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サイボーグ009とエイトマンは、どちらが速い? 勝負を決める条件が意外すぎる!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

1960年代に活躍したヒーローの「エイトマン」と「サイボーグ009」が、いま盛大に戦っているのをご存じでしょーか? 

秋田書店の「チャンピオンレッド」という雑誌で、その名もズバリ『8マンVSサイボーグ009』というタイトルのマンガがシリーズ連載(毎号載るわけではない)されている!

2人ともスピードが自慢のヒーロー。

60年代のアニメでは、エイトマンは「弾よりも速く」と謳われていたし、009は「加速装置」を稼働させてマッハ3で疾走した。

しかも、それぞれの番組オープニングで、どちらも新幹線と並んで走っていた。当時「夢の超特急」と呼ばれた0系新幹線と比べることで、彼らは足の速さをアピールしたのだ。

それから半世紀を経た今回の連載でも、両者の速さが強調された。

連載開始にあたっては「世界的スピードスターが衝撃の大激突!! 最速最強は、どちらだ!?」というコピーが躍り、第4話では2人がスピードを競い合い、なんといっしょに新幹線を抜き去る……という場面も登場した! これはやっぱりワクワクしました!

その連載の両者は、その後ガチで激突して、ちょっと凄惨なことになっていたりするのだが(気になる人は、発売中の12月号を読もう)、筆者としてはここで、原作版の描写をもとに「エイトマンと009はどっちが速いのか」をキチンと考えてみたい。

◆新幹線と比べていいの?

エイトマンは、職務中に命を落した東八郎刑事の記憶と人格が移植されたロボットだ。

私立探偵を装いながら、警視庁捜査一課8番目の刑事として、悪と戦う。キャッチフレーズなどでは「走れエイトマン、弾よりも速く」と足の速さが強調されていた。

この「弾より速い」とは、どれほどのスピードなのか。

調べてみると、ピストルの弾丸の初速は、秒速200m台から600m台。ライフル弾は秒速600m台から900m台。

「弾よりも速い」がこれらのどれよりも速いのだとしたら、エイトマンは秒速1000mほどで走れるのではないだろうか。

秒速1000mとは、時速3600km。これはたいへんなスピードだ。

100m走のタイムは0秒1。人間と比べると、ウサイン・ボルトの95.8倍である。

ここまで速いとなると、新幹線を相手にスピードをアピールするのはいかがなものか、という気もしてくる。

0系新幹線の運転速度は、時速210km。エイトマンは時速3600kmだから、その17倍も速いのだ。アニメのオープニングでは、最後には抜き去っていたが、そんなに速かったら当然である。

一方、サイボーグ009の俊足ぶりは?

『サイボーグ009』は、体のほとんどを機械に置きかえられながら、人間の心を失わない9人のサイボーグたちが、悪の商人集団「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」に立ち向かう物語だ。

彼らのリーダーがサイボーグ009=島村ジョーで、奥歯に仕込まれた「加速装置」のスイッチを入れると、マッハ3で走ることができる。

マッハとは、音速の何倍かを表わす単位である。音速は気温によって変わり、地球の平均気温に等しい15度のとき、秒速340mだ。

すると、マッハ3とは秒速1020m。なんと、エイトマンの秒速1000mよりちょっとだけ速い!

009の100m走のタイムは0秒098で、エイトマンとの違いはわずかに0.002秒。

足の速さで鳴らしてきた2大ヒーローは、本当にモノスゴク競っていたのだ。

◆勝敗は場所によって変わる!

しかしこれ、エイトマンにとっては、悔しすぎる敗北ではないか。差がわずかなだけに、無念きわまるだろう。

ぜひとも練習を重ねてリベンジを果たしたいと思うだろうが、彼はロボットだから、練習によって足が速くなるのかどうか……。

ところが、空想科学的に考えると、エイトマンにも勝機はありそうなのである。

前述したように、音の速さは気温によって変化する。

009の「マッハ3」が「音速の3倍」という定義に忠実ならば、そのスピードも気温によって変わることになる。

音速は、気温が下がると遅くなる。

したがって、気温15度のもとでは009に僅差で敗れるエイトマンは、もっと寒いところで勝負をすればよい。

具体的には、マッハ3が秒速1000m以下、すなわち音速が秒速333m以下になる気温、ってことは摂氏3.5度以下のところがおススメだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

たとえば、11月でも北海道の旭川や夕張、女満別などでは、平均気温が3.5度を下回っている。

12月に入ると、北海道の全域と東北地方のかなりの部分がこれを下回る。

1月は新潟、富山などの日本海側や長野の全域も3.5度以下になり……と、この先エイトマンに有利な場所がどんどん増えてくるのだ。

東京でも、1月と2月は最低気温がこれを下回るから、夜明け前のいちばん寒いときに勝負を挑めば、エイトマンが勝てるのではないだろうか。

――ヒーローたちの熱い戦いを科学的に考えると「勝負というものは、どう転がるかわからない」という結論に至る。これ、なかなか嬉しい結論だと思うのだが。

※エイトマンの表記は、マンガが「8マン」、アニメが「エイトマン」

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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