランスが敗退後)になるが、オリンピック・リヨンに支払う移籍金は上限にしていた2500ユーロ(約30億円)になる。ルイス・エンリケ監督もゴーサインを出していた。

ウンティティは22才と若く将来性豊かで、世界的に希少な左利き。カメルーン系の選手で、速さと強さと高さを兼ね備え、足下の技術も不足はない。元フランス代表のエリック・アビダルに近い印象のディフェンダーだろう。

しかしウンティティがバルサに適合するかは、ふたを開けてみなければ分からない。

バルサは過去15シーズン、センターバックは補強で失敗し続けている。莫大な移籍金をどぶに捨ててきたも同然である。

01年に1600万ユーロで獲得したフランス人フィリップ・クリスタンバルは失格の烙印を押され、早々にチームを去った。07年に1700万ユーロで入ったアルゼンチン代表ガブリエル・ミリートは怪我の不運があったものの、ほとんどプレーせずに退団。08年にはブラジル代表エンリケが800万ユーロで契約するも、1試合の出場もならず、同じくウルグアイ代表マルティン・カセレスは1650万ユーロで入団も練習要員のまま、翌シーズンにチームを離れた。

09年にサインしたウクライナ代表ドミトロ・チグリンスキーは移籍金2500万ユーロで「グアルディオラの乱心」と言われるほどのハズレだった。12年にはカメルーン代表アレクサンドル・ソングが1900万ユーロで入団も、1年で厄介払いされた。14年に移籍金1500万ユーロ、5年契約を結んだベルギー代表トーマス・ヴェルメーレンもベンチを温め、「金食い虫」と揶揄される始末。同年、2000万ユーロの移籍金で契約したフランス代表ジェレミー・マテューは控えとしては貴重だが、定位置はつかめていない。

「バルサは攻撃の比重の高いシステムだけに、センターバックは定着が難しい。ボランチやサイドバックにつけるパス精度だけでなく、数的不利でも守れるタフネスとインテリジェンスが求められる」

かつてSDだったチキ・ベギリスタインは説明しているが、欧州のトップリーグで華々しいプレーを見せていたセンターバックでも、バルサでは喘いでいる。後方からポゼッションを司る特殊な役割だけに、相当に高いレベルのスキルが求められる。人の動きも、ボールの動きもオートマチズムがあるのが特徴だろう。必然的に、カルラス・プジョル、オレゲル、ピケ、バルトラら生え抜き選手が定位置を得ている。

外国人選手で興味深いのは、マスチェラーノやアビダルのように本職はボランチ、もしくはサイドバックの選手が、センターバックとして適合するケースが多い点だろう。マテューも、サイドバックとしての獲得だった。一方でバルサ育ちのセンターバック、マルク・ムニエサは、プレミアリーグのストーク・シティに移籍後は左サイドバックとしてプレーしている。

そこで、バルサのロベルト・フェルナンデスSD(スポーツディレクター)は、バイエルン・ミュンヘンでサイドバックやボランチを務めるダビド・アラバに"恋慕"してきた。アラバは卓抜とした身体能力とボールプレーヤーのセンスを併せ持ち、世界的に希少な左利きディフェンダーで、なによりトータルフットボーラーとしての質が高い。クラブは粘り強く説得を続けてきたが、交渉は決裂した。

次にバルサが"恋文"を送ったのが、アスレティック・ビルバオのエメリック・ラポルトだった。マルセロ・ビエルサが発掘したオフェンシブな才覚を持つ左利きCBで、スケールが大きく、理想に近かったものの、5000万ユーロという移籍金に尻込みしている(マンチェスター・シティはこれを支払う用意があったが、結局、ラポルタは給料倍増で残留を表明)。

ロベルトSDは懲りずに、ブラジル代表のCBマルキーニョス(パリSG)に声をかけた。しかし4000万ユーロの移籍金を支度できなかった。その後も、ゴディン、ミランダ、ホセ・ヒメネスら新旧アトレティコ・マドリーのセンターバックもリストに入れたようだが、契約には至っていない。左利きという条件から外れ、そこまで夢中になれなかったといったところか。

総じて見ると、ウンティティは最善の選択だったように思える。ただ、再び過去の轍を踏む可能性もある。それほどに、バルサのセンターバックは適応が難しい。

ルイス・エンリケ監督が、バルトラを宥めながら重用できなかったことが悔やまれる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。